不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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番外編(王立騎士・魔導士団対抗武道大会)

各団の特色

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「……相変わらず、紫炎騎士団は人気だねぇ。」


体術と剣術の選手が会場入りする中、ツェルが揶揄うように呟いた。


こうやって見ると、各騎士団にも特徴がある。王族の護衛をする紫炎騎士団は、貴族出身がほとんどだ。家柄も良く、国に忠誠を誓っている良家の子息が多い。

王族と共に外交の場にも出なければいけないため、礼儀作法はもちろんのこと、その立ち姿も清廉された貴族のそれで、華やかで美しい。

観客の声援に、笑顔で手を振って応えるあたり、こういった大勢の人の場も慣れているのだろう。手を振り返された令嬢が、「キャー!!素敵ー!○○さまー!!」と黄色い歓声を上げている。

確かに、皆キラキラとしたイケメンが多い気がする。
少しキザな感じがするが、どこかの男性アイドルのようだ。


「……緑炎騎士団は、見ていて清々しいんだ。」


ヒューズも会場にいく準備をしながら、教えてくれた。

緑炎騎士団は、親しみやすい好青年といった感じだろうか。主な任務が街の治安維持のため、街の人にも愛されているのだろう。


声援に交じって、「おい、○○さん!今度一緒に飲みに行こうぜ!」というおっちゃんの声や、「わぁー!!○○さんだー!がんばれー!!」と、街の子供たちが手を振って元気いっぱいに応援している。

その声援にはにかんで応える、緑炎騎士団員の笑顔は、爽やかで輝かしい。


「……魔導士団は、相変わらずマイペースですね……。」


ヴェスターが苦笑いをしながら、呟いた。

魔導士団は、研究者肌なのだろう。物静かで、穏やかそうな印象の人が多い。あとは、物思いに耽っているのか、考え事をしている人も多い、かな?

選手の中には、闘技場の広さを見て、「この広さなら、あの魔法を使っても大丈夫だな。」とか、「ワタシのあの大魔法をぶっ放します!」という声が聞こえる。

この闘技場、壊れることはないけど加減はしてほしい。
なんだか、「フフフフっ」と笑って、見るからに怪しい魔道具を持っている人がいるが、あれは……いいのか?


子供たちからは、「何あれ!カッコイイー!」「魔法すごーい!」と以外に人気があるようだ。魔法って確かに、見ていてわくわくするもんな。


そして、俺のいる蒼炎騎士団はというと……。


「……なんか、歓声が野太い……。」


俺は正直な感想を呟いてしまった。


実力主義のため、平民も貴族も入り混じった蒼炎騎士団。

曲者ぞろいで、なんとも個性的だ。魔物と対峙することも多いためか、他の騎士団員よりもガタイが良い。
紫炎騎士団にも負けず劣らず、イケメンが多いが、歴戦の傷を負っている者も多く、眼光も鋭い。全体的に厳つい感じがする。

よく言えば無骨で個性的、悪く言えば粗野。


蒼炎騎士団には、男性からの声援が多い。「マジでカッコいいっす!惚れる。」「ああ、見事な筋肉……。堪らない……。」とか、男が惚れる男って感じなのかな。

ちなみに、大体の蒼炎騎士団員が、小さい子供に近づくと泣かれる。


人々の反応に面白いなと、感心していると、応援のため控え室にスフェンがやって来た。


各団には、闘技場に程近い場所に控室が設けられていた。外の様子も見えるように一部がガラス張りになっていて、戦闘する団員の姿を間近で見ることができる。


「皆の健闘を祈る。……まあ、好きに暴れて蹴散らしてこい。」


スフェンは、ニヤリと意地の悪い笑みを顔に浮かべ、皆を激励した。


「はい!」

選手全員が声をそろえて返事をした。
皆、『そう来なくては。』と言うように、武者震いをして、口角を吊り上げ好戦的な笑みを零す。そんな余裕が、俺にも欲しいものだ。



「ツェル、ヒューズ、いってらっしゃい。」

「ああ、油断はしない。」

「いってきまーす。」


ツェルとヒューズを送り出しながら、俺は、訓練や普段の戦闘の成果を、精一杯出し切ろうと改めて心に言い聞かせる。


そんな決意をしている俺の傍に、スフェンが近寄ってきた。


「………ミカゲ。やっぱり、こんな大勢の人に、ミカゲの姿を見せたくない……。」

スフェンがため息をついて、俺の短くなった髪に触れた。


実は、この武道大会に向けて、俺は胸位まであった髪の毛をバッサリと切った。元々、長い髪には慣れていなかったし、戦闘時に邪魔になるだろうと思ったからだ。

今は、前のほうを耳が隠れるくらいの長さにして、後ろをやや短めにしている。


ヴェスターは、「一括りで結んで、お揃いみたいな髪型だったのに……。ちょっと寂しいです。」と残念そうに言われた。

俺はすっきりしてよかった。理髪店の店主さんも、いい仕事をしてくれて、俺はこの髪型を結構気に入っているんだ。


ただ、髪を切ったことに関しては、一悶着あった。
特に、スフェンがすこぶる悲しんだのだ。


「どうして、私の断りもなく切ってしまったんだ?」と子犬が泣きそうな顔をされたあとに、お仕置きと言ってその日はひどい目にあった。
スフェンは、俺の真っ白な髪をいたく気に入っていたらしく、そのまま伸ばしてほしかったらしい。


でも、今の髪型を見せると「……とても似合っているし、これは、これで良い……。というか、色気が増してないか?」と頭を抱えていた。


いや、俺に色気なんて皆無なんだが……。
蒼炎騎士団員の男気溢れる色気が羨ましい。


そして、騒がしかったのは精霊たちもだ。どこから話を聞きつけたのか、下級精霊たちがわんさかと集まってきた。

なぜか俺の切った髪を争奪していったのだ。『きらきらー、いやしー』『綺麗なおいしいまりょくー』とか、なんとか言いながら、小さな羽根を見たことないぐらい、バタバタとさせて奪い合っていた。


さすがの下級精霊の勢いに、俺はちょっと引いた。


……美味しい……?
俺の髪の毛をどうするのか、怖くて聞くに聞けない。
まあ、好きにしてくれていいのだけれど。


そんな騒動を思い出していると、俺の近くにいたヴェスターが呆れた声音で溜め息をついている。


「……ほら、惚気るのはそれぐらいにして。団長も自分の控え室に戻る時間でしょ?」


各団長たちは、一つの控え室に集められている。団長が全員集まる機会も少なく、親睦を深めるためだそうだ。団員の引き抜きや異動についても、そこで話が出たりするらしい。


「……スフェン、待っていて。決勝でスフェンと戦えるように、頑張るよ。」


スフェンに微笑みながら、スフェンの両手を握った。


「……ああ、ミカゲ。……心配だ……。」


いろんな意味で。

スフェンが最後に何か呟いたが、小さな声で聞こえなかった。


俺、かなり心配されてるな。
やっぱり、参加選手は明らかな強者なのだろう。
予選で負けないといいけど……。


「さあ、剣術と体術の初戦が始まりますよ。……団長、戻ってください。」


ヴェスターに、しっ、しっ、とスフェンが追いやられ、部屋を出ていく。


「スフェン、またあとで。」

「……ああ、またな。」


スフェンが部屋を後にすると、直ぐに試合開始の合図が鳴った。


割れんばかりの歓声を背に、体術と剣術の試合が、始まった。


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