不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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番外編、酒飲みたちの漫遊(フレイside)

冒険者ギルド(フレイside)

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(フレイside)


「だから、お前と一緒に新種の酒を求めて旅をしたい!」

「っ?!!」


突拍子のない言葉に、口に含んでいた酒を危うく吹き出しそうになった。何とか酒は噴き出すのは堪えたが、喉の変な場所に甘い酒が入る。


派手に咳き込んだ俺を、カリエンタは「ふははっ!ひぃー!」と腹を抱えて笑い転げた。やっと咳が落ち着いた俺は、笑い過ぎて涙目になっているカリエンタをもう一度見遣る。


「……げほっ。俺と旅に出たいと?」

ひとしきり笑い転げて満足したカリエンタは、グラスとすいっと手に取ると、酒を一口飲みながら話をし出した。


「……ああ。お前は各地の地理に詳しい。案内役にピッタリだろ?それに、オレは人間の常識に疎いからな。酒を飲むにも人間のフリをして、馴染まないとだめだろ?」


……まあ、確かに言われてみるとそうか。
というか、カリエンタは人間のフリをしてまで、新種の酒を追い求めたいらしい。

酒飲みの鏡だな。


「お前に酒を持ってこさせる手もあったが、何度もここに帰ってくるのも面倒だろ?それに……。」

紅色の睫毛に縁取られた瞳を、すいっと細めてカリエンタはニヤリと笑った。


「……お前となら、旅をするのも悪くねえ。」


その言葉を聞いた俺は、思わず口角を上げた。グラスを傾けて酒を煽り、そっと隠す。


……ずりぃなあ。
そんな殺し文句を言われたら、一緒に行くしかねぇじゃねえか。


内心ほくそ笑みながらも、思考に耽るふりをする。


「……ここの棲み処はどうするつもりだ?」

「それなら、フェニや下級精霊に任せる!精霊の力が戻ったからな。オレがいなくても、棲み処の力が衰えることはない。」


何より、各地にある聖殿に行けば、カリエンタは精霊の棲み処にいつでも戻ることができるのだそうだ。緊急時も、それで問題はない。


「……ちなみに聞くが、冒険者の経験は?」

すいっとグラスの中を空にすると、グラスの縁を指先で撫でながら、伏し目がちにカリエンタは答えた。


「……昔に少しな。」


そう言って、ほんの一瞬寂しそうな気配をさせたのを、カリエンタは燃ゆる瞳に隠した。


長い付き合いになったから、隠そうとしても無駄だ。
俺は特に、お前の感情の変化に機敏なんだよ。まあ、無理に聞き出そうとは思わんが。

いずれ話したいと、思わせたい。


「オレがいれば、ダンジョンとか楽勝だろ?お前も楽ができるし、いい話だと思うぜ?」


そりゃあ、精霊がダンジョンに潜るなんて、聞いたことねえよ。むしろ自然界の掟でありなのか?

カリエンタにその辺りを質問すると、「ああ、ダンジョンはオレたちの管轄外だから。あそこは、ほんとに謎空間。オレもいて楽しいんだよな。」と言っていた。

自然の摂理は、良く分かんねえな。


俺としても、フレイと旅ができるのは願ったり叶ったりだ。……下心なんざあ、あるに決まってんだろ。


「……しゃあねぇ。行くか。」

「おっしゃ!よろしくな、相棒!」


そう言ってカリエンタは、俺の顔の前に手を差し出した。俺はその手にパンっ!と軽く音が鳴るように手を打ち付ける。そのまま、お互いの手を握りあった。

ミカゲの世界では、これをハイタッチって言うんだっけか?


会える時間が少なかったから、これはコイツを口説き落とすチャンスかもしれん。


それに、こんなにも心が踊るのは久しぶりだ。
目的が新たにできた旅も、コイツとなら楽しいだろう。



そんな話をしたのが、つい一昨日。
俺たちは今、冒険者ギルド、イフェスティア支部に来ている。


温泉地であり、有名な観光名所でもあるイフェスティアの冒険者ギルドは、他の支部とは規模も外観も違う。

ここは、街の景観に合わせて落ち着いたベージュの壁。木造4階建ての建物を見上げると、中央に冒険者ギルドと看板が掲げられている。


人が集まる場所は依頼も多いため、必然的にギルドの規模も大きくなったのだろう。木製の扉を開け、幾分か人が少ないギルドへと足を進めた。

吹き抜けの室内は、昼時のまったりとした空気が漂っていた。
突き当たりにカウンター、その前には冒険者たちが自由に使えるベンチとテーブル。


今は昼どきを少し過ぎたあたりだ。
朝は依頼を受ける冒険者たちでごった返しているが、今の時間帯は人がまばらだ。冒険者登録をするにはちょうどいい時間帯だろう。ギルド職員もアクビをしている。


今日はカリエンタの冒険者登録のため、冒険者ギルドを訪れている。

なんでも、カリエンタが冒険者をしていたのは、100年以上も前のことらしい。さすがに冒険者登録も抹消されているはずだ。


一緒に冒険をするなら、金も必要になる。冒険者として依頼をこなし金を稼ぎながら、旅をするのが効率的だろう。

ギルドは金を預け入れることもできるから、大金を持ち歩かなくてもいいメリットもある。ちなみに、預けている金は各地の冒険者ギルドで引きだすことも可能だ。


建物に入って右にある、依頼の紙が貼られたボード。それを見ていた冒険者が俺を見て、そのあとにカリエンタを検分するように見た。ギルド内の冒険者の視線が、俺たちに集まっている。


「……あれ、S級のフレイじゃないか?」
「……隣にいるのは?」
「あのカウンター、冒険者登録のとこだよな?」

口々に言いたいことを言うやつらに、視線をチラリと向けた。途端に皆が押し黙る。


部屋の中央にある木製のカウンターに向かうと、愛想の良い受付嬢にカリエンタの冒険者登録を依頼する。


「あと、パーティーの登録も頼んだ。」

「っ?!!」


俺の一言に、ギルド内が一気にざわめいた。



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