不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第八章 決戦

魔導士団長

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光が収まり、俺が心臓を刺していたシユウも、セラフィス枢機卿も忽然と消えた。結界の中に閉じ込めたシユウの首も、失くなっている。


俺は、力が抜けて前に倒れそうになる。スフェンがこちらに駆け寄って、俺の身体を抱き止めて支えてくれた。
そのまま、力の入らない足で地面に両膝をつく。


右手から、日本刀がスルリと落ちて、カシャンと音が鳴る。スフェンが心配そうに、俺の顔を覗きこんだ。


俺は、スフェンに告げた。


「……邪神シユウは、消滅した。」


俺の言葉は静寂な教皇の間に、思いもよらず響き渡った。


その言葉に広間にいた騎士団員たちが、勝鬨の雄叫びを上げた。皆が口々に喜び合っている中、俺の身体を正面から支えているスフェンに、真実を告げる。


「……セラフィス枢機卿が、魂を代償にして消滅させた……。」

「……そうか………。」


スフェンのエメラルドの瞳が、一瞬だけ揺れた。
次の瞬間には俺の背中に腕を回して、強く抱き締めてられる。


「……ミカゲ、よくやった。……無事で良かった……。」


パーティーメンバーたちは、騎士団員によって手当てを受けている。俺たちの元にも騎士団員がやって来て、手当てをしてくれた。



シユウとの激闘の末、俺達は各々が怪我をして、さらには魔力枯渇状態だった。俺達は王宮へと転移し、暫くの間療養を余儀なくされた。


神殿本部から王宮へは、皇太子殿下が持っていた神官タグを使用して転移した。俺たちを王都に呼び出したのも、魔力消耗の魔導具と、この神官タグを渡すためだったらしい。

どうやって神官タグを手にいれたのかは、秘密だそうだ。


療養中は、皇太子殿下の指示のもと神殿本部の調査が行われた。隅々と調査が行われ、セラフィス枢機卿に洗脳されていた者たちも解放された。


スフェンが、セラフィス枢機卿を敵と確信したあと、裏ではセラフィス枢機卿を捕らえようと、動いていた。
皇太子殿下は、暗殺者を送り込んでいたらしい。ツェルの実家の者たちだそうだ。

しかし、誰一人として帰ってきた者がいなかった。精鋭暗殺者の襲撃を、一介の神官が返り討ちにできるとは思えなかった。

例え、返り討ちにあったとしても、報告のために伝令役が必ずいた。その伝令役さえも、戻ってこなかったそうだ。
その暗殺者たちは、なんと神殿本部にいたのだ。


セラフィス枢機卿が、邪気の魔石の力を使って、暗殺者たちを洗脳した。神官として神殿本部で生活させていたのだ。
皇太子殿下が神殿本部を爆撃して、突入した際に神官服を来た暗殺者たちが待ち受けていた。


凄腕の暗殺者の襲撃に、皇太子殿下や騎士団員たちはかなり苦戦したという。

ましてや、殺さずに捕らえるのには、本当に骨が折れたそうだ。セラフィス枢機卿の存在事態が消えたため、暗殺者の洗脳も解けた。


そして、シユウを倒して一週間後、俺達は再び神殿本部を訪れることとなった。
神殿本部の調査を進めていた皇太子殿下から、俺達にも見てもらいたいものがあると言われたのだ。


神殿本部に転移すると、騎士団員のほかに、見慣れない制服を来た集団も、一緒になって活動しているのが見えた。
ヒューズが、「あの制服は、魔導士団だ。」と説明してくれた。


今回の調査には、なんと魔導士団長も同行するらしい。そして、今、俺の目の前では眼鏡をかけた男性が、ニコニコと笑っていた。
笑った目元がスフェンに似ている。


「初めまして……。君がミカゲかな?私は、シュティレライト・クリソン・グランディア。スフェンの兄で、魔導士団長をしています。よろしくね。」

柔らかそうな癖のある銀色の短髪に、蜂蜜のような甘い色をした琥珀の瞳。眼鏡をかけて、切れ長の色気漂う目を細めたシュティレライト殿下は、苛烈な2人の兄弟とは違い、知的な印象の大人の男性だった。


魔導士団の制服である、フードの付いた灰色の長いコート。コートの裾には、同系色の糸で控えめにアラベスク模様が刺繍されていた。

コートの下は、黒色のタートルネックの服を着ている。黒色のズボンに、膝までのロングブーツを履いていた。

左目の下に泣きホクロがあるのも、チャームポイントだろう。


「お初に御目に掛かります。冒険者のミカゲです。よろしくお願い致します。」

俺は緊張しながらも、微笑みながら挨拶をした。左胸に右手を当てて騎士の礼を取る。
笑顔が引きつっていないと、良いのだけれど……。


シュティレライト殿下はぽかんっと口を開けたまま、俺のことをジーっと見つめてくる。

何か、失礼なことでもしてしまっただろうか?
それとも、やっぱり顔が引きつって気持ちが悪かったとか?


俺はシュティレライト殿下の様子を窺がった。騎士の礼を取って身体を僅かに前へ傾けたから、自然と見上げる形になる。


「……何この可憐な生き物は……?そんでもってスフェンからの視線が痛い。」

シュティレライト殿下は、何かブツブツと呟いていた。あまりにも小声で、俺には全く何を言っているのか聞き取れない。

スフェンにチラリと目配せをして確認する。穏やかに微笑まれて「気にするな。」とスフェンに言われた。


研究者気質なのだろうか。
こうやって、突然思考に耽ってしまう方なのかもしれない。


思考の海から戻って来たシュティレライト殿下は、はっとした様子で俺を見た。

そして、俺の両肩に手をポンっと置いたかと思うと、そのままがっちりと掴まれる。琥珀色の瞳は興味津々といった目で、キラキラと光を放っていた。


「じゃあ、さっそく、私が良いよって言うまで延々と『浄化』をしてくれないかな??神殿の教える『浄化』と、ミカゲの『浄化』の違いが知りたいんだ。それと、私と手を繋いでくれる?ミカゲの魔力が他の人と違うのか調べたい。なんなら、口付けでも___」


ここまで一気に話された。シュティレライト殿下は、どこで息継ぎをした?

興奮気味に話をしていた言葉が、スフェンの声で遮られる。


「シュレイ兄上。」

シュティレライト殿下を、スフェンの低い声が呼んだ。会話がぶった切られる。


俺とシュティレライト殿下の間に、するりとスフェンが身体を割り込ませる。俺はグイっとスフェンに身体を引っ張られ、シュティレライト殿下の両手から逃れた。
スフェンに肩を抱かれる。


「……おや?あらあら……?」

少しだけ目を開き、驚いた顔をしたシュティレライト殿下は、皇太子殿下と顔を見合わせる。

皇太子殿下はいつもの倍、意地悪そうに笑い、それにシュティレライト殿下も目を細めて、いたずらっ子のように笑った。


「……まあ、口づけは冗談だよ。でも、今度機会があればミカゲの『浄化』を見せてね。」

そんな会話をしながら、俺たちは神殿本部へと足を進めた。


神殿本部の扉は見事に破壊され、門であっただろう金属が不自然に折れ曲がって放置されていた。
壊れた噴水からは、ちょろちょろと変な場所から水が出ている。


そんな景色を横目に見ながら、俺達は6人は皇太子殿下に神殿本部の中を案内される。建物内のずいぶん奥まった場所まで来ると、皇太子殿下は古びた小さな扉を開けた。


人が一人通れるくらいの、小さな木製の扉は、建付けが悪そうにギギギギィーという音を立てて、内側に空いた。


部屋に入ると、少し薄暗い。埃っぽく、長い間締め切られていたのか、じめっとしている。壁の上部に明り取りの小さな窓がひとつだけあり、室内になんとか光を与えていた。
幾つかクモの巣が柱の間に股がっている。


古びた机に椅子、何に使うかわからない置物に、床に置かれた絵画、埃を被った本棚。
部屋の広さは10畳で、中は埃を被った物が整然と置かれた、なんの変哲もない物置部屋だった。


全員が部屋に入ったのを確認すると、皇太子殿下は金色のタグを取り出した。そして、古びた本棚まで歩くと、床に跪く。

本棚の一番下にある本を取り出し、本棚の棚板の上部にタグを差し入れた。皇太子殿下に近くに来るように促されて、俺もその棚板を覗き込む。

その棚板の上部分だけ、何かが嵌められるように窪みが出来ているのが見えた。ちょうど、皇太子殿下が今持っている、金色のタグが嵌まる大きさだ。


皇太子殿下が窪みにタグを嵌めこむ。すると、先ほどまで何も無かった壁に、一つのドアが現れた。

そのドアは銀色の歯車が幾重にもかみ合わさり、カチャリ、カチャ、カチャリ、と規則正しく小さな音を出していた。
やがて歯車が、カチャリっと音を立て、動かなくなる。


歯車の扉は両開きだったようで、内側にスムーズに開く。扉が開いた先には、石畳の廊下が奥までずっと続いているのが見えた。



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