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第3章 学園に通うのは、勇者だけで良いはずです

魔物との戦闘、知らない人はいきなり話しかけてこないで

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ソルと俺は、お互いに14歳になった。相変わらず修行に明け暮れ、冒険者ギルドの依頼を2人で一緒に請け負う。

ソルの冒険者レベルは、なんとCまで上がっていた。コツコツと魔物を倒したり、依頼を受けていた成果だ。


今日の依頼は、鹿型の魔物から角を採取するというものだった。極力魔物を傷つけないように気配を消して、瞬時に角を切り落とす。角は人間にとって薬や装飾品の材料になる。

魔物にとっても大きくなり過ぎた角は負担になって、最悪の場合絶滅することもあるから、人間が管理をするのだ。


ソルの攻撃魔法も上達して、この日の依頼は早々に終わった。森の中を町方向に向かい、2人で歩いていたときだ。

羽音のような音が頭に響いた。


ヴォンっ。


「っ!」

俺が波紋状に展開していた感知のセンサーに、素早く移動する何かが引っ掛かった。警告音が頭の中で鳴ったということは、魔物だろう。


歩きながら腰に下げていた双剣を素早く抜くと、俺の様子にソルも緊張した面持ちで腰の長剣を抜いた。ソルの長剣は、中心に金色の芯がある美しい剣だった。

鍔は横に細長い金色で、よく見ると複雑な模様が彫られているのだ。父親からの形見だと、ソルは言っていた。ソルは、孤児院にこの剣と一緒に預けられたらしい。


「……ソル。動きが速い魔物が5匹、こっちに向かってる。……おそらくだが、ネブラウルフだろう。」

ネブラウルフは、ここよりも森の奥に生息する狼型の魔物だ。狼と言うだけあって素早いし、肉食で性格も獰猛。途中まで一緒に行動していた5匹は、それぞれ駆けるスピードを変化させ各々分かれて走り出している。


なるほど……。俺たちを囲う気だな。


さながら、獣の狩りだ。俺たちを数匹で追い込んで、最後に背後で待ち伏せさせた仲間に仕留めさせるのだろう。


「……まもなく到達。到達と同時に襲われると思う。」

「了解。」

俺の報告にも周囲を警戒しつつ、冷静に返事をするようになったソルは、だいぶ頼もしくなったな。


歩いていた足を止めて、ソルと背中合わせになった。俺の頭のてっぺんは、丁度ソルの項くらいの高さになっていた。

俺よりも身長が伸びやがって……。
悲しくなんて、ないんだからなっ!


いつでも襲われていいように、双剣を構える。

感知のセンサーは、先ほどの素早い移動とは打って変わり、今度はこちらを探るようにゆっくりと動いている。


……やはり、四方を囲われたか。


ネブラウルフたちも、気配を殺しているのが分かる。糸が張りつめたような、何かのきっかけでこの場が動き出すような静寂が辺りを支配した。


ガサッ。


「来るぞ!」

ほんの僅かな草の動きを、ソルは完全に捉えた。2匹のネブラウルフが2メートル以上ある体躯を、ソルの正面にある茂みから踊り出させた。


鋭利な牙が生えそろう口を、血色の口内が見えるほど大きく開きながら、ソルに襲い掛かろうと前足を上へと蹴り上げた。


ソルは姿勢を低くすると、ネブラウルフの懐に入り込む。金と銀の長剣を下から上に振り払うと、狼の腹を裂いた。
襲いかかる勢いをそのままに、1匹のネブラウルフは緑色の血飛沫で弧を描きながらソルの後ろへと倒れて行った。


グギャっ……。

短い断末魔とともに、ソルの斬ったネブラウルフが絶命する。
まずは1匹。合間を置かずに、左右から時間差で2匹のネブラウルフが駆けてくる。


「貫け。」

俺がそう言葉を発したと同時に、闇魔法による漆黒の槍が雨のように静かに降り注ぐ。音もなく現れた槍は向かってきた2匹のネブラウルフの脳天を、頭上から瞬時に突き刺した。


黒色の長細い鋭利な槍が、ネブラウルフの頭を貫いて地面へと結い留める。口から緑色の血を吐いて、2匹は息絶えた。

これで、あと2匹。


2匹は確かに俺たちの近くにいるのだが、その場から動こうとしない。ソルは魔力を練ると、振り向きざまに風魔法で刃を作り後方に放った。


ギャンッ!


風の刃で刈り取られた茂みの中から、獣の悲鳴が聞こえた。1匹のネブラウルフの足から血が出ているのが、茂みの隙間から見えた。

ガサガサっ!と忙しなく葉が揺れ、その動きが俺たちから離れて行く。感知に反応していた2つの影も、俺たちから遠のいていった。

どうやら、俺たちのことを諦めたらしい。


他の魔物が現れないか警戒して、俺たちは武器を解いた。


「ソル、怪我はないか?」

「うん、大丈夫だ。」

怪我がないことを念のため確認しつつ、俺は絶命している魔物たちを見遣る。


……それにしても、ネブラウルフか……。


俺は思案しつつ、先ほどネブラウルフがいたであろう、茂みへと進んだ。

怪我を負わせ取り逃がしたネブラウルフの血が、木の根や葉に飛び散っている。ドロリとした緑色の血は、まだ乾かずに低い木の葉先から血液を滴らせていた。


……血液には魔力が多分に含まれていると、アトリが言っていたな……。


俺は、その血が滴っている葉を一枚、木の枝から千切って魔力を流した。葉がぼんやりと紫色の光を帯びる。魔力が行き渡ったところで、イメージを膨らませる。


血液の中に溶け込む魔力。
風に流れる、それは残り香のようなものだと想像する。


相手に気付かれないように。巧妙に。
追尾して、探れ。


「……追え。」

俺がそう呟くと同時に、ヒュンッ!と風切り音を立てながら葉が指から離れていった。凄まじい早さで、ネブラウルフの魔力を葉が追っていく。


俺は葉の軌跡を、追跡魔法を発動して頭の中で追った。結構な速度で飛んでいっているな……。俺の頭の中の地図だけでは、追いきれなさそうだ。


俺はマジックバッグから、この森の地図を取り出した。葉の軌跡を、指に光を纏わせ地図に印を付けつつ指で辿っていく。


「……何をしているの?」

近くで問われた声に、地図に視線を向けたまま答える。


「ネブラウルフの血液が付着した葉で、さっき負傷させた1匹を追尾してみる。」

俺の言葉に、驚きの声が返って来た。


「ほう……。そんなこと、出来るのか?」

「……始めてだから、成功するか分からないけど……。血液が乾いていなかったから、まだ魔力が多く含まれていたはずだ。……残っていた魔力が持ち主に返るように、追尾魔法を掛けたんだ。」


ついでに闇魔法で隠蔽を施して、決して相手には悟られない様にした。変に勘付かれて移動されたら厄介だからだ。

負傷したネブラウルフは、必ず寝床に帰るはず。


「へえ……。だけど、手負いでしょ?なんで追いかけるの?」

そうだよな……。そう思って当然だ。
俺も、もっと森の奥であれば追うことまで考えなかったのだけれど……。


「……ネブラウルフは、狩り場の近くに群れで巣を作る習性がある。ここで俺たちを襲ったのなら、近くに巣を作っているはず……。こんな町近くに巣があるのは危険だ。……あまり数が多いようなら間引かないと_______」


「ヒズミ!!」

「えっ?」


俺の名前を呼ぶソルの声が、思いの外遠くから聞こえた。


ん??
じゃあ、今まで話をしていたのって……?

疑問に思って、俺は地図から恐る恐る顔を上げる。思った以上に、人の顔が近くにあったことに驚いた。


しかも、左右から挟まれている。イケメン2人に。


「それで?追尾は出来たのか?」



えっと……?………誰?





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