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第4章 学園編、乙女ゲームが始まる準備をしよう
入学式、新たな課題と攻略対象者たち
しおりを挟む「ヒズミ―、着替え終わったー?」
「ああー、もう大丈夫だー。」
扉の外からソルの声が聞こえて、俺もソルに聞こえるように声を張り上げた。準備を整え終わった俺は、自室の扉のドアノブに手を掛ける。
寮の部屋はソルと同室になった。真ん中に小さなキッチンがあるリビングルーム、その両サイドに各個室がある寮室だ。プライバシーを重視しつつ、お互いに交流もできるように考えられている。
俺たちは、「せーのっ!」でお互いの部屋のドアを開けた。ガチャっ!という音を同時に立てて、向かい側の扉が勢いよく開いた。
「……ソル、本当に制服が似合うな。なんて、かっこいいんだ。」
俺はソルの制服姿に、感嘆の声を上げていた。今日になって初めて、お互いに制服姿を披露する。
攻略本に記載されていた、ソルの姿そのものが目の前にいる。国立学園の制服に身を包んだソルは、若者の勇ましさもありつつ、気品に溢れていた。
言われなければ、平民出身だと誰が思うだろうか。
鍛えられた身体に、高貴な色である黒紫色の制服をピシッと着こなす。身長がさらに伸びて、しなやかな足と手。軍服に似たかっちりとした服装が、スラリとした身体を強調する。
マッスルな筋肉と言うよりは、必要な場所にしっかりと柔軟性のある筋肉を付けた細マッチョで、腰も細くてスタイルが良いのだ。
黄金色の太陽の髪と、裾に施された金糸の線がなんともマッチしていてカッコイイ。詰襟でさらにシンプルなデザインだからこそ、ソルの若く意志の強い美貌が引き立つ。
乙女ゲーム開発者は、ソルに合わせてこの制服を作ったのではないだろうか?
そんな風に思わせるほど様になっていた。俺はこの世界に来て初めて、日本のイラストレーター様を拝んだ。
なんて、良い仕事をされたのだ。
……まさに眼福。……ありがとうございます。
まじまじとソルの制服姿を見ていると、ソルは目を見張ったままその場で固まっている。俺の誉め言葉さえも、耳に入っていなかったようだ。
「……ソル?」
黙ったままでいるソルが不思議で、俺はソルの名前を呼んだ。俺の声で、ソルは我に返ったようだ。長い思考の時から、帰って来たらしい。おかえりなさい。
そんなに固まるほど、俺の制服姿は変なのだろうか……。
制服なんて何年ぶりだろう。袖を通すときには、コスプレをするように思えてなんだか恥ずかしかった。
「………ヒズミ、すごく制服似合ってる……。」
すっっごく間を置いてから、ソルが気まずそうに眉を寄せて俺に言ってくれた。
ソルの顔をそんなに歪ませる程、俺の制服姿は馬子にも衣裳のようだ。言葉を詰まらせてまで、言わせてごめんなさい。
分かっていたさ……。
このシンプルなデザインの制服は、着る人をとても選り好みすることを……。ぼんやり顔の俺が着れば、そりゃあこの制服のビシッとした雰囲気も霞むだろう。
「……ちょっと待って、どうしようこれ……。」
こんなの、隠しようがないじゃないか……。
小さなソルの呟きを、俺は聞き逃さなかった。俺は自嘲気味にため息を零した。
「……ふっ、隠さなくて良いぞ?ソル。俺には似合っていないのだろう?周りの人が見慣れるまで、我慢するしかないな……。」
制服は特例以外、学園内で必ず着用しなければならない。1週間もすれば、皆の目が俺にも慣れてくれるだろう。
というか、俺はあくまでも美貌のソルの隣に付き添う、ただのモブ。ソルの太陽の美貌に俺など霞むだろう。
「……違うよ、ヒズミ……。……でも、そうだね。見慣れるかもしれないね……。」
これ以上は自分の心が、細枝のようにぱっきりと折れてしまいそうだ。2人で、もだもだと話をしていると部屋の時計がチリンッと可愛らしいベルの音を鳴らした。
「っ!もう、こんな時間!……行こう、ヒズミ。」
「そうだな。入学式に遅れないようにしないと。」
ソルに手を引かれながら、俺たちは寮室を速足で後にした。
そう、今日はこれから国立学園の入学式があるのだ。俺たちは急いで会場の講堂へと足を運んだ。
ちなみに1学年時には、聖女である主人公はまだ学園にはいない。この時点では覚醒せず、聖魔法が使用できないのだ。2学年になると、突如として王家の意向により編入させられる。
大きく古めかしい講堂で行われた入学式。厳かな雰囲気の中で、大勢の生徒が注目したのは、新入生挨拶だろう。
「新入生代表、アウルム・カヴァリエ・オルトロス」
「はい。」
この何百人と生徒がいる中で、その男子生徒は最初からひと際目立っていた。落ち着いた声音で司会に返事をすると、コツ、コツと靴音を鳴らして壇上へと姿を現す。
佇まいだけで高貴な人間だと分かるほど、その生徒は洗練され、若いながらに人を統べるオーラを纏っていた。
「……第二王子……。」
見覚えのある人物に、俺はぽつりと独り言を零す。
壇上で白金色の髪を照明に煌めかせながら、圧倒的な存在感を放つその人物は、他の追随を許さないほどの美青年である。
彫刻か、人形のように整い過ぎた容姿。
アウルム・カヴァリエ・オルトロス。
国名である『オルトロス』を家名として名乗れるのは、王族のみ。オルトロス国の第二王子。
もちろんだが、乙女ゲームの攻略対象者。
それにしても……。おふっ。
見事な金髪碧眼ではないか。
なんだこの、王子様のテンプレです!みたいな人物は……。
同じ金髪でも、ソルとは色合いが違う。ソルは太陽みたいに黄金に近い色なんだけど、第二王子は白金色。光の加減では透き通っているようにも見える金糸の髪だ。
深い蒼の瞳はサファイアのように美しい。
王子が登場したと同時に、花びらがぶわっとこれでもかと舞い、陽の光が差し込んできたように錯覚に陥った。キラキラで、全体的に眩しい。
物理的にではなく、雰囲気が王子オーラ全開だ。
新入生代表を務めるからには、あの入試試験をトップの成績で合格したのだろう。低くも滑らかな声が、見事な挨拶を終えて会場は盛大な拍手に包まれた。
挨拶をし終えたアウルム殿下を視線で追う。壇上から降りて座った席の隣に、眼鏡をくいっとあげた冷たそうな印象の美形が、アウルム殿下に不敵な笑みを送っている。
さらに冷たい美貌の横には、快活そうに笑う体格のガッチリとした生徒。
冷たい美貌は、宰相の息子。
そして、快活そうに笑う男子は、国立騎士団トップである騎士団総括の息子。
この2人はともに、攻略対象者だ。
ここで、攻略対象者が一気に集まったな。
親しげに話す彼らは、詰襟の左側にピンバッチを2つ付けている。2つの内の1つは、校章をあしらったものだ。
生徒が左襟に着けているピンバッチは2つ。
1つは学年を意味するローマ数字『Ⅰ』。
そして、もう1つは校章の形をしたもの。
この学園のクラス分けは、全部で3つ。
高位貴族や成績優秀な貴族が所属する、
象徴カラーが蒼色のSクラス。
貴族、成績優秀な平民が所属する、
象徴カラーが紅色のAクラス。
主に平民が所属する、
象徴カラーが緑色のBクラス。
壇上近くに座る、第二王子たちの襟をチラリと見遣る。彼らのピンバッチの色は、一番高位クラスとされている深い蒼。
対して、俺たちが着けている校章の色は、臙脂色。
そう、ソルが2学年時に聖女に会うためには、
この1年間で、クラスを1つ昇格しなければならない。
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