不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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番外編(エリオットside)

旅とフォリアと僕 (エリオットside)

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(エリオットside)


お城の3階近くにあるバルコニーに、しゃぼん玉はふよりと降り立って、パシャンっ!とわれた。

「あっ、いてっ。」


心の準備ができないまま、しゃぼん玉が割れたから、白い床に尻もちをついた。フォリアはさすが猫だけあって、トンっと地面に見事に着地している。


『ふふっ。可愛い。ようそこ。僕たちのお茶会へ。』

『どんくさいヤツだな。ほら、ささっと来い。』


窓ガラスが開けられて、薄いレースのカーテンが揺れている室内から、二人の男の子の声が聞こえた。そおっと中を覗いてみると、見たことも無いような、豪華な部屋だった。


天井に金属製のシャンデリア?っていうのかな?それが吊り下がっている。そのシャンデリアは、星がたくさん散りばめられていて、可愛くておしゃれだった。


それに、さっきまで青空だった外は、綺麗な星空に変わっていた。深緑色の絨毯はふかふかで、足が程好く沈んでいく。


部屋の中央には、長いローテーブルを挟んでカウチソファが一つと、大きなソファが一つ。茶色の革製のソファは、孤児院の子供たちが全員座れそうなくらい大きい。


『こっちにおいで。ここに座りなよ。』

カウチソファに座っている2人のうちの、一人の男の子に、向かい側のソファに座るように言われた。


綺麗な金の星色の髪に、紫色の瞳。服装は貴族なのかな?

白いジャケットに、半ズボン。黒色のワイシャツに紫色の大きなリボン。左胸の橙色のブローチがキラキラしていた。


にこにこっていう笑顔が、とっても眩しい。


『初めまして。僕はラディース。』

星色の髪の毛の子が、名前を教えてくれた。


『……ハーミットだ。』

夜みたいな黒色の髪、オレンジ色の瞳。黒いジャケット、黒色の半ズボン。白色のワイシャツで、紫色の控えめなボウタイ。

左胸には紫色の宝石のブローチが、静かに光っている。
ハーミットは、カッコイイ感じの男の子だ。


僕よりもやや年下の、顔がそっくりな双子の男の子だった。

身を寄せ合って座っているのを見ると、きっと仲良しなんだろうなって思った。


「こんにちは。僕はエリオット、こっちはフォリア。よろしくね。」

「ミャア。」

僕とフォリアは促されるままに、ソファに座った。革でできたソファはすごくふかふかで、慣れていない僕とフォリアは危うくソファの中でひっくり返りそうになった。


そんな様子を、ラディースはクスクスしながら見ていて、ハーミットは『しょうがないな。』と言いながらも、クッションを僕たちの背中に当ててくれた。


ローテーブルの上には、たくさんのお菓子とごはんが並んでいた。マカロンにクッキー、数種類のケーキ。お皿が3段に連なった金属製の塔みたいな食器には、サンドイッチや小さなグラタン、シュークリームなども載っていた。


なんだか、これって絵本で見た、ティーパーティーみたいだなって思った。


『僕たちはとっても暇なんだ。よかったら、一緒にお茶を飲んでお話ししよう?』


ポットには温かな紅茶が入れられ、僕の前にもティーカップが差し出される。フォリアの分も出てきて、どうやって飲ませようかと思ったら、カップに手を突っ込んでぺろぺろと舐めていた。


僕は度肝を抜かれたけど、フォリアのお茶は猫用にぬるめにしてくれたらしい。僕とフォリアのカップは、お揃いの猫の肉球柄だった。小瓶に入っている砂糖は、星の形をしている。


紅茶を一口飲むと、温かくてじんわりと身体に染みた。紅茶を飲みながら、ラディ―スとハーミットはたくさんのお話をしてくれる。

銀の星と金の星は、1年ごとにどっちが今年は金に光るか、銀に光るか、相談しあっているとか。流れ星は、海に落ちると綺麗な宝石に変わるとか。月にはラパンが棲んでいて、『オモチ』っていう、珍しいお菓子を作っているとか。


聞いていて、すごくわくわくした。御伽噺みたいだけど、きっと本当のことなんだろうなって。

だから、僕は、孤児院の皆のことと、シエルとフォリアのことを話したんだ。僕の大好きなものを、二人には知って欲しかった。


『……へえ。モノに魂が宿るか……。そんな話聞いたことがないな。』


ハーミットが興味津々というように、フォリアを見た。フォリアは全然気にしていないみたいで、小首を傾げている。
僕はお茶に濡れたフォリアの手をナプキンで拭いた。


孤児院の子たちの話をしていたら、ふとテーブルにあるお菓子に目がいく。
皆はお菓子が大好きだ。僕はあまり多い量を食べられないから、クッキーを数個食べさせてもらったけど、頬っぺたが落ちるくらい、とても美味しかった。


皆にも食べさせてあげたいな……。


『ふふっ。いいよ。孤児院の皆にもお菓子を食べてもらおう。……ミカゲに頼めば大丈夫かな?』


僕の考えは口からポロリと出ていたみたいだ。その言葉に僕は嬉しくなって、二人にお礼を言った。


「ありがとう。ラディ―スとハーミット。皆すごく喜ぶよ。」

女の子とたちは、このキラキラの綺麗なお菓子に目を輝かせると思う。男の子たちは、美味しいものだったら、なんでも食べる。


『どういたしまして。こちらこそ。すごく楽しかった。』

『……面白いものが見れた。……手を出して。』

ハーミットに言われて、僕は両手を目の前に差し出した。

すると、空いている窓からヒュンっと軽い音を立てて、僕の手の中に何かが飛び込んでくる。

最初はあまりの眩しさに目を閉じたけど、すぐに眩しさが収まった。目を開けると、僕の手の平には、小さな角の多い星が2つ。星には紐を通せるように、輪っかの金具が付いていた。


ほんわかと金色に光るそれは、窓の外に映る夜空の星そのものだった。


『これをあげよう。二人が、ずっと仲良くいられますように。』


そう優しくラディ―スが微笑み、ハーミットが『時間だぞ。』と僕たちに告げた。

『またね。エリオット。』
『またな。エリオット。』

その言葉を最後に、僕は眩しい光に包まれたんだ。


やっぱり気が付くと朝で、すごく素敵な夢を見たなって、幸せな気分で目が覚めた。今日も仰向けの僕に、容赦なくフォリアが乗ってくる。

フォリアは何気に、僕が蛙のように『ぐえっ』ていうのを、面白がっている気がする。


「フミャア」

おや?

フォリアの首元につけていた緑色のリボンに、きらりと光る何かが付いていた。それを見た瞬間に、僕は驚いて飛び起きた。

勢いよく飛び起きた僕とは違い、フォリアは呑気にベッドにトンっと降りて、ペロペロと毛づくろいをしている。


フォリアの胸元には、昨日夢で貰った、星の石が輝いていた。朝日に照らされたそれは、金色の光をキラキラと纏っている。


フォリアの星の石を触ろうとして、今度は自分の左手に、何かチャラっとしたものが見えた。
緑色の飾り紐に、フォリアとお揃いの星の石が付いている。


昨日のは夢だったはず……。

でも、こうして、あのラディ―スとハーミットに貰ったものが、僕たちの手にあった。


可笑しくて、でも、見ているだけで心が温かくなって、わくわくして。


「……フォリア、楽しかったねえ。」

「ミャア。」


それから、夜に眠ると、僕とフォリアは一緒に旅に出る。


次に行ったのは、屋根が玉ねぎの形をした、でもとっても綺麗な白色のお城。カリエンタっていう元気な男の人に会った。


その人と一緒に、お城の濠に泳いでいる火の魚を釣ったんだ。

釣り糸には、カリエンタが作った赤色の小さな火を餌にして、ツンツンってされたらタイミングよく引っ張る。引っ張り上げると、ものすごい勢いで魚が跳ねて、そのまま夜空に飛んでいくんだ。


そしたら、ドカーンってすごい音と一緒に、夜空に大きな花が咲いた。緑、青、赤って線になって、綺麗は火の花が目の前で咲くと、サラサラと夜空に消えていく。『花火』って言うんだって。


僕があんぐりと口を開けていたら、カリエンタが大笑いしていた。

カリエンタからは、お土産だと言って、まん丸のガラス玉を2つくれた。夜空に浮かんだ花火を閉じ込めた、綺麗なガラス玉だった。


アニマという男の人は、僕たちに鳥の羽根を生やしてくれた。フォリアの背中に真っ白な鳥の羽根が生えたときには、すごく可愛くて思わずぎゅっとしてしまったんだ。

風を切りながら空を飛ぶのは、すごく気持ちがよかった。

洞窟の中に降り立つと、そこにはとても大きな石像があった。アウラドラゴンって言って、アニマのお友達だったんだって。とても、穏やかで優しそうなドラゴンだった。

綺麗だねっていったら、アニマは嬉しそうに『そうだろ?』
って笑っていた。
アニマは僕たちに、真っ白な羽根の形をした石をくれた。


綺麗な泉には、アイルっていう男の人がいた。泉の周りには、風船に似た膨らんだ小花がたくさんついた、白く光る花が咲いていたんだ。

その一つを摘むと、アイルと僕、フォリアが泉の中に入っていったんだ。


僕は、初めて水の中を泳いだ。

現実では、僕の身体は弱りきって泳げない。でも、夢の中では自由に動けて、ひんやりして気持ちが良かった。フォリアも前足を描いて、器用に泳いでいた。


花の明かりを頼りに泉の底まで潜ると、そこには『人魚』が住んでいた。上半身が人で、下半身が魚の身体。尻尾もある。

岩に座った綺麗な女性の人魚たちが、ハープとか、バイオリンを持って楽しそうに演奏していた。美しい音色で、音に合わせて小魚が群れて泳いでいく。僕の目の前を、ヒラヒラした尾びれの魚が通りすぎた。


すごく素敵な演奏でしたって言ったら、アイルがその人たちに伝えてくれたみたいで、綺麗な、透き通る鱗をくれたんだ。


ポムフルールは、5歳くらいの男の子だった。すごく元気で、孤児院の子たちみたいだった。かくれんぼをしようと言われて、僕とフォリア、ポムフルールと、小さな羽根の生えた、小さな子供たちと一緒にかくれんぼをした。


本当は、孤児院の皆ともこうやって、遊んでみたかったんだ。


小さな子たちは本当に隠れるのが上手で、ポムフルールの着ているポンチョのフードの中とか、フォリアの耳の後ろとか。もう色んな場所に隠れるんだ。


すごく大きな木陰で休んでいると、木がさわさわと揺れて、ポトリっと金色の木の実が一つ落ちてきた。それからは、次々に金色の木の実が落ちてきたんだ。


大変だと言って、小さい子たちとポムフルールが、緑色のツタで大きな網を作った。皆でそれを木の下に広げて、木の実を集めた。

網の中で木の実が跳ねるのが楽しかったみたいで、小さい子供たちが木の実と一緒に跳ねて遊んでた。


収穫のお礼にって、ポムフルールからたくさんの木の実と、黄金色に咲く綺麗な花を貰った。木の実は、孤児院の皆と食べたいって言ったら、『ミカゲに頼んでおくね!』って言ってた。



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