不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第九章 真相

真相

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神殿本部に赴いた数日後、俺は王都の聖殿にスフェンと一緒に訪れていた。邪神シユウを滅ぼしたことを、報告しようと思う。

一緒に聖殿まで来てくれたスフェンは、どことなく浮かない表情をしていた。ここまで手を繋いでいたが、その手に僅かに力が籠っている。


聖殿に入ると、落ち着いた色合いのベージュの部屋に、優しい光が降り注いでいた。白や緑、茶色のタイルの天井からは、3連になった輪の照明。花のつぼみのようなカンテラが、可愛らしい。


礼拝場所の前には精霊王ベリルの石像がある。礼拝場所に歩み出した時に、スフェンが俺の名前を後ろから呼んだ。


「……ミカゲ」


呼ばれて振り返った俺を、スフェンがぎゅっと抱きしめる。突然のことで、俺はスフェンの胸にすっぽりと収まってしまった。


俺の背中に回された腕には力が込められ、お互いの身体がピッタリと密着している。スフェンの鼓動が、心なしか早い気がした。
俺の肩に額を乗せて、何かを堪えているような気配がする。


俺はそっと、スフェンの背中に手を回した。はっとしたようなスフェンの息遣いが聞こえて、さらに腕に力を込められる。しばらくの間、無言で抱き締めあった。


スフェンの体温が、そっと離れていく。太陽の光のように眩い、美しい金糸の髪が揺れた。深緑色の宝石は、穏やかに細められ俺を見つめている。
その静かな瞳に、切なそうな、哀し気な色が見えた気がした。


「……ミカゲ、私はここでずっと待っている。だから、行っておいで。」

両頬を優しく、大きな手で包まれる。剣だこができた、戦う人の手だ。眩しい美貌の顔が近づき、額にそっと柔らかな唇を落とされた。

美貌の王子がそっと俺の背中を押して、祈祷場所まで促してくれる。俺はスフェンに無言で頷くと、祈祷場所で片膝をつき、胸の前で両手を組む。


スフェンの視線が、俺の背中をずっと見守ってくれているのを感じた。瞼をゆっくりと閉じて、俺はベリルに会えるように祈りを捧げる。


しばらくすると、俺の周りの空気が変わった。目をゆっくりと開ける。ここはいつも懐かしくて、揺蕩うように心地よい。


星空のアーチ形の天井に、草花模様の彫刻の壁。
温かな風の吹く清廉な室内。

白銀で毛先が薄い水色の長髪が、ふわりと風に靡く。
薄緑色の垂れ目を細めて、優し気に微笑んでいる。緑色の中に小さな光が漂っているような幻想的な瞳。

裾の長い白色の布が幾重にも重なった服は、神聖なこの場によく似合っている。


『……美影、会いに来てくれて嬉しい。』


柔らかな人を包み込むような男性の声。精霊王ベリルは、嬉しそうに微笑んだ。

片膝をついて祈りの体勢を取っていた俺は、そっと立ち上がる。


『邪神シユウを滅ぼしてくれたのですね。……本当にありがとう。美影には、たくさん辛い思いをさせてしまいましたね。』

俺の頭を、その細く美しい指で優しく梳いてくれる。俺はその手を取って、両手でそっと握った。


「……そのことで、ベリルに聞きたいことがあるんだ。」

俺は意を決して、ベリルの薄い緑色の瞳を見つめた。相変わらずベリルは微笑んだまま、俺の手を握り返す。


『……何が、聞きたいのでしょう?』


俺は神殿本部の地下に行ってから、ずっと疑問に思っていた。


いくら、召喚魔法で何が呼び出されるか、分からないとしても。
人間が『神』を呼び出すのは、不可能だ。


何故なら、世界自体が違い過ぎるからだ。悪魔は、人間の生活に身近に潜んでいるため、なんとか召喚することも可能だろう。
しかし、神界は全くの別世界。もっと言えば、格上の世界だ。

『神』とつく者たちは、人間の召喚に応じない。
『神』にとって『人間』は、道端に落ちている石と同じ存在なのだ。


人間は、気まぐれに道端の石を拾う。
気に入れば持ち帰り、飾る者もいるだろう。でも、飽きてしまえば捨てる。気まぐれに拾って、遠くへ投げる。

蹴られて遠くに飛ばされる。川にも投げ込まれるかもしれない。石同士をぶつけて遊ぶ。
壊されてヒビが入り、粉々になることもあるだろう。


でも、人間は道端の石なんてどうでもいい。

だって、見渡す限りたくさんあるのだから。
壊したって、自分のたちに影響が全く無いし、自分たちの世界にも、何の影響もない。
なんなら、そのまま放置したっていいのだ。


神にとって、人間はそういう存在だ。
そんなふうに思っている存在の呼び出しに、『神』が応じるわけがない。


邪神シユウは人間に封印されていたが、確かに『神』なのだ。
ましてや、異世界にいる『神』を、こちらの世界の、
ただの『人間』が召喚できるはずがない。


つまり、邪神シユウを人間が召喚できるよう、誰かが手伝ったとしか思えないのだ。
しかも、こちらの世界の神域に近い者が。


俺はそこで、一つの答えに行きついた。
それが出来る存在は、俺の知る限り、一人しかいない。


俺の長い沈黙も、ベリルはずっと待ってくれている。
緊張で口の中が渇く。俺はうまく動かない口を、何とか開いて言葉を紡いだ。

自分でも驚くほど掠れて、か細い声だった。


「……邪神シユウをこの世界に導いたのは、……ベリルなのか?」


精霊は、神域の者に近い。
創造神が生み出した直系の子供たちとさえ、言われている。
いわゆる、神の子供たち。
その中でも、精霊王は格別の存在だろう。



『………やっぱり、私の美影は賢いね。』


ベリルは静かに呟いた。


よく気が付きました、と言うように。



『そうだよ。私が邪神シユウを、この世界に招き入れたんだ。』




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