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番外編(王立騎士・魔導士団対抗武道大会)
約束
しおりを挟む『これより、優勝者と各団長との試合を行います。』
最初に行われたのは、体術部門。
緑炎騎士団団長と同色の制服を着た団員だ。緑炎騎士団の中で、体術では若手筆頭と言われている騎士団員のようだ。
緑炎騎士団の仕事は本当に多岐にわたり、喧嘩の仲裁や、酔っ払いをいなすことも含まれる。街中では人で賑わっている場所も多く、魔法を使用できる場所が限られているから、体術をよく訓練するそうだ。
そのため、緑炎騎士団員たちの体術は日々磨かれている。
跳び蹴りや、宙返り、素早い身のこなしが特徴の若手騎士。それとは対照的に、組手で相手の力を上手く分散し、注意深く隙を伺う騎士団長。
繰り出される早い拳も、なんなく腕で受け止めつつ、緑炎騎士団長は応戦していた。
最後には、殴りかかった騎士団員の懐に入り込み、騎士団員が膝蹴りしたのも手で止めると、頭突きで昏倒させて勝利していた。
魔法部門は、魔導士団長の勝利。ふふっ、と妖艶に笑いながら、魔導士団長の繰り出す魔術は破壊力抜群だった。魔導士団副団長も、魔法を爆発させ、魔法の火花に閃光が眩しく交わる。
しかし、最後には魔導士団長の放った、レーザービームのような魔法を食らい、魔石が割れて勝敗が決まった。
ヒューズと紫炎騎士団長の剣術は、凄かった。
動作が早くて目で追えず、カキンッ!という激しく剣がぶつかり合う音と、火花が飛んだ。
紫炎騎士団は30代半ばの若い男性だった。
フェイントを入れたり、緩急をつけての攻撃を繰り出してくる。対人の戦闘に慣れている様子で、ヒューズの力のある攻撃も、落ち着いて見抜いて受け止めていた。
ヒューズも素早く剣を操り、力と意外性のある攻撃を繰り出す。誘い込まれるフェイントにも乗らず、冷静だった。お互いが膠着状態になり、ほとんど互角。
紫炎騎士団長がヒューズの右胸の魔石を壊した直後に、ヒューズも紫煙騎士団長の魔石を壊していた。本当に僅差だった。
見事な応酬に、会場は静寂のあと、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
いよいよ、俺の番が近づいてきた。控え室では皆に激励される。
「日頃の鬱憤をぶつけてこい。」
「ボッコボコにして来なさい。」
「殺っちゃいなよ!ミカちゃん!」
「私への日頃の扱きの分も、晴らしてきてください!」
……蒼炎騎士団員の皆は、団長の扱いが少し酷い。
ツェルに至っては副音声が隠せていなかった。
皆の相変わらずの様子に、ふっと頬が緩む。
「……ああ、行ってくる。」
『これより、魔法剣術部門の試合を行います。蒼炎騎士団員、ミカゲ!』
名前を呼ばれて、闘技場内に入る。初戦とは違い、観客の皆が俺にも声援を送ってくれる。
『蒼炎騎士団長、スフェレライト・グラディウス!』
選手紹介の案内と共に、スフェンが会場入りする。歓声がより大きくなり、スフェンを出迎えていた。
女性の黄色い歓声が多い。スフェンは王族で、なおかつイケメン、実力もあるとくれば、モテないはずがないもんな。
濃紺の特別制服は、スフェンの金糸の髪をより引き立てて、美貌に一層華を添えている。エメラルドの瞳が俺を捕らえると、ニヤリと口角を上げる。
お互いに向き合ったときに、スフェンが審判員のいる目の前で、堂々とこんなことを言い出した。
「…ミカゲ。ただ試合をするのも面白くない。……1つ、約束をしないか?」
「……約束…?」
これから試合をするのに、どこか楽しそうな声音で、スフェンが言った。
「簡単だ。負けた方が、勝ったほうの言うことを1つ聞く。」
負けた方が、本当に嫌がるお願いはなし。それ以外なら、1つだけ、何でも言うことを聞くこと。
「……それは面白いな。そうしよう。」
俄然やる気が出てきた。
お互いの戦闘スタイルは熟知しているし、訓練でもスフェンと手合わせすることがあった。普段と何ら変わらなくて、面白みがないな、なんて思っていたんだ。
俺が勝ったら、スフェンに何を頼もうかな?
審判員が俺たちに所定の位置につくように促す。どうやら、会話もここまでのようだ。
空気が一変して、張り詰めた。
いつもの手会わせとは違う、真剣勝負。
「……始め!」
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