上 下
2 / 201
第1章 『新感覚☆女の子も男の子も楽しめる乙女ゲーム』ってなんだ?

乙女ゲームの攻略に挑みます

しおりを挟む



「このゲーム、クリア済みじゃなかったか?ハーレムエンドもしたって言っていたよな?」


とりあえず妹の囲い込みから逃れた俺は、キンキンに冷えたアイスをガジガジと齧りながら問いかけた。

やっと、待望の冷たい水色の板にありつける。妹も甘いバニラアイスを食べてスプーンを口に突っ込んだまま、柄をプラプラさせていた。

甘いバニラアイスと違って、妹の表情は苦々しげだ。


妹が手にしていた乙女ゲームは、『聖女と紋章の騎士』。

300年に一度、魔王が復活して混沌に陥るというファンタジーな異世界が舞台だ。魔王が蘇るときには、必ず『英傑』と呼ばれる者たちが現れる。魔王を討伐して再度封印する選ばれし者だ。

英傑たちの特徴は、身体の一部に紋章が現れること。

この英傑たちこそが、攻略対象者である。英傑たちのほとんどは高位貴族や高い役職に就いている男性たちで、もちろんイケメンだ。

主人公は平民の少女。主人公はある日、聖女の能力とされている幻の魔法、聖魔法を発現する。さらに身体の一部に紋章が発現し、英傑たちが集う国立学園へと入学させられるのだ。


平民なのに高位クラスに入学した主人公は、周囲の嫉妬でいじめに遭うなど様々な困難に巻き込まれる。そこを英傑たちと愛を育みながら、たくましく立ち向かっていくのだ。

更に、英傑とともに聖女は魔王討伐にも参加する。魔王を倒して、世界は無事平和を取り戻す。というのが、大筋の『聖女と紋章の騎士』の流れだった。


妹はこの乙女ゲームに夢中になり、この間ゲームをクリアした嬉しさのあまり感涙していた。堂々とこのリビングで、大画面のテレビの前でだ。


「そう、隠し攻略対象者も全部クリアしたんだけどね。……実はゲームを全部クリアすると、ボーナスステージが遊べるの。」


それは凄いな。ゲームをクリアした人へのご褒美的なものだ。
妹いわく、そのボーナスステージがとても難しいらしい。一度攻略した人用に、ハードモードになっているようだった。


「……戦闘パートが難し過ぎて進めないの!お兄ちゃん、戦闘とか戦略とか、そういうゲーム得意でしょ?全部のスチルを回収するために手伝って!!……人助けだと思って!ねっ?」


妹は胸の前で手を握って、俺に上目遣いでお願いをする。


……最近の乙女ゲームは、戦闘があるのか?
確かに、俺はRPGとか戦闘要素が多いゲームをしているから得意ではあるけど……。


俺は何気なく、乙女ゲームのパッケージを裏返した。キラキラのふわふわな裏表紙を見てみる。


……ふむふむ。
『新感覚☆女の子も男の子も楽しめる乙女ゲーム爆誕!』と書いてある。


なるほど。本格的な戦闘の要素を取り入れて、男の子でも楽しめるようにしているのか。確かに、乙女ゲームをプレイする男子もいると聞いたことがある。

最近のゲーム業界は、新規ユーザー層の確保に積極的なんだろう。純粋に関心してしまった。


「……見返りは?」

当然、ただとは言わせない。こっちは大学生の貴重な夏休みを捧げようとしているのだ。


……まあ、一緒に遊んでくれる彼女はいないけどな。

ちなみに大学の友人たちは彼女持ちで、夏休み中は旅行に行く。数少ない俺と同じ寂しい境遇の友人は、実家に帰省中だ。

遊ぶ約束はしているが、1週間はこちらに帰って来ない。


アルバイトをしているものの、それ以外は俺も暇だな。花のキャンパスライフなのに内心で涙が滲んだ。


妹は俺の見返りを欲求する発言にも、ニヤリと余裕の笑みを浮かべた。


「ポム・フルールの期間限定チョコレートパフェ!」

その言葉に、俺の身体がピクリっと反応した。妹は俺の様子を見て、どうだ!とばかりに胸を張っている。

果物をこれでもかと使ったスイーツのパフェが有名で、可愛い喫茶店ポム・フルール。あそこのお店は女子ばっかりで、男子だけでは入りにくかったのだ。

友達も甘いもの好きがではないし、妹が一緒に来てくれるなら気兼ねなく楽しめる。しかも、限定のチョコレートパフェ……。俺がチェックしていたことを、なぜか妹が知っている。

これはもう……。お手上げだ。


「乗った。」

「やった!ありがとう、お兄ちゃん!」


そう言って嬉々として分厚い攻略本を渡してきた妹である。母譲りの可愛らしい笑顔に、俺はしょうがないなぁと溜息をついた。
妹も、これから部活の遠征があるから忙しいだろうしな。

俺も大概、妹には甘い。まあ、ゲーム自体は好きだし、夏休みはこれと言った予定が無いからな。課題も早々に終えてしまったから、暇を持て余していた。

いい暇つぶしになるだろう。


喜んでソファの上を跳び跳ねながら、万歳をしている妹の姿を見てクスッと笑う。お転婆なのは本当に昔から変わらない。

そんな和やかな夏の午後に、俺は残るアイスに齧りつきながら浸っていた。


俺は、この時知る由もなかったのだ。

乙女ゲーム『聖女と紋章の騎士』の裏表紙に書かれた、『新感覚☆女の子も男の子も楽しめる乙女ゲーム爆誕!』の本当の意味を……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

超絶美形な俺がBLゲームに転生した件

抹茶ごはん
BL
同性婚が当たり前に認められている世界観のBLゲーム、『白い薔薇は愛の象徴となり得るか』略して白薔薇の攻略対象キャラである第二王子、その婚約者でありゲームでは名前も出てこないモブキャラだったミレクシア・サンダルフォンに生まれ変わった美麗は憤怒した。 何故なら第二王子は婚約者がいながらゲームの主人公にひとめぼれし、第二王子ルートだろうが他のルートだろうが勝手に婚約破棄、ゲームの主人公にアピールしまくる恋愛モンスターになるのだ。…俺はこんなに美形なのに!! 別に第二王子のことなんて好きでもなんでもないけれど、美形ゆえにプライドが高く婚約破棄を受け入れられない本作主人公が奮闘する話。 この作品はフィクションです。実際のあらゆるものと関係ありません。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ! 知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。 突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。 ※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。

奴の執着から逃れられない件について

B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。 しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。 なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され..., 途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。

処理中です...