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第4章 学園編、乙女ゲームが始まる準備をしよう
国立学園、異世界の学園って何でこんなでかいの?
しおりを挟む乗合馬車の小窓から見た王都の城壁は、首が痛くなるほど見上げてやっと頂点が見えるくらいに高い。太陽の眩しさに目の上で影を作って、何とか見上げる。
外敵から王都を守るための頑強な造りはもとより、滑らかに研摩された、文化の高さを誇るような洗練されたデザイン。
「……すごいね……。」
隣に立っていたソルも、城壁を見上げながら呆気に取られたような声を上げていた。
白磁の城壁は、遠くから見てもとても大きかったが、こうして目の前にするとスケールの大きさに言葉が出ない。所々には、国の象徴的な動物であるドラゴンの彫像が、羽根を閉じた姿勢で設置されている。
あれは、魔除けと明り取りの両方を兼ねていると、乗合馬車に一緒に乗っていた親子が教えてくれた。
「……あそこの門番が、身分確認の手続きをしてくれるそうだ。」
開け放たれたままの門へと、人々の列が続いている。その先には、甲冑を来た門番と思しき男性たちが、1人1人に声を掛けていた。
俺たちも例に漏れず、王都へ入るための手続待ちの列へと並ぶ。
俺たちは4日前に、勇者の始まりの町であるカンパーニュを出発した。町から王都までは、乗合馬車で3日以上はかかる距離だった。
途中の町で宿に泊まり、また乗合馬車に乗ってを繰り返して、今やっと王都へと辿りついたのだ。
全ては、国立学園へ入学するため。
多くの荷物は、事前に学園の寮へと送っている。
俺たちは冒険者装備のまま、乗合馬車で旅をしていた。道中で馬車に近づいた魔物を俺とソルで撃退すると、馬車の運転手に護衛任務を依頼された。請け負ったところ、運賃を3割安くしてくれたのは、ラッキーだ。
乗合馬車の旅は、一緒に乗っていた親子や旅人から王都の話を聞けてとても楽しかった。
途中の宿で、同室に泊まっていたソルに『一緒に風呂に入ろうか?』と誘ったら全力で拒否された。男同士だし良いじゃないか、ってしつこく誘ったら、逆にソルに説教をくらったのだ。
「ヒズミは、男同士でも注意して!学園では他の人と一緒に、風呂に入っちゃダメだ。誘うのは……、オレだけにして。」
最後の方は顔を赤くして、ポツリと言っていた。あれか。
仲の良い友達が他の人と仲良くなりそうで、自分から離れるかもと思うと、寂しくてヤキモチ的な……?
もう、ソルは可愛いな。
俺はソルから離れたりしないのに……。
そんな道中での思い出に浸りながら、俺たちは難なく身分確認の手続きを終えて、大きく口を開いた門へと一歩踏み出した。
「……すごい。」
綺麗なレンガが敷き詰められた、幾何学模様の石畳。見渡せばカンパーニュでは見たことも無いような4,5階建ての高い民家と思しき建物。
中世ヨーロッパを思わせる建物は、落ち着いた淡いベージュの色で外壁を統一され、上品な都の雰囲気を醸し出している。
赤茶色の屋根には、のんびりと日向ぼっこをしている猫を見つけた。別の猫が器用にも、建物の間に掛けられたカラフルなオーナメントをひよいっ、ひょいっと飛び移って、日向ぼっこをしている猫に駆け寄る。
「こんなに人が多いところ、初めてだ……。」
ソルもあの田舎町から出たことがなく、王都の華やかさと人の熱気に終始目を瞬いていた。ぼうっと突っ立っていると、行き交う人々にぶつかってしまいそうだ。
威勢の良い掛け声に、忙しそうに先を急ぐ人。噴水の前で犬と一緒に遊ぶ少年たち。色とりどりの風船を持った売り子を見て、母親と手を繋いだ子供がせがんでいる。
聞こえる音はどれも、活気と生命力に溢れていた。
乙女ゲームの舞台となっている国の名は、オルトロス国。
豊かな自然と鉱山資源を有しているが、それだけに頼る事は無く、教育にも力を入れている国家だ。そのおかげで、周辺諸国からは『知識の国』との異名で呼ばれている。
これは、あの鈍器になり得る攻略本に記載されていた、乙女ゲームの裏設定だ。
貿易も盛んで財産も潤沢。長きに渡って繁栄している国でもある。人々の活気づいた様子を見れば、一目瞭然だな。
国立学園は、王都の中でも北西に位置する。この国が要としている教育機関でもあるため、王城にほど近い場所にあるのだ。俺たちはさらに馬車へ乗り換えて、王都の様子を流し見しながら目的地へと向かった。
「デカい……。さすが国立学園。スケールが違う。」
遠くから見ても学園を囲っている優美な鉄柵は、端が見えない。近づくにつれて、永遠と続くのではないかという錯覚を覚えた。
それほどまでに、この学園の敷地が広大なのだろう。俺たちの乗った馬車は、しばらく学園の鉄作を横目に走って、やがて大きな門の前で止まった。
国立学園の校章が大きく描かれた鉄門。この学園への入り方は、事前に手紙で知らされていた。校章の、剣と杖が交わっている部分にそっと手を置いた。そこに、意図的に魔力を流す。
小さくカチッ、という音がして、門が独りでに内側に開いていく。
「……ここが、国立学園か。」
門から続く長く幅広い白磁の道。その先には荘厳にして歴史を感じさせる巨大な建物。規則正しく並んだ窓に、城のように突起した屋根の突いた塔が立ち並ぶ。
……これ、本当に学校なのか……?
どう見てもお城だろ……??
俺の通っていた大学より全然デカいし、何よりもこの圧倒的な重要文化財感。大層立派で、豪華な装飾は控えめだが、所々に気品を感じる。
なぜか、どこからか花びらが風に吹かれて目の前を通り過ぎていった。乙女ゲームのオープニングか!と内心でツッコんだ。
ペッ。花びら口に入った……。
ここに、これから通うのか……。
「……とりあえず、行くか。」
「……うん。そうだね。」
呆気に取られたソルと、ほんの少し遠い目をした俺は、白磁の道をトコトコと進むのだった。
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