不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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番外編、酒飲みたちの漫遊(フレイside)

リヴァイアサンとの戦闘 (フレイside)

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(フレイside)


美しい金色の槍を、すらりと構えたカリエンタが、このダンジョンに入る前から、気づいていたことをぼやいた。


「……ていうか、このダンジョンそもそも、俺たちと相性が悪ぃんだよな。」


火属性と風属性魔法しか使えない俺と、火属性の魔法しか使えないカリエンタ。このダンジョンを攻略するのに推奨されている魔法属性は、水系統に強い土属性や闇、光。


俺たちとは、まったく正反対の属性だった。この海での戦闘も、俺たちにとっては中々にハードである。


「……今更だな。」


俺がそう返事をすると、カリエンタは駄々を捏ねる子供のように頬を膨らませた。

……なんだその表情は?可愛すぎか。


「えー。水に濡れすぎて力が出ないー。助けてー、フレイさまー。」


棒読みの台詞で、カリエンタはそんな戯言を宣った。

俺は自分とカリエンタに、風魔法の結界を纏わせた。これで水に濡れて体温が奪われたり、動きにくくなることも避けられんだろ。


「おお、気が利くな。」

カリエンタはニヤリと笑いながら、風魔法の結界内で器用に熱風を起こし、俺と自分の身体を乾燥させた。


海賊船は、荒波と嵐の強風のせいで音を立てながら崩れていく。

これは早くしないと、足場が無くなるな。水中戦は出来るだけ避けたい。先ほどはカリエンタが部屋の水を沸騰させていたが、この階層は広さに際限が無さそうだ。


恐らくだが、あの船の扉を開けた瞬間に、亜空間に投げ出されたのだろう。いくらカリエンタであっても、広大な海を灼熱にするのは厳しいはずだ。


ギィギャェエエエーー!!

リヴァイアサンの咆哮とともに、左右のひれを大きく背中に反らせて広げた。海面から突如として、複数の水柱が立つ。水柱はブルブルと震えると、独りでに動き出して姿を変えた。


それは、水でできた透明な人魚だった。下半身は魚、上半身は鎧を付けた人型だ。人魚の騎士たちは、長剣や槍を構えて宙を飛び、俺たちに襲い掛かってくる。


俺は大剣を構えながら、魔力を練り上げる。火球を俺の周囲に複数個浮かせた。激しい雨でも炎が消えないのは、かなりの濃度で魔力を圧縮しているからだ。

これぐらいの芸当は出来ねえと、上級冒険者にはなれない。


火球は俺の魔力に応じて、マグマのようにドロリと燃えて熱くなる。人魚の騎士たちが構える切っ先が、間合いに入った。


「溶岩。」


俺はマグマの火球を、人魚の騎士に向けて放った。それと同時に甲板の床を蹴る。放たれた火球は、風を吸収してさらに大きくなり、人魚の騎士を包み込めるほどに大きくなる。

マグマに触れた人魚の騎士は、一瞬にして蒸発して白い煙に変わった。


火球を人魚たちに着弾させつつ、揺れる足場を跳躍し次々と場所を移動した。

リヴァイアサンと俺たちを、大きな渦が囲うように壁を作っていた。巻き上げられた海水に交じって、海底に眠っていた岩や、海底遺跡の石柱、海に棲む大型魔獣までもが宙に浮いている。


この激しく移動する浮遊物を、足場にしろってことだろう。


宙に浮く岩を数個蹴って、俺は海底遺跡の砕けた石柱に飛び移る。岩より大きな足場で、ぐっと両足に力を入れた。


リヴァイアサンが首をくねらせて、こちらに噛みつこうと身構える。グワッと口を大きく開け、鋭利な歯が生えそろった穴が、俺を飲み込もうと突っこんできた。


……敵から近づいてきてくれるなんざぁ、好都合だ。


火球の1つを、リヴァイアサンの目線辺りで爆発させる。爆発した瞬間に、火球は眩しい閃光を放った。火球を放つ寸前で、火と交わると強烈な光を放つ金属を混ぜたのだ。


もう1つの火球は跳躍する際の起爆剤にして、爆発させた瞬間に俺は宙へと高く飛んだ。目の前の閃光に、リヴァイアサンの目が一瞬眩んだのを見逃さない。


宙へと跳躍する間に、大剣に魔力を流す。剣が炎の色を纏って紅色に染まる。俺の身体以上に大きい、リヴァイアサンの青白い目を見ながら、熱く滾った切っ先に溶岩を纏わせた。


俺はリヴァイアサンの右目の端に、トンッと着地したと同時に溶岩を放つ大剣を、その眼球に突き刺した。


グギャァアアアーーーっ!


リヴァイアサンの口から、苦し気な悲鳴が上がる。ブンっ!と顔を大きく乱暴に動かして、俺を振り落とそうとする。俺はその動きを逆に利用して、リヴァイアサンの顔を駆けあがって目を切り裂いた。


痛みで暴れ回る大蛇から跳躍して、空中に浮いた岩に着地する。混乱しているリヴァイアサンの右ひれ目掛けて、大剣を振り下ろす。

上からさらに炎の斬撃を飛ばした。


三日月型の斬撃は大きな弧を描き、巨大な炎の鎌になる。炎の鎌は、上からリヴァイアサンの身体と、右ひれの接合部分を溶かし切った。


広げていた大きなひれが、海に大きな飛沫を立てて海面に沈む。


「……やるねぇ。さすがはS級冒険者。」


カリエンタの誉め言葉に、ニヤリと口角が上がった。



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