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第2章 勇者の暗い過去と、死亡フラグを回避します

俺自身の死亡フラグに気が付きました

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暖かな日差しを瞼の裏に感じて、眉を寄せて目を開けた。眩しさに、さらに目を細めて天井を見る。朝目覚めると見知らぬ木目調の天井だった。

……やっぱり、夢じゃなかったか……。


朝起きたら、全部夢でしたということをほんの少し期待したけど、現実はそんなに甘くないよな。重たい身体を起こし、俺は身支度を済ませる。朝食を簡単にギルド内の食堂で済ませると部屋にこもった。


この『聖女と紋章の騎士』の世界について、記憶に残っていることを整理する。

色々なエンドが用意されていたこのゲーム。共通のバッドエンドは、魔王を倒せず世界が崩壊すること。それに加え、攻略対象者各々にもバッドエンドが用意されていた。昨日オレが出会った勇者ソレイユの場合、バッドエンドは闇墜ちだ。


魔王が300年に一度蘇るというのには、実は呪いが関わっていた。魔王を封印しようと言うときに、呪いがソレイユへと移ってしまう。最終的に次の魔王が勇者となって、次の時代まで封印されるというのがバッドエンドだ。

これは世界が一時的に平和になるものの、彼だけが救われないと言う哀しい結末。なかなかに重い……。


ソレイユのストーリーも簡単にまとめる。14歳の時にスタンピードを経験して、15歳の時に学園に入学。2学年の時に聖女や攻略者に出会い、聖女に恋をする。

3学年になると魔王討伐に向かい、無事魔王を討伐して聖女と結ばれハッピーエンド。紙に書き記していくと、自ずと俺がやらなければならないことが見えてきた。


俺は早々と孤児院に向かった。
ソルには早く伝えなくてはいけないことがある。


昨日来た噴水の広場まで向かうと、そこから俺は東側の道をまっすぐに進んだ。そこはやや町の外れで、立ち並ぶ住居の間にも広さが出てくる。

しばらく進むと、学校のような教会にも似ている雰囲気の建物に辿り着いた。


ここは、ソルの住んでいる孤児院だ。この世界の成人は18歳。でも、孤児院は15歳になるとで出て行かなければならない。

仕事は10歳のころから見習いとして始められるから、孤児院の子供たちは10歳になると働くのほとんどだ。将来の支度金の準備をするために。


ソルも例に漏れず、10歳の時から冒険者見習いとして働いている。昨日森にいたのも、薬草採取の依頼を受けたためだったそうだ。


孤児院の古めかしい木製の扉には、金属でできた目を瞑って羽根を広げたフクロウのドアノッカーがある。フクロウが足に輪っかを持っていて、その輪を持ち上げて3回ノックした。

とたんに、フクロウの目がぱっちりと開く。琥珀色のまん丸な瞳が可愛い。


「こんにちは。……君は、ソルと昨日いた……。ちょっと待っておくれ。」

フクロウの小さな嘴が、啄むようにパクパクと動いた。すごい、フクロウがしゃべってる。しばらく待っていると、カチャリと扉が開いた。


「いらっしゃい。昨日はソルを助けてくれてありがとう。…ソルに会いに来たのかな?どうぞ、中に入って。」

そう言って俺を招いてくれたのは、昨日ソルを抱きしめていた院長だった。穏やかで皺交じりの顔が、笑うとさらに目元に皺が寄って優し気になる。


院長先生に案内されて歩いていると、パタパタと忙しなく廊下を走る音が聞こえてきた。廊下の遠くから小さな人影が見える。


「ヒズミ!」

俺のほうへと駆け寄ってきているのは、ソルだった。良かった、怪我も無事治っているみたいだ。俺の名前を呼びながら手を振ってくれている。


「これこれ、嬉しいからと走るでないよ。」

院長に窘められたソルは、素直に走るのを止めて早歩きを始める。その様子がまた可愛らしくて、俺はクスクスと声を出して笑ってしまった。

俺の傍まで来たソルは、嬉しそうににっこりと微笑んだ。


「ヒズミ。オレから会いに行こうと思ってたのに、来てくれたの?」

「うん。早くソルに会いたくて……。」


俺の言葉に、ほんの少しソルが頬を赤く染めた。うん?やっぱり体調が良くないのか……?


「ソル、顔が赤い……。やっぱり、まだ体調が悪いんじゃ……。」

「違うよ!全然元気。……もう、ヒズミがあんなこと言うからだよ……。」

最期のほうは声が小さくて、何を言っているのか聞き取れなかった。ソルは気を取り直したかのように俺に向き直ると、俺の右手を掴んで引っ張った。


「お茶を出すよ。こっち。」

俺とソルは手を繋いだまま、孤児院の中を一緒に歩いた。ソルは俺を食堂へと案内してくれた。


大きな暖炉がある食堂は、院長の優しさが溢れたような温かみのある場所だった。俺を長テーブルに案内したソルは、俺の分のお茶を用意すると後に向かいに座る。


「……実は、ヒズミにお願いがあるんだ……。」

俺が目の前のマグカップに入ったお茶を一口飲んだ後、ソルはおもむろに口を開いた。俺の目をまっすぐと見つめて、意を決したように言葉を紡ぐ。


「オレに戦い方を教えてほしい。」


琥珀色に宿った強い意志が、俺を射貫いた。

俺よりも年下なはずなのに、その瞳はどこか大人びていて気圧されてしまう。それほどまでに純粋で真っ直ぐな意思だった。


……さすが、将来の勇者と言うべきか。存在感が違う。


「……オレも、ヒズミみたいに強い冒険者になりたい。」

ソルから発せられる言葉には、確かな重みを感じた。これは子供が将来の夢をふわふわと語るような、そんな軽いものではない。

自分自身の信条を貫き通し、覚悟を決めた強者の言葉だった。


俺は自然と唾を飲み込んでいた。ソルの覇気と覚悟に、腹の底から感情が高ぶってくる。勇者が目覚める、まさに始まりの瞬間を俺は目の前で見ているのだ。


……ああ、俺なんかよりすぐに強くなるよ。ソルは。


それに、これは願ってもいない申し出だった。

スタンピードに向けて、ソルには強くなってもらいたい。少しでも怪我をしないほうが、絶対に良い。

俺が孤児院に来た理由も、ソルに強くなってもらうために一緒に修行しようと言うためだった。


「……分かった。できる範囲で教えるよ。それに俺もそんなに強くないから、一緒に強くなるために修行しよう。」

俺がそう答えると、ソルの美しい黄金色の瞳が陽の光にきらりと輝いた。勢いよく椅子から立ち上がると、前のめりになりながら俺の両手を取り強く握りしめる。


「やった!!これからよろしくね!ヒズミ!!」

「ああ、よろしくな。」


こうして、俺たちは一緒に強くなるために行動するようになった。


実はスタンピードの件を思い出した時に、俺はもう一つの懸念を抱いていた。

勇者はスタンピードの時に親しい友人を亡くす。ソルに聞いたところ、今までは仕事に忙しく、友人と呼べる人はいなかったそうだ。


そこで、俺ははたっと気が付いた。
そのスタンピードで命を落とす友人ポジション、俺じゃないか?


俺とソルは、今後一緒に居る時間が長くなる。一緒に居れば必然的に情が沸くし、俺もソルのことは可愛い弟みたいに思っていて、仲良くなる気満々だった。

昨日会ったばかりだけど、ソルはとても素直で良いやつだ。俺自身も惹かれている。


……俺も、強くならなければ、命を落とすのか。


ここに来て、勇者を強くするだけではなく、自分自身の死亡フラグも回避するという難題が生まれたのだ。あと半年で、何処までできるだろうか。


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