不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

番外編、酒飲みたちの漫遊(フレイside)

ダンジョン攻略(フレイside)

(フレイside)



俺たちは危なげもなく、サクサクと階層を進んでいった。


５階層では、巨大なオクトパスの中ボスが立ちはだかった。広い部屋で、自分達の数十倍はあろうかという巨体のオクトパスだ。

８本の触手を蛇のように操り、ぬるぬると襲ってきた。


部屋全体もぬるつき、さらには足を分裂させて、小さなオクトパスを何匹も降り注がせる。中々にきりがなく、面倒な攻撃だった。


俺たちは容赦なく、巨大なオクトパスを火魔法で丸焼きにした。茶色でぬめった肌が、赤色に変わってこんがりした。
茶色の美味しそうな焦げまでつけたのは、こだわりだ。

……この巨体を、食いたいとは思わないが。


「ミカゲの国だと、オクトパスを食べるらしいぞ。『カラアゲ』にするっつってたな。」

小さいオクトパスを、槍の持ち手で突っついていたカリエンタは、目をキラキラとさせた。


カラアゲっつうのは、食材に粉をまぶして高温の油で揚げた料理だ。旅をしていたときに、俺も一度食べさせてもらった。そのときは、鳥形の魔獣肉をカラアゲにしていた。

あのサクサクな衣と、中から溢れでジューシーな旨み。
あれがまた、泡立つエールによく合うんだよな。


カリエンタも、ミカゲのカラアゲを食べたことがあるらしい。イフェスティアの孤児院で、ミカゲが料理をしたときにご馳走になったそうだ。


「カラアゲかー、旨いんだよなー。……よし。小さいのを何匹か持っていくか。」

カリエンタは、床でべちゃっと広がっているオクトパスを、槍の先でひょいっと持ち上げた。オクトパスの足にある吸盤が、ちゅぽんっ！という音を立てて地面から外れる。


オクトパスをのせた槍先が、空中にできた黒い穴へと消えていく。カリエンタは地面にいるオクトパスを、ひょいっと拾い上げては、亜空間収納にしまった。


階層を進むにつれて、魔獣も強くなっていく。どの階層も海をイメージした白と蒼の世界だった。

９階層なんて、海の底だった。扉を開けると透明な膜が張ってあって、部屋の中を海水で満たしていたんだ。水中でも息をする術を持たなければ、階層をクリアできない。


俺が風魔法で全身に結界を張り、部屋を縦横無尽に行き交う二枚貝と戦闘した。貝柱を切ろうとすると貝殻を閉じられる。閉じた貝殻はとても固く、砕くのにも相当の力が必要だ。


器用に貝殻を動かして水流を掴み、二枚貝は俺たちに突進してくる。風魔法で水流を操りながら、周囲の壁を蹴って攻撃を避けた。



「フレイ、俺に任せろ。」

「っ？……っ？！！！」


そう言ったカリエンタは、いきなり俺にぎゅっと抱きついた。鍛えられた腕が、俺の背中に回される。


ちょっ？！
いきなり何だ？


「……そのまま離れんなよ？……離れれば一緒に煮えちまうぞ？」


そう言うやいなや、カリエンタと俺の身体が、燃え上がる炎の色に包まれる。これは、カリエンタの魔力だ。おもむろに、カリエンタが呟いた。


「沸騰」


水泡が、一気に下からボコボコっと不穏な音を立てて沸き上がる。鍋の水が温められて、沸騰する様子によく似ていた。