不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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番外編(王立騎士・魔導士団対抗武道大会)

魔法剣術部門、戦闘開始

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マルスさんの試合は、緑炎騎士団員との対戦だった。マルスさんの属性魔法は、土と風。あとはほんの少し火が使えると、以前教えてくれた。


対する緑炎騎士団員は、水と闇属性のようだ。水魔法で作り出した押し寄せる大量の水流を、強固な土壁でマルスさんが防いでいる。


緑炎騎士団員が灰色の炎、『灰玉』を爆発させ土壁を壊す。

しかし、その後ろには既にマルスさんの姿はない。
土で作った鋭利な複数の突起を足場に、対戦相手に迫っていた。そのまま、素早く風魔法を発動して、吹き荒れる風の球体に相手を閉じ込めていく。


しばらくすると、パリンッ!魔石の割れた音が聞こえて、緑炎騎士団員に防御結界が施された。マルスさんの勝利だ。


「……最後の魔法はえげつないですね。あれは、空気を失くす魔法では?」


ヴェスターが関心したように、先ほどのマルスさんの魔法を振り返る。空気を失くす魔法……。つまり、窒息させたのか。


マルスさん、愛されキャラなのに油断ができないな。
繰り出される魔法も的確で、やはり魔力操作も繊細だ。


『次の魔法剣術部門に参加させる選手は、所定の位置に移動願います。』


控え室内に、大会運営の声が響いた。スピーカー型の魔道具だ。


マルスさんが控室に帰ってくる前に、俺の出番が来たようだ。緊張するな。


「ミカゲ、いってらっしゃい。」

「ミカゲ、頑張れよ。」

「ミカちゃん、いってらっしゃーい。」

ヴェスター、ヒューズ、ツェルに順番に応援されながら、俺は控室を後にした。


「いってきます。」


少し狭い通路を通って階段を上がると、一部分だけ切り取られたように、明かりが入っている。その明るい部分へと歩みを進めると、目の前には開けた茶色の地面。

闘技場が姿を表す。闘技場をぐるりと囲んだ観戦席は、熱気に包まれている。人々の歓声とざわめきが、大きな音になって大地を震わせる。


俺は身体に空気が行き渡るように。
目を閉じて、深く、深く、深呼吸をした。

そして、ゆっくりと目を開ける。


大丈夫。
心は自然と凪いで、
静かな泉の中のように、落ち着いている。


固められた土の地面を踏みしめて、しっかり一歩踏み出す。
俺は、輝かしい太陽の下、闘技場に入った。


俺の参加する魔法剣術部門は、一番盛り上がる。魔法剣術と言いつつ、武器は剣でなくても良い。槍でも、弓でも、魔道具も使用可能だ。武器と魔法を駆使して戦えばいい。

簡単に言えば、何でもアリだ。より実戦的な対人戦闘。一般人などは、見る機会も少ないだろう。


俺が闘技場の所定位置まで歩を進めていると、相手選手の紫炎騎士団の人も、会場入りしたのが見えた。不思議と、歓声も何も聞こえなくなっている気がする。

気のせいだろうか?


……ああ、俺の対戦相手がイケメン過ぎるから、皆が魅入っているのかもしれない。


いかにも貴族と言うように、背筋が伸びた年上の騎士だ。歩く姿も優雅で、甘いマスクに、貴族特有の微笑みを浮かべている。


俺と紫炎騎士団員が所定の位置に着く。試合を始めるときは、お互い向かいあって距離を取るのだ。

体勢をやや低くして、いつでも剣を抜けるように構えた。


手はまだ、柄にかけてはいけない。始まりと同時に、武器の使用が認められる。
余計な力を入れずに、手を自然と降ろす。


皮膚をピリッと突き刺す、相手の闘気が伝わる。


俺は目の前の相手に集中する。魔物と戦うときと同じように、意識を集中して、感覚を研ぎ澄ませた。


周囲の音が聞こえなくなる。
張りつめた一線の糸を思わせる、心地よい緊張感。
少しの風も靡かない、澄み切った意識の水面。


ゴクっ、と誰かが息を飲む気配がした。


「始め!」


合図と共に日本刀を素早く抜いて、地面を即座に蹴った。


開始早々、紫炎騎士団員が炎で作った矢を、俺に向けて複数放つ。俺の頭、上半身、右足、左足と狙って放たれた矢は、一直線に俺に向かってきた。

火の矢は、それぞれ僅かだが、時間のズレがある。

その僅かな時間のズレと、弾道を見抜く。俺は、地面を強く蹴って勢いを付けながら、身体を捩じった。


俺の顔すれすれを火の矢が通過していく。次々と襲いかかる火の矢を、前進する勢いを殺さずに、最小限の動きで躱した。


「っ?!早い!」

相手選手が驚いた顔が見えた。だが、それもつかの間だ。
俺の発動させていた『感知』の波紋に、魔力の流れが引っ掛かった。


「……地面か。」

俺は地面から魔力の流れを感じ、咄嗟に右に跳躍した。先ほど俺のいた場所には、直後に鋭利な土の棘が出現する。身体を貫けそうなほど、先が鋭い。

そこからは、俺の足の着地点に、次々と土の棘が出現させられた。魔力の流れを何とか先読みし避ける。


「くっ?!なぜ当たらない??!」

紫炎騎士団員の元まで、あと数メートル。
俺の斬撃の射程圏内に入った。


俺は魔力を一瞬で身体に沸騰させて、日本刀を薙ぎ払った。風魔法の刃を、紫炎騎士団員に繰り出す。弧を描いて、複数の風の斬撃が相手選手に向かっていく。

紫炎騎士団員は高い土の壁を作り、風の斬撃を防ごうとした。


……その風の斬撃は、普通とは少し違うんだ。


複数放った風の刃は、中心が重なるように放った。やがて周囲の風を巻き込んで、大きなトルネードとなり土の壁に向かっていく。


ドゴォォォン!


凄まじい破壊音と共に、土壁をトルネードは貫いた。砕かれた強固な壁の破片が宙を舞う。瓦礫と化した土壁が、紫炎騎士団員へと飛び散った。


「ぐっ!!」

紫炎騎士団員の、呻き声が聞こえる。粉塵も舞い上がっていた。

俺は壊れた土壁の破片を目眩ましに使い、相手の左側から一気距離を詰めた。魔法を出す暇を与えないため、絶え間なく剣で斬りかかる。


相手は、さすが、剣術の強い紫炎騎士団。俺の気配に気づいてすかさず長剣で応戦された。
簡単には、魔石を壊させてはくれない。


「くそっ!」

相手の舌打ちが聞こえたかと思うと、剣に炎の渦を巻きつけているのが見えた。そのまま、袈裟斬りしようとした俺の日本刀を、内側から払ってきた。

水魔法を使って炎を相殺したが、相殺した際に小さな爆発が生じた。爆風で、俺は身体ごと右外側に弾かれる。


「はっ!!」

相手選手は、俺が身体のバランスを崩した隙を突いてきた。
気合いの声を出すと、右胸の魔石を狙い、素早く切っ先を突き出してくる。


俺は外側に弾かれた力を利用して、右足に体重を移動した。足を屈曲させ、身体を低くし地面に近づける。

俺の頭部の直上を、切っ先が通り過ぎた気配がした。


切っ先を突き出した相手は、胸元に僅かに隙が出来ていた。


右外側に弾かれた刀の柄を、右手の中で遊ばせる。刃体を返して、刃を上向きにした。

上体を一段と低くし、左足を一歩大きく踏み出す。相手の懐に速やかに入り込んだと同時に、右下から一気に、左上へと斬り上げる。


相手の右側を駆け抜け様、右胸の魔石を斬った。
ヒュンっという風切り音と共に、魔石に一閃が走る。


相手の横を駆け抜け、次の攻撃に備えた。相手に向けて日本刀を構える。


しんっ、と会場が静まった。


俺は魔法石を砕けなかったと思い、さらに攻撃をしようと、紫炎騎士団に斬りかかろうとした、そのときだ。


キンっ。


静まり返った会場に、軽く高い音が鳴る。


相手選手の足元に何かが落ちて弾んだ。
金属の装飾ごと、綺麗に斜めで割れた、魔石の勲章が転がる。


「そこまで!」


審判の制止の合図に、俺は相手選手の首もとに当てようとした切っ先を、降ろした。
日本刀を鞘に納めて、臨戦態勢を解く。


「勝者、蒼炎騎士団ミカゲ!」


一瞬、息が詰まったかのような静寂のあと。
今日一番の歓声が、当たりにこだました。


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