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第4章 学園編、乙女ゲームが始まる準備をしよう

中二病の武器、3ヶ月に一度のアレの気配が…

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冒険者ギルドの裏手の路地は、武器を象った看板がぶら下がった建物が並んでいる。それ以外にもポーションを売る薬屋、ダンジョンからの発掘物を買い取るなんでも屋など、冒険者相手のお店が多い。

表通りの洗練した王都の街並みと違い、ここは武骨な雰囲気が漂う。道行く屈強な冒険者たちに混ざって、俺たちもその裏路地歩く。


……確か、この辺りに……。あった。


「……ここの武器屋にしよう。」

そう言って俺は、三角屋根のこじんまりとした建物の前で足を止める。屋根から伸びる煙突から、もくもくと白色の煙が上がっていた。


一見すると、普通の家にも見えそうだが、外壁に素っ気なくぶらぶらしている銀色の看板に『アルマ・アルテサーノ』という、武器職人を表す言葉が書かれている。


乙女ゲームではお馴染みだった、お抱えの職人を持つ武器屋だ。規模が小さい武器屋に思うかもしれないが、売り場以上に大きな倉庫がこの店の裏にはあるのだ。

そこには、名工が作り出した一品から、ダンジョンで見つけられたレアアイテムまで、何でも揃っている。自分たちの納得する物しか売らないし、作らないという徹底ぶりだった。


ゲームで見たまんまの外観に感動しつつ、俺は飾り気のない四角いドアを開けた。


「……いらっしゃい。」

筋骨隆々の男が、厳つい顔をしながら素っ気なく出迎えてくれた。カウンター越しに椅子に座り、スキンヘッドがきらりと光る。

愛想をしないあたりは、一癖も二癖もある冒険者たちに合わせてのことだろう。


「……すごい。弓もたくさんある。」

リュイが店の中を、きょろきょろと物珍しそうに見渡している。ところ狭しと部屋の中に並べられた武器に、驚きの声をあげていた。


店の壁には剣だけではなく、弓、槍、さらには大型の斧の形をした武器が陳列されている。

木製の柄に鎖が繋がっているあの武器……。鎖の先に鉄球が付いているし、モーニングスターというやつではないか?始めてみた……。
そんな珍しい、厳つい武器まであった。


樽の中に乱雑に入れられた剣から、ガラスケースに入って棚に飾られた妖刀、鎧等、武器に関するものは何でも揃う。


3人は初めて入るが、俺はゲームで何度も訪れているため迷うことなく奥のカウンターへと向かう。


「こんにちは。……すみません、この素材でオーダーメイドの武器を作ってほしいのですが……。」

新聞に向けていた視線が、チラッと俺に移動する。俺はマジックバッグから、先ほど入手した巨大な『オリハルコンの鱗』を取り出した。


俺が出した『オリハルコンの鱗』をじっと検分するように、鋭い目付きで見遣る。


「……全部で何枚ある?」

「25枚以上はあります。」

枚数を述べたところで、ピクッと男性が片眉を上げた。新聞を折り畳みカウンターに置くと、椅子の上で崩していた体勢を正す。


カウンター上にある『オリハルコンの鱗』を興味深げに見たあと、俺をひたっと見据えた。


「っ!……ほう……。何を作ってほしいんだ?」

「……蛇腹剣を彼に。」


そう言って、俺は傍らにいたガゼットを手で示した。俺の「蛇腹剣」という言葉に、一瞬男性は目を見張る。そして、厳つい顔を一層しかめた。


「っ!!……あれは癖のある剣だぞ?扱いが難しい。」

男性は顎髭を撫で、俺に向けて警告する。

蛇腹剣は、沢山の刃が一本の軸で繋がっている、蛇のようにしなやかに曲がる剣だ。独特のしなる動きで、変に動くと対象以外も傷つけてしまうことのある、難しい剣。

だけど……。


「……彼には、普通の剣では戦い難いんです。」

顎髭を撫でていた手をそっと降ろし、今度はガゼットに視線を移した。上から下までゆっくりと遠慮なく観察している。


「……お前さん、ちょっと中庭に来な。」

「…っえ?……はぁ。」

男性はそう言うと、着いてくるように目線でガゼットに促す。俺たちは、店の奥へと消えていく男性の後を追った。

店の奥へにある、裏口の扉が男性によつ開かせる。そこに広がっているのは、草が繁る広い庭だった。中庭の中央には、太い丸太が何本か立っている。


この場所は、実は何度か乙女ゲーム内で訪れたことがあった。
客が武器を試し斬りしたり、実際に武器に魔力を流して魔法を発する場所。

男性は俺たちを中庭に案内すると、少しの間待つように言う。しばらくすると、一本の剣を手にして戻ってきた。


「……これを、振ってみろ。」


そう言って、男性はガゼットに茶褐色の鞘に収まった剣を渡した。鞘から見ても、大分細身な剣な気がするが……。


ガゼットは剣を受けとると、腰のベルトに装着した。金色の柄に手をかけると、ゆっくりと刀身を引き抜いた。


「っ?!!……なんだこれ?」

鞘から現れた剣が、普通でないことにガゼットも気が付いたようだ。鞘から抜け出す時は、1本の硬い長剣のようにピンっとしていた。

しかし、ガゼットが軽く剣を振る動作をした瞬間、シャラシャラと音を立てて剣がグニャリと曲がったのだ。良くみると、1本の長剣に見えたそれには、幾つもの切れ込みがある。

切れ込みに合わせて、剣も綺麗なシャラっとした音を立てしなやかに踊るのだ。


「……好きに、動いてみろ。」

男性にそう言われたガゼットは、戸惑いつつもその細身の蛇腹剣を使って丸太を切り刻む。


「…すげぇ……。なんか、しっくり来る……。」

端から見ていても、ガゼットは水を得た魚の如く、爛々としながら蛇腹剣を見事に使いこなしていた。男性はガゼットの様子を観察し、何度か頷いたあとに俺の横に近づいて呟いた。


「お前さん……、良くアイツが蛇腹剣を使いこなすと見抜いたな?……蛇腹剣自体、そんなに存在を知られていないんだが……。」

不思議そうに質問してくる男性に、ガゼットの動きを見ながら答える。


「……偶然、その存在を知っていただけです。それに、ガゼットの動きに長剣は単調過ぎるんです。もっと、柔軟に動く剣があればと考えていたときに、蛇腹剣を思い出しました。」

蛇腹剣は、見た目がカッコいいんだよ。それに、普通の剣とは違う独特の動きが、なんとも男心を擽るのだ。

男性は俺の言葉に「へぇ……。」とだけ呟くと、パンッ!と両手を打ってガゼットに試し斬りを終えるように合図した。


「もっとお前さんに合うような、蛇腹剣を作る。……久々に面白そうな仕事で、腕が鳴るな……。」

男性はガゼットにそう言うと、俺たちから『オリハルコンの鱗』を預り、武器の詳細を話し合う。かなりの時間話し込んで、辺りはすっかり暗くなっていた。


「よしっ!完成するのを楽しみに待ってな!!」


男性は厳つい顔を紅潮させ、興奮した様子で俺たちを送り出した。


「自分だけの武器を作ってもらえるなんて、初めてだ。」

楽しみだなぁっと、子供のようにはしゃぐガゼットを、皆でクスクスと笑いながら寮へと急いだ。今日は、ダンジョンにも潜ったし、武器の作成依頼もして、冒険者活動を楽しんだな……。



くそっ。こんな楽しいのに……。


俺はさりげなく、中指に嵌めている幅広の指輪をずらした。
左手の中指の付け根が、熱を帯びる。


この感覚は、いつも慣れない……。


「……今度はなんの状態異常だ……?」

中指の黒色の茨が伸びて、黒色の花の蕾が毒々しく芽吹いている。


まるで、自分の命を吸いとられて、花が咲こうとしているようにも見えた。



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