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番外編(王立騎士・魔導士団対抗武道大会)
魔法剣術部門、決勝
しおりを挟む「始めっ!!」
開始の合図とともに、ズザッ、と微かに地面の砂が踏まれた音が聞こえた。
ロト副団長の剣は、他の騎士が持っている形よりも、刃体が細長い。どちらかというと、レイピアという細身の刺突型の剣に近かった。
俺の正面で、鞘からロト団長が剣を抜こうと、姿勢を低くして柄に手をかけている姿までは、この目で見えた。
「っ?!」
次の瞬間には、その姿が消えていた。
気配を殺して、どこにいるのかも探らせてくれない。
視覚に、戦闘中は頼ってはいけない。
肌で感じ、気配を探れ。
周囲の空気が不穏に震える。
姿は見えずとも、相手の闘気が漏れ出ている。
自分の意志よりも先に、身体が反射して動いた。
カキンっ!!
「……やはりな。これぐらいの攻撃は、余裕そうだ。」
ロト副団長の感心したという呟きとともに、金属の激しくぶつかり合った音が、闘技場に響き渡る。
瞬き一つの間に、ロト副団長の鈍色に光る細剣が、俺を襲う。
俺の右下から、ヒュンッと細剣が現れ、右胸にある魔石を切り付けようとした細剣。俺は日本刀で受け止めて払った。
目の前には刺すような闘気を放つ、ロト副団長の視線。
3メートル以上あった間合いを、ロト団長は一瞬で詰めてきた。あまりにも早い爆発的な瞬発力。風魔法を発動させたのだろうが、発動させるまでの時間が圧倒的に短い。
片手で素早く、しなやかに繰り出される剣での攻撃。俺も日本刀の峰や刃で攻撃を受け流し、相手に突きを繰り出す。距離を取られて、躱される。
ロト副団長の剣術は素早く、それでいて振り下ろされる瞬間に重い力が加わる。
「……反撃までしてくるとは。」
一度、ロト団長は軽く地面を蹴った。跳躍しながら、身体を捩じって細剣を片手で振るう。跳躍してから地面に着くまでの僅かな間に、細剣は何度も鞭のように振るわれた。
ヒュンっ、ヒュンッ、ヒュンッ
しなやかに振るわれた細剣から、鞭が高速で撓るような、容赦なく空気を裂く音が幾重にも聞こえた。細く弧を描いた三日月型の斬撃が、一気に俺へと迫りくる。
ロト副団長の魔法属性は、確か、風、闇、火の3属性だったはずだ。
この斬撃も、ただの風魔法の攻撃にも思えるが……。
……何処か違和感を感じる。
「風巻(しま)け。」
俺は日本刀を柄を両手で持ち、地面に軽く突き刺した。俺を中心として、冷気を纏った風が嵐のように渦巻く。ロト副団長から放たれた斬撃が、細かな氷を纏った風に巻き取られる。
次の瞬間、漆黒の飛沫が斬撃から飛んだ。
これは……。
「……闇属性。しかも、麻痺の拘束魔法か。」
黒色の茨は冷気に触れて凍え、漆黒の蜜と共にボロボロと崩れた。細かな白色の氷粒子になって胡散する。
ロト団長は風の斬撃に、闇魔法を纏させたのだ。黒色の茨で拘束し、なおかつ相手を麻痺状態にする。あの漆黒の飛沫は、麻痺毒だ。
以前ツェルに教えてもらったことがある。闇魔法で簡易的に作り出す麻痺毒は、数十秒ほどしか効果がなく、実践的ではないと。その数十秒が、この戦闘では命取りになるだろう。
「すごい。氷魔法なんて初めて見た。」「水魔法だけではなかったのか……。」「なんて美しい。あの蒼炎騎士団員にぴったりだ。」と観客席から何やらどよめきが聞こえた。氷魔法が珍しいからだろうな。
魔法を相殺されたにも関わらず、ロト副団長は、面白いと言う声音で呟いた。表情は変わらない。
「……ご名答。しかし、見抜かれるとはな。」
これはかなり高度な魔法だ。一見すれば、本当に風魔法にしか見えない。僅かな闇属性の魔力の動きがなければ、気が付かないだろう。しっかりと隠蔽していたようだ。
一つの魔法攻撃でも気が抜けない。
真っ白な雪。獰猛で気高き、白き狼。
イメージは氷河期。
氷の花が舞うほどの氷点下、凍てつく吹雪。
美しく厳しい、自然の猛威。
そこに立つ、静かな猛獣。
「……白狼」
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