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第2章 勇者の暗い過去と、死亡フラグを回避します
少年の勇敢な行動(アイトリアside)
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「……スタンピード。」
先ほどまで目の前に座っていた、小柄で神秘的な少年を思い浮かべる。
あの少年が、言葉を詰まらせながらも必死に訴えてきたこと。
スタンピードについては、未だに謎なことが多い。国を挙げて調査は行われているものの、どういった兆候で起こるのか、その傾向や原因は不明だ。
少年が立ち去ったあとのギルドは、声を抑えながらもざわざわと騒がしくなった。
「……あの歳で流れの冒険者なんて……。仲間はきっと……。」
長椅子に座った中年の冒険者が、そこで言葉を切った。全てを言わなくてもギルド内いる者たちは察した。
冒険者は10歳から見習いとして働ける。依頼をこなして冒険者レベルがDレベルになると、見習いから正規の冒険者となれるのだ。
経験の浅い冒険者が旅をする場合、保護者や冒険者仲間と一緒に行動する。そこで、冒険者としての心得や自分自身の守り方を学ぶ。
先ほど、少年は冒険者の身分証明証タグを提出した。冒険者ギルドで何かしらの手続きをする際には、必ず提出するようになっている。
そのタグには、持主の詳細な情報が登録させているのだ。
ヒズミのタグに登録されていた年齢は、13歳。
いくら実力があったとしても、1人で旅をするにはあまりに若すぎる。というか、まずあり得ないと言っていい。
そして、ヒズミの口から苦し気に発せられた言葉の数々。
そこから考えられることは……。
「……あのスタンピードの話は、おそらく経験者なんだろうな……。」
1人の冒険者が呟いた言葉に、ギルド内は重い空気に包まれた。
ヒズミは最後のほうで言葉を濁していた。
……いや、正確に言えば、苦しそうに息を詰まらせて、話すことが出来なくなっていた。
黙ったまま俯いた身体が、カタカタと震えていたのを見ると、今でも怖いことを思い出させてしまったと後悔する。
……そう、おそらくだがヒズミは、スタンピードを経験している。若くして1人で旅をしているのは、スタンピードで家族か仲間を失ったからかもしれない。
だから、あれほどまでにスタンピードの前兆や特徴について知っていたのだろう。ヒズミが訴えた言葉には、鬼気迫るものがあった。
そして、1人で旅をしてここに辿り着いたのだろう。この国では見たことが無い艶やかな黒壇の髪と、何処か異国めいた神秘的で美しい顔貌。
長椅子に腰かけていた年配の冒険者が、目元を潤ませながら呟いた。一癖も二癖もあることで知られる、厳つい顔の冒険者は、その顔をさらに歪ませた。
「……あんなに震えてよぉ……。」
私にスタンピードの話を打ち明ける前の、ヒズミの不安げな顔。あれは、恐怖の経験を話すことへの緊張と、私たちに話を信じてもらえるのかという不安の表れだったのだろう。
そんな思いをしてまで、自分たちに話をしてくれた少年の言葉を、戯言だろうと馬鹿にする者はこのギルド内にはいない。
「……可愛いだけじゃねえ。健気で良い子じゃねえか……。その勇敢な行動に、俺たちは報いるべきだ。」
その言葉にこの日、荒くれ者達が集まる片田舎の冒険者ギルドが一つになった。
「……ヒズミ……。」
口にした名前は、どことなく甘い。
名前までも、不思議な響きを持った少年。この国では珍しい漆黒の髪に、真珠を思わせるような艶やかな肌は魅惑的だ。冒険者特有の粗野さが無く、むしろどこぞの貴族令息と言われても信じてしまいそうになる凛とした気品があった。
触れた髪の毛は見た目と違って猫のように柔らかく、慰めるために撫でた手が止まらなかった。幼さが残る顔で困ったような表情をされたときは、思わずゴクリと喉が鳴ってしまった。
あんなにも無防備に、人に触られて……。
まだ、人の好意に気が付けない年頃なのか。
それとも、本人の気質が鈍感なのか……。
おそらくだが、後者なのだろうなと思ってしまった。これは勘だ。男の勘。
「……ライバルが、多そうですね……。」
騒めく冒険者ギルドの中で、誰に聞かせるでもなく呟いた私の口角は自然と上がっていた。
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