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番外編、酒飲みたちの漫遊(フレイside)
幸せな時間 (フレイside)
しおりを挟む逃げらせないように腰に手を回して、身体を密着させる。
突然何を言い出すんだと言うように、呆けたカリエンタの顎先を指で掬った。
呆けてうっすらと開けたままの無防備な唇に、そっと口付ける。
「っ?!」
焼く熱の瞳は、珍しく驚きの色を称えている。何に対しても動じないはずの精霊が、こんなに瞳の奥を揺らして動揺を見せるなんて……。
今までに見たことも無い、ぽかんとした表情に俺は内心で歓喜していた。
「ちょっ!……おま、んっ!……ふぁ、ん」
何か文句を紡ごうと口が開いた隙に、俺は舌先をするりと差し入れた。文句ごとカリエンタの唇を味わう。
「……ンぁっ、……ふっ…。」
戸惑う口腔内は本当に無防備で、俺の悪戯な舌はいとも簡単にカリエンタの舌を見つけ出す。舌先が触れ合った瞬間、カリエンタがビクッと肩を震わせた。
逃惑う舌を絡め取って、優しく吸い上げる。
火の化身ともいえる火精霊だからか、人間よりも体温がやや高い。上顎を舌先で刺激してやると、甘やかな呻き声がカリエンタの喉奥を震わせた。クチュクチュっと湿った音が、静かな部屋に響き渡る。
「……ンんっ……。」
もぞもぞと動いて逃げようとする身体は、腰に回した手に力を入れてより密着させた。俺から距離を取ろうと突き出された左手を、顎から手を離した右手で捕まえる。
おし。退路は完全に塞いだ。
逃げられねぇかんな。
身動きが取れなくなったカリエンタは、捕らえられていない手で俺の胸元の服を握りしめている。
その意地らしくも可愛い行動が、堪らない。
本当に嫌っているのなら、ここで魔法の一つや二つ出して、俺を丸焼きにするはずなんだが……。
抵抗してこないと、俺はどんどん調子に乗るぞ?
目元を紅くしながらぎゅっと目を瞑って、俺の口付けに応えているカリエンタ。その初心な反応は、俺の心を捕えて離さない。
形の良い唇は、柔らかくて一等に甘く、何度も味わわずにはいられない。禁断の果実とはこういった味なのだろうか。トロリと蜜のように甘くて、頭が蕩けるように魅惑的な感覚と背徳感。
精霊という、人間よりもはるかに格上で尊き存在に手を出した。
遊びではない。
俺は心底本気だし、生涯をカリエンタの傍で終えたい。
ひとしきり柔らかな唇と、甘い口腔内を堪能していると、プルプルとカリエンタの身体が震え出した。息の限界が来たか。名残惜しくも口を離してやると、カリエンタはぷはっと息を吐きながら、俺を睨みつけてきた。
苦しかったのか、紅色の瞳が潤んで宝石のように見える。
くっっそ可愛いな。
「……いきなり、なんだよ……。」
文句は言いつつも、俺に腰を抱かれたまま抵抗しないあたり、期待してもいいだろうか。カリエンタの腰から手を離し、服を掴んでいたカリエンタの右手を手に取った。
灼熱の炎の瞳が、訝し気に俺を見つめている。
人間の生涯は、随分と短い。
それなら、俺は自分の想いのままに、生きていきたい。
この焦がれて痛いほどに切なくなる、恋情も。
鍛え上げられ、それでいてしなやかな男の手。褐色の肌には、金の装飾の腕輪が良く似合う。俺はその手を恭しく持ち上げると、口元に近づけた。
褐色の魅惑的な美しき肌に、俺はそっと口付ける。
灼熱の炎を宿した瞳を、射貫くように見つめた。
「……愛している、カリエンタ。」
「…っ!…なっ……。」
カリエンタの息を飲む声が聞こえた。切れ長のルビーの瞳が、ふるりと光を反射して震えた。
「人懐っこそうにして、実は人と関わることを少し怖がっていることも。……意外に寂しがり屋なところも。哀しみを秘めながら、上位精霊として生きる生き様も。……お前の全てが愛しい。」
カリエンタの手から、温かな体温が伝わってくる。その温度が急激に熱くなった。俺の言葉を聞いたカリエンタは、一瞬だけ瞳の奥に嬉しさを見せて、次の瞬間には潜めていた。
ふいっと顔を背けて、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。
「……俺は、精霊だ。子供も産めなければ、一緒に老いることも、死ぬこともできない。人間と同じような心を持たないから、共感もできない……。恋情を抱くだけ、無駄ってもんだ。」
力なく紡がれる、どこか泣きそうな声音のその言葉は、確かな事実ではある。
でも、それが何だって言うんだ?
精霊と人間。
決して交わることのなかった時間。
それが、導かれるように交わって惹かれた命運。
「そんなもん、百も承知さ。……俺はそれでも、お前に人生を捧げたいんだよ、カリエンタ。俺は、お前といるだけで心が満たされる。お前が、精霊だから好きになったわけじゃない。」
俯き加減だったカリエンタの頬に手を当てて、力を入れないように包み込む。
壊したくない、大切にしたい。そんな想いを、手に込めながら。
「……お前の存在自体が愛しくて、仕方ないんだ。」
愛しいと口にするたびに、俺の頬は自然と緩む。
例え人外だとしても、人間が触れるには恐れ多い存在だと、理性が止めようとして来ても。
俺は、どうしたってカリエンタが愛しくて。
不安げに揺れる炎の瞳と目が合う。まだ、何かを躊躇したような影がカリエンタの瞳に燻っている。
この精霊は、戦闘のときは炎のように苛烈で勇ましいのに、人のことになると臆病になる。
「……それに、共感できないなんて嘘だな。俺とお前は、酒の好みが一緒だろ?」
その言葉を聞いたカリエンタは、ルビーの瞳を見開いた後に、ふはっと笑った。どこか泣き笑いのようにも見える、それでいて口角は不敵に笑っていた。
「……精霊に手を出すなんて、前代未聞だぞ。」
恥ずかしさを隠すように、どこか冗談めかしで言ったその言葉。ルビーの瞳は潤んだままだが、その瞳は奥から溢れ出る輝きを放っていた。
「はんっ。これから俺と似たような奴が、いくらでも現れるさ。……お前はそのぐらい、気高くて魅力的だよ。……俺の生涯を受け取ってくれるか?」
伺うように見たカリエンタは、それはそれは、嬉しそうに目を細めて笑っていた。
少年のように屈託のない、それでいて少し恥ずかし気な笑顔。
「……仕方ねえなぁ。付き合ってやるよ。」
その言葉を聞いた俺は、カリエンタを思いっきり抱きしめていた。カリエンタは観念したように、力を抜いて俺に身を委ねている。背中に遠慮気味に回された手に、嬉しさがこみ上げた。
恋に臆病になった精霊。
なんだ、人間とそんなに変わらねぇじゃねえか。
俺たちはそれからも、変わらずに酒を探す旅を続けた。
ダンジョンでは酒関連の宝物が多く出るようになって、ミカゲとヒューズの結婚祝いにそれらを送った。
ミカゲとスフェレライト殿下には、『飲む者によって度数が変わる酒』を。これは、ミカゲがめっぽうお酒に弱くて、酒を楽しめないことを本人が残念がっていたからだ。
……この前の食事の席で、香りづけにほんのりと酒を使ったケーキを食べたミカゲが、酔っていたのは記憶に新しい。
ミカゲは随分喜んでくれたようで、「スフェンとお酒が一緒に飲めて嬉しかった。」という手紙とともにお礼の品がわざわざ送られてきた。喜んでもらえて何よりだ。
可愛い末弟のヒューズとヴェスターには、『飲むと素直になる酒』を。簡単に言うと自白剤入りの酒だな。身体に害があるものではなく、少しばかり媚薬の効果もあるらしい。
これにはヒューズが大層喜んだ。なんでも、ヴェスターの可愛い姿が見れて、それはお楽しみになったようだ。ちなみに、ヴェスターには、ただの名酒だと説明しているそうだ。
そして、俺たちはと言うと……。
「リヴァイアサンの鱗酒は、旨かったんだがな……。」
リヴァイアサンの鱗酒は、熟成させると白色のにごり酒になった。その独特の甘みと、それでいてすっきりとした後味が、とても旨い酒だ。一気に飲むのが惜しくて、今もカリエンタの亜空間収納に納まっている。
ちなみに、あの『海底遺跡』のダンジョンは、俺たちが最初の攻略者となった。長年攻略されていなかったため、俺たちパーティーは一気に有名になった。
なんでも、巷では『紅炎の双星』という二つ名がついているらしい……。なんか恥ずいな。
「……ケートスのひれ酒、クソまずい。」
カリエンタのその言葉に、俺も同意した。
2人して苦い顔をしながら、目の前の酒瓶を見た。酒瓶の中には、透明な酒に独特の形のひれが入っている。
ケートスは下半身は魚で頭部は犬の、巨大な海洋生物だ。特徴的なのは尾ひれで、扇形で二つに割れている。その尾ひれを酒にしたんだが……。
こう、生臭さが強いというか……。
これは、ゲテモノだな。
今回は外れだったようだ。少し値の張る宿に泊まりながら、ゆったりと二人で酒を飲んで、顔を突き合わせて笑う。
この穏やかな二人の時間を、幾度となく過ごしてきた。
そして、これからも幾度となく過ごすだろう。
俺にとっては堪らず幸せな時間だ。
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いつも御愛読頂きありがとうございます🙇
めっちゃおもしろかった。可愛い受けが大好きです。
あ 様
いつも素敵なご感想ありがとうございます❗️
あ様ー‼️この作品も読んで頂き、さらにはご感想まで…(T-T)本当にありがとうございます🙇
思い入れが強い作品なので、あ様に面白いと言って頂けてすごく嬉しいです(>_<)受けも可愛がってくださり、ありがとうございます!
あ様の度々の温かい言葉、作品を書くときの励みにしています。今後も少しでも楽しんで頂けると幸いです❗️
いつもご愛読頂き、誠にありがとうございます🙇