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番外編、酒飲みたちの漫遊(フレイside)
海底都市、生臭い(フレイside)
しおりを挟む(フレイside)
「……すげえ。」
扉を開けた先は、蒼の世界。
白色の石壁の廊下が、長く奥まで続いている。アーチ状の柱が連なり、そのどれもが海を思わせるサンゴや貝の彫刻で彩られていた。
天井もシンプルな白色の大理石だ。天井に等間隔に吊るされているシャンデリアが、これまた面白い。
シャンデリアは、白色のサンゴで出来ていた。サンゴ独特の折れ曲がった形の中に、明りを灯す平らな台座がある。
台座にはぷっくりとしたフォルム、黄色い魚が腹をつけて乗っていた。丸い頭からは触覚が伸びていて、その先には柔らかな光を放つ、丸い球体が付いている。
どうやら、あの魚の光る触覚がランプ代わりのようだ。気まぐれに台座を離れて、小さなひれをパタパタと動かし泳いでいく。
そうすると、また別の1匹が台座に座って明りを灯すのだ。
一つの台座に3匹が塊りになったりと、じつに自由気ままな灯りだった。
両側には、天井まで届くのではないかという高い窓。ガラスではなく、柔らかな透明な膜に覆われている。不思議な窓だ。
水がこちらに漏れ出ないのが、どういう素材なのか全く分からない。そして、そこから見える景色はまさに絶景だ。
「おいっ!見てみろよ、外!!」
カリエンタがはしゃぎながら、窓の外を指差した。窓から見えたのは、海の中の世界だ。数百という小魚が大きな群れで泳いで、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
ドレスのように優雅に尾ひれを動かす、俺ぐらいの大きさがある魚が通り過ぎていく。あれは南にいるカラフルな魚だったはず……。
「あれ?こいつ北にいる旨い魚だよな。鍋にいい、ちょっとグロな見た目の奴。」
カリエンタが指をさしたのは、目がこれでもかと大きい、一つ目の茶色い魚だ。身体もドロリとしてゾンビのように見えなくもないが、煮るとプルプルして身も美味しい高級魚だ。
あちこちで、住む場所も、季節も違う海の生き物が集まっている。現実では味わえない景色を楽しめるのが、ダンジョンの醍醐味だろう。
しばらく景色を楽しみながら、2人で白磁の廊下を進んでいく。カリエンタはおもむろに、指をパチンっと鳴らした。
一瞬で、カリエンタの右手に、人の頭ほどの丸い瓶型の魔道具が現れる。ガラスでできたそれを手に持つと、おもむろに窓に手を突っ込んだ。
透明なガラスの中に、美しい澄んだ蒼色の液体が入っていく。
「くはっ。……くすぐってぇ。」
カリエンタの指先には、小さなピンク色の小魚が集まって、ちょんちょんっと口で悪戯をしている。
……今思ったが、火精霊は水に手を突っ込んでも平気なんだな。
その魔道具は、通常は飲み水を入れて携帯するためのものなんだが……。カリエンタの持っているのは、さらに特別仕様。確か時間経過なしで、腐らないやつだったよな。
瓶の半分以上が海水で満たされたところで、カリエンタは窓から手を引っこ抜いた。魔道具に円柱型の栓を施し、指をパチンと鳴らす。
瞬き一つの間に、魔道具は消えた。
……?
その海水、何に使うんだ?
廊下の中ほどまで進んだ時に、俺とカリエンタは立ち止まった。既に大剣と槍は、ダンジョンに入る前に身構えている。
「……来るな。」
「そうだな。」
俺の言葉に、カリエンタも短く同意した。
その言葉を合図にしたのか、右側の窓がいきなり歪んだ。廊下側にスライムのように窓が入り込んだかと思うと、パシャっ、パシャっ、パシャっ、と水を床に吐き出した。
磯の香りがする水は、独りでにぐにゃぐにゃと動き出す。アグレッシブに動くと、やがて何かの形を形成し出した。
上半身は人間に近い。顔は魚のそれで、腕にはひれを思わせる半透明の羽根がついていた。下半身は尾の長い魚。硬そうな鱗がびっしりと生えている。
ギィィィキィヤャァアー!!!
鋭利な牙が生えそろった口を大きく開けて、威嚇の咆哮を上げた。大きな三又の槍を俺たちに向けて構え、3匹の魔獣が長い尾で勢いをつけて突進してくる。
「……シークリナップか。」
海の粛清者という名前の魔獣だ。見た目通り鱗は硬く、普通の刃では太刀打ちできない。
俺は魔力を流しながら大剣を構える。そのまま、左から右に大きく薙ぎ払った。
ヒュゴゴゴォーという炎が燃える音と共に、大剣から炎の斬撃が弧を描いて繰り出される。三日月型の斬撃はその大きさを増し、シ―クリナップ3匹に一気に襲い掛かった。
硬いはずの鱗は、灼熱で解けて3匹が真っ二つになる。
血肉が灼ける焦げ臭い匂いが鼻を刺激した。
こちらに襲い掛かってくる勢いが殺されないまま、上半身が緑色の血しぶきと共に俺たちへ襲い掛かってくる。2人で体を傾けてひょいッと躱した。
俺たちの目前を通り過ぎた上半身は、どさっと地面に勢いよく落ちる。ぐちゃッという血肉がつぶれる音と、シ―クリナップが持っていた槍がカランっ地面を滑る音が聞こえた。
「おー。沸いてきた、沸いてきた。」
カリエンタが手を頭に翳しながら、廊下を遠くまで見遣る。
両サイドの窓がぐにゃりと歪み、パシャっ、パシャっ、という水が落ちる音が忙しなく聞こえる。これは、無限に湧き出てくるパターンだな。長くいる場所ではなさそうだ。
そして、何よりも磯臭い。
自分たちもずっといると、生臭くなりそうだ。
「最低限だけ蹴散らして、先行くぞ。」
「ほいよ。リーダー。」
俺とカリエンタは、武器に炎を纏わせながら廊下を一気に駆け抜けた。走り抜けざまに魔獣を斬りつけてくる。
「魚、魚、魚。おっ、オクトパス。」
カリエンタは小気味よく敵を倒しながら、シ―クリナップの顔を見て面白がっていた。たまに、魚じゃなくて8本足のオクトパスがいたりする。
黒い墨を口から吐き出したのを、カリエンタは地面を蹴って避けると、槍を回して切り掛かった。
「こっちには、スクィッドがいるぞ。」
俺の目の前に現れたのは、白色で10本足の細長い顔だ。ぬるぬるしている。大剣で顔を輪切りにした。
ヒトデ型の顔を見たときは、中央で蠢く牙と口の気持ち悪さに、カリエンタと2人で引いた。
順調に廊下を駆け抜けて、廊下の最奥にあるコバルトブルーの扉にたどり着く。すると、カリエンタはなぜか上を見上げた。
「ちょっとだけ、いいか?」
「?……ああ、どうした?」
俺が扉の背後で戦闘を引き受けている間に、カリエンタが扉を蹴っ飛ばした。さらに白磁の壁を数度蹴って、天井へと高く舞った。
そこにあるのは、あのサンゴのシャンデリアだ。
カリエンタは、シャンデリアの吊り紐部分に片手でぶら下がると、おもむろに海水の入った魔道具を取り出した。
「こいつら可愛いじゃん。棲み処で飼えねえかなって。」
そう言うと、カリエンタは魔道具の蓋をちゅぽんっ!と音を立てて引き抜いた。俺は、その様子をチラリと伺いながら、こちらに迫りくる魔獣に炎の斬撃を飛ばす。
……だから、ヒトデは気持ち悪いんだって!
ぷうぷうと、寝息を立てて台座で寝ている3匹のランプ魚を、カリエンタは慎重に魔道具へと入れている。3匹は一つの塊のまま、カリエンタに指で押されて魔道具に捕獲されていた。
「ふははっ!すげえ、呑気。おーい!捕まえたぞー!!」
高い天井からカリエンタが、すたっと降りてくる。手に持った魔道具には、ランプの魚がぷかぷかと浮いていた。
一瞬、魔道具の中で目をパチリと開けて、そのまま眠たそうに再度目を閉じる。またぷうぷうっと、呼吸をして触手のランプを光らせながら眠りについた。
魔道具でも呼吸はしっかり出来ているようだから、このまま持ち帰れるかもな?
「おし、次行くぞ。」
「はーい!」
カリエンタは機嫌良く俺に返事をした。
ダンジョンで、戦闘中に魔獣を捕まえるとか……。
こうも余裕で進めるパーティーは、早々いねぇだろうな。
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