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番外編、酒飲みたちの漫遊(フレイside)
最後の階層へ(フレイside)
しおりを挟む(フレイside)
「沸騰」
下からは沸き立つ水泡の勢いが増す。大きくなった水泡は、ブクブクと不穏にあちこちから沸き出た。
カリエンタが魔法を施しているのか、俺たちはなんともない。ただ、今水中はまさに地獄の熱さだろう。先ほどまでひんやりとした水中が、突如として熱湯に変わった。
俺の視界の端を、綺麗な赤色になった蟹型の魔獣が通り過ぎて行った。見事に茹で上がったな。
水中を縦横無尽に動き回っていた貝が、ピタリと動きを止めた。力が入らないのか、重そうな扇状の巨体を水底へとゆっくり沈めていく。沸き立つ灼熱の水泡に、硬い貝殻ごと包まれている。
腰を落ち着けれそうな岩の窪みに、しばらく座って待つことにした。
「もうそろそろ、いいだろ。」
カリエンタの言葉と当時に、沸き立つ水泡が止まる。2人で深海まで泳いでいくと、そこにはパカッと貝殻の口を開いた巨大な貝が鎮座していた。
貝殻の裏は、美しく光を反射する銀色だ。
貝殻の中央には貝柱。ぐったりとした様子の貝は、既に絶命しているようだ。そして、一段と目を引くのは、貝柱の右側にある純白の宝玉。
「……真珠だな。とてつもなく、でけぇ。」
そこに、あったのは人の頭ほどはある真珠だった。
確かに艶があって美しく、至極の宝石といっても過言ではない。……いかんせん大きすぎる。
こんなに大きな真珠、装飾品にはできないだろう。
何に使うんだ??
とりあえず、俺のマジックバッグに仕舞った。カリエンタに欲しいかと確認したら、「そんなもん、いらん。」と一蹴されたからだ。光り物には、余り興味がないようだ。
この階層の主を倒したからだろう。海底の砂がぶわりと水中に舞って、楕円形の木製扉が現れる。扉には丸い窓と、船の舵に似た金色の金属が付いていた。
この金属を回すと、扉が開く仕組みだろう。
船でよく見る扉だった。
舵部分を両手で持ち、力を入れて右に1回転させた。カチッという音とともに、外側扉が開く。
「次が、最後の階層だな。」
このダンジョンに潜り込んだ目的が、この先にあった。
「……おし、行くか。」
「おうよ!」
俺たちは、泳いで扉をくぐり抜けた。
海底にいた俺たちは、一気に上から下に降下した。強い風に煽られながら、所々剥げて壊れている木目が近づいてくる。ぶつかる直前で風魔法を使い、カリエンタと二人で木製の床に降り立った。
ザァアアーと砂嵐の音のように響く、横殴りに降る大粒の雨。分厚く空を覆う黒い雲からは、雷が巣食ってゴロゴロと不穏な音を立て、時折轟音とともに閃光を落としていた。
風切り音がするほどに吹き荒れている。
海の荒れが激しく、波は濁流になり白く逆立っていた。俺たちを飲み込むように高く上がる波に、痛みさえも感じる程打ち付ける水飛沫。
自分たちの降り立った床は風に煽られ、波に煽られ、左右上下と落ち着きがなく大きく揺れる。帆を張るはずの柱は真ん中から無残にも折れ、甲板に横倒しになっていた。
広げられた帆には海賊たちが好んで使用する、骸骨と剣の絵柄。甲板に無情にも刺さった長剣や、弓矢。床には所々穴も開いていた。
最下層は嵐の吹き荒れる、沈没寸前の海賊船の上。
「……海賊船か!妙に凝ってるな。」
カリエンタが、愉快だというように声を上げて笑う。
ドンッという砲弾のような重い音とともに、激しく波が荒立って水飛沫が一斉に打ち付けた。
舵がひっきりなしに回っている船の先が、いきなり大きく上へと押し上げられる。船自体が後ろへと大きく傾き、樽やら箱やらが俺たちに降って来た。
カリエンタと俺は傾く船に身を任せながらも、前方を見遣った。
ギィギャェエエエーーーー!!!!
大気を揺らし、大きく震わせる咆哮が辺りに響き渡る。ザバァアアーンっ!という音を立てて、船体が海面に勢いよく打ち付けた。周囲に水飛沫が飛んで、雨と一緒に俺たちへと降り注ぐ。
「……これが、リヴァイアサンか。」
俺は、誰に言うでもなく呟いた。
海面からまっすぐに伸びる、びっしりと生えた岩のような鱗の首。その首を辿って見上げれば、曇天のほど近くまで伸びて、先がしなやかに前へと曲がる。
海蛇のような首の先に、ドラゴンの顔にも似た狂暴な顔貌。大きく裂けた口からは、得物を食い殺すための鋭い牙が無数に生えているのが見えた。
先端が針のように尖り、薄い膜を張る大きな背びれ。翼のように生えた左右のひれも、やはり先端は鋭い。
青白い目が、俺たちを標的に鋭く光った。
海賊や船乗りの間では、伝説とされている怪物。船を沈める元凶として語り継がれる。実際の海ではお目にかかれない。
何故なら、この怪物は幻獣とも言われ、存在しているのかさえあやふやなのだ。
ダンジョンは、そんな伝説の魔獣とさえも戦闘できる。
荘厳にして、凶悪狂暴。人間が太刀打ちできるのかさえ、危ぶまれる巨大な海のドラゴン。
海の覇者。リヴァイアサン。
久々の強者に、俺は思わず口角が上がった。
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