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第七章 かの地に導かれて
大広間での戦闘
しおりを挟む振り返った先には、長剣を構えたスフェンと、他のパーティーメンバーが大広間に入って来たのが見えた。その隣には紅炎騎士団の見知った顔の騎士団員と、初めて見る男性が一人。
「よう、久しぶりだな。セラフィス枢機卿。」
その男性は、セラフィス枢機卿に不遜に挨拶をした。
全体的に黒色で、襟や袖部分に落ち着いた赤色の装飾と金色の刺繍を施した軍服。黒色のマントを羽織り、裏地の赤色を風に翻していた。
右手には柄の黒い長剣を持ち、コツ、コツ、と床を鳴らして数歩こちらに近づいた。
スフェンによく似た金糸の短髪。瞳の色は美しいアメジスト。
ただ、その瞳は獰猛な獅子のように、苛烈な光を秘めている。
端正な顔立ちには、強者の余裕と威厳。圧倒的な存在感と覇気は、まさに人々を統べるに相応しい。
堂々と口角を片方だけ吊り上げ不敵に笑う、美丈夫だ。
「……お久しぶりですね、皇太子殿下。また、随分と暴れ回りましたね?」
どことなくスフェンに面影が似ていると思ったが、この美丈夫が皇太子殿下だったのか。
セラフィス枢機卿が俺の腕を引っ張って、引き寄せながら皇太子殿下に挨拶をした。
「そりゃ、暴れもするだろう?お前に仕向けた可愛い部下たちは、神官の真似事をさせられているわ、洗脳されて俺たちに襲い掛かるわ。……俺の可愛い弟は、地下に閉じ込められていたしな?」
冗談めかしに話をする皇太子殿下が、ふと、そのアメジストの瞳をすうっと細めた。その獰猛な瞳に剣が帯び、セラフィス枢機卿を威圧し射貫いた。
「……セラフィス枢機卿、貴殿の悪事は全て把握している。大人しく投降しろ。」
皇太子殿下が低く唸るような声で、セラフィス枢機卿に警告する。
セラフィス枢機卿は冷笑した。穏やかな神官の、どこまでも世界を侮蔑した眼差しだった。
「……この命など、とうに捨てています。……私はもう、何も恐れない。」
パチンと、セラフィス枢機卿が右手の指を鳴らす。
俺の身体が急に宙に浮いて、そして金色の鳥籠の中に囲われた。そのまま、天井近くまで鎖で吊るし上げられる。
俺を閉じ込めた大きな鳥籠は、金色の光で出来ていた。セラフィス枢機卿の魔法だろう。いくら身体を揺らして、柵に体当たりをしても、揺れさえも起きない。ビクともしなかった。
「っ!……ミカゲに何をする。」
スフェンから静かな怒りの声が上がる。今にも、セラフィス枢機卿に切り掛かりそうな勢いだ。
スフェンの足元にいたコマが、蒼炎を上げて黒狼の姿になる。ヒスイも風を纏って、人ほどの大きさのアウラドラゴンに変化した。二人とも、姿勢を低くして唸ってる。
「……邪神シユウが、ミカゲに大層ご執心でしてね。ミカゲには、少しそこで見学してもらいましょう。」
赤黒い稲妻が、バチバチとセラフィス枢機卿の身体を覆った。全員の緊張が一気に引きあがる。
「はっ!囚われのお姫様と王子ってとこか?」
皇太子殿下の悪態をつきながらも、長剣を構えた。もはや、剣を交えることは避けられないようだ。
「……捕らえろ。」
セラフィス枢機卿が一言発した瞬間、地面から赤黒い茨が鞭のように生える。赤黒い茨は真っ先にスフェンたちと皇太子殿下へ、地面に波を描きながら向かった。
全員が茨を回避している間に、セラフィス枢機卿は黒色の靄を身体から燻らせて、広間の数か所に立ち昇らせる。黒色の靄は細長く瞬時に変化し、黒色の騎士を数十体形成した。
頭部から足先まで、全身が黒づくめの鎧騎士。
不気味に黒色の粒子が燻っている鎧騎士たちは、騎士団員たちに刃を向け襲い掛かった。騎士団員たちも、負け時と応戦している。
人が300人ほどは入れるであろう大広間に、剣の交差する音と、魔法の爆発音が響き渡る。鎧騎士たちは騎士団員と、皇太子殿下が引き受けるようだ。
皇太子殿下の目の前には、ひときわ大きい鎧騎士が立ちはだかっている。鎧騎士のリーダー格と言うべきか。
長剣で切り掛かった王太子殿下と鎧騎士の刃が交わり、火花が何度も散る。鎧騎士の素早い攻撃を、王太子殿下は長剣で受け流しつつ、鋭く切り掛かっていく。
パーティーメンバーは、セラフィス枢機卿に集中攻撃を仕掛けていた。
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