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第3章 学園に通うのは、勇者だけで良いはずです
新たな攻略対象者、ここで何故出会う?
しおりを挟む地図を見ていた俺は、今左右から挟まれている。
イケメン2人に……。
「それで?追尾は出来たのか?」
えっと……?………誰?
俺の右にいた男性が、首を傾げて顔を覗き込んできた。濃紺の髪に切れ長で灰色に近いアイスブルーの瞳は、眼光が鋭い。……ていうか、精悍なイケメンの顔が近いな。
鷹のような猛禽類を思わせる、鋭い雰囲気を纏った人だ。俺達より歳上の、ハンサムな顔立ちの大人だ。……なぜ、もれなくこの世界の人はイケメンなんだ……。
「……えっと?」
俺が戸惑いの声を上げていると、翡翠色が視界の端にちらついた。
「うわっ。やっぱり近くで見るとヤバイね……。俺、どうにかなっちゃいそう。」
そう言って、左から俺の顔を覗き込んできたのは、先ほどの男性と同じ年頃の人だ。クセのある薄緑色の髪を悪戯気に揺らして、人懐こい笑みを浮かべている。
翡翠色の瞳は美しいけど、口角を上げた笑みが嘘臭い。……こっちは何だか軟派なイケメンだな。軽そうな雰囲気は、相手を油断させるためだろう。何処と無く隙がない。
タイプの違うイケメンに左右挟まれながら、ちらりとソルの声がした方へ視線を移す。ソルの近くには他にも深緑色のコートを着た男性たちが複数立っていて、周囲を警戒していた。
ソルは心配そうな顔をしながら、その人たちに一声かけて、こちらに近づいてきた。正面から来たソルも、言わずもがな超美形である。
イケメンに完全包囲された……。なんだこの画は。
女の子なら跳び跳ねて、目にハートを浮かべ喜ぶ場面かもしれない。俺は男だから、胸キュンっ!とかはない。
俺の近くにいる2人は、詰め襟の同じ服を着ている。深緑色の丈夫そうなコートの左胸には鳥の羽根に、盾と剣の重なったのエンブレムが刺繍されていた。
……このマーク、何処かで見たことがあるんだよな……。
「……驚いている顔も可愛いけど、追尾は出来た?」
まじまじと2人のことを観察していた俺は、軟派な男性に問われ再び葉の動きに集中する。ちょうど良く葉の動きが遅くなっていた。
どうやら、追尾している標的に近づいているようだ。しばらくすると、ピタリと完全に止まり動かなくなる。葉の動きが完全に止まると同時に、波紋上の魔力が葉を中心として広がっていった。
俺が葉に付与した、感知の魔法だ。
「……止まりました。ここから、北西方向に進んだ場所で、巣を作っているようです。何匹も魔物の反応があります。」
「……数はどれぐらいいる?」
ハンサムな男性に問いかけられ、感知に反応がある個体数を頭の中で数える。その数に俺は、思わず顔を顰めた。これは、いくら集団で行動する性質があるとはいえど、かなりの数だ。
早く見つけられて正解だった。
「……30匹ほどはいるかと。」
「っ?!多いな……。」
俺の答えに顎先に手を当てながら、精悍な男性は切れ長の目を思案気に細めた。軟派そうな男は、自身の懐から紙を取り出すと、俺の持っている地図の上に開いて見せる。
「……その場所、こっちの地図に書いてくれないかな?」
先ほどの揶揄うような声音とは違い、真剣みを帯びた声に俺は頷いた。
ネブラウルフの巣だと思われる場所に×印をペンで付け、現在地は〇で囲った。おおよそ、ここから歩いて30分以上はかかかるだろうか……。
「……よし。大体の場所は分かった。」
軟派な男は俺にお礼を言いつつ、地図を仕舞いながら俺たちから離れていった。切れ長の目をした男と頷き合うと、俺たちに向かい合う。
ソルが向かい合う2人と俺の間に立ったため、顔を少し傾けないと2人の姿が見えない。……ソルのほうが背が高いんだから、ちょっと避けてくれないかな……。
「君たちのおかげで、早めに魔物を討伐できそうだ。ありがとう。……私は緑風騎士団のヴィンセント・ゼフィロスだ。」
灰色に近い水色の瞳をすいっとこちらに向けて、威厳ある声で名乗られた名前。その音に、俺はどこか引っ掛かりを覚える。
やはり、どこかで聞いたことがある気がする……。
「俺はジェイド・ドゥンケルハイト。よろしくね?」
相変わらず人懐っこそうな笑みを浮かべながら、砕けた口調で軟派な男が名乗る。
緑風騎士団……。硬派と軟派な二人組……。
頭の中の記憶から、はたっと気が付いた。
「……っ?!緑風騎士団団長と、副団長……!」
国が所有している騎士団は大きく分けて3つ。
王族や国賓を守護を任務とする、清風騎士団。
治安維持や街の犯罪取締を任務とする、紅風騎士団。
魔物討伐に特化した、緑風騎士団。
国立騎士団の中でも、緑風騎士団は力がモノを言う実力主義な騎士団である。
「……ほう。私たちのことを知っているのか?身分は名乗らなかったはずなんだが……?」
ヴィンセント騎士団長が、鋭い眼光で俺を探るようにチラリと見遣った。
知っているも何も、俺からすると当たり前だ。
国立緑風騎士団団長、ヴィンセント・ゼフィロス。
乙女ゲーム『聖女と紋章の騎士』の攻略対象者だ。
そして、国立緑風騎士団副団長ジェイド・ドゥンケルハイト。
彼は妹の口から、良くその名前を聞いていた。サブキャラだというのに、甘いマスクと掴みどころのない、人を惑わせるような性格とのギャップが人気のキャラだ。
サブキャラなのに、グッズまで販売されていたという人気ぶりだ。『なんで、こんなに顔が良いのに、攻略対象者じゃないの?!』と、妹が愚痴をこぼしていたのを覚えている。
俺が黙ったままでいると、ソルがさらに俺を後ろに隠すように身じろいだ。たぶん、ヴィンセント騎士団長の鋭い視線を受けた俺を、心配しているのだと思う。
……なんて仲間思いで、良いヤツなんだ。
ヴィンセント騎士団長は、俺たちの様子に目元をほんの少しだけ和らげた。
「……まあ、いい。それよりも、君たちの名前は?」
ヴィンセント騎士団長の問いかけに、最初に応えたのはソルだ。
「……ソレイユです。」
「……ヒズミです。」
「ヒズミ、ソレイユ。……魔物討伐任務への協力に感謝する。……ここからは緑風騎士団の仕事だ。君たちはネブラウルフを深追いせずに帰りなさい。……依頼達成は大丈夫か?」
俺たちを気遣ってのヴィンセント騎士団長の言葉に、ソルはやや冷たい声音で告げる。
「……はい、既に依頼は達成しているので大丈夫です。僕たちは帰ります。行こう、ヒズミ。」
「えっ?……ああ、うん。」
ソルは俺の手を引っ張ると、その場を足早に立ち去ろうとする。そんなに急がなくてもいいのに……。
「ヒズミに、ソレイユか……。また、後で会おうね。」
ソルに半ば強引に手を引かれて、その場を立ち去る。ジェイド副団長はにっこりと笑って、俺達に手を振った。俺達は足早に森を抜けて町に戻ったのだった。
「……絶対ヒズミのこと気に入ってた……。はぁ……。」
森を抜けて行く最中、俺の手をずっと引っ張っていたソルが、何かポツリと呟いているのが聞こえた。でも、声が小さすぎて聞き取れなかった。
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