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第六章 最後の精霊の棲み処へ
廃城の王(スフェンside)
しおりを挟む重い音を立てながら、扉は開いた。
金の装飾が施された扉を開けると、まず目に入るのは長い赤色の絨毯だ。
先へ続く絨毯は、当時はさぞ色鮮やかで見事であっただろう。今は風化してボロボロの布切れだ。
左右はアーチ状の窓が等間隔に設けられている。ただ、日が入ってくることはない。不思議なことに、窓の外は暴風雨だ。黒い雲から激しく音を立てて窓に当たる雨。
時折、雷の眩しい光が窓から入り、暗い室内を不気味に照らす。
天井には変に傾いた、大きな透明色のシャンデリアがある。明りを灯すことが出来ず、ただの巨大なガラス飾りと化していた。
花の彫刻が美しい石柱が立ち並ぶ先に、数段の階段。その最上階の左右には、やはり何かの紋章のタペストリーが飾られていた。
そして、中央には長い背もたれの椅子が一つ。
座っている人物の頭上まで、石造りの立派な背もたれがある。頂点には十字の中に骸骨の頭部を模した彫刻がされていた。
……なんとも、悪趣味な。
椅子全体が石で出来ていて、通常の一人掛け椅子より5倍は大きいだろうか。
頭に王冠を被り、全身は黒色の鎧、背中には赤色のマントを羽織っている。2メートルはあろうかという長剣の柄に両手を重ねて、地面に突き刺して座る王。
全ての歯を剥き出しにした口角は、先ほどの骸骨たちよりも狡猾に上がっていた。
スカルキング。骸骨の王である。
「……予想どおり過ぎて、逆に冷静になるな。」
素直な感想を述べると、カタッという小さな音が聞こえた。瞬時に全員に緊張が走り、戦闘体勢になる。音の出どころは、玉座に座った王からだった。
『……酷薄な人間どもめ。……全て滅びるがよい。』
唸るように低く、腹の底から響く恨みのこもった声。
骸骨の王が玉座からゆっくりと立ち上がる。
黒く穴の開いた両目に、怪しげな紫色の光が宿る。立ち上がった姿は、私の3倍はあるのではないだろうか。
強固な黒色の鎧に身を包んだ、悍ましくも荘厳な王。
その両目からは、人間への憤りがひしひしと伝わってきた。
階段を降りた骸骨の王の身体から、黒色の靄が立ち込めている。地面を這うように、骸骨の王の左右に移動した黒色の靄は、立ち昇って何かを形成していく。
やがて、盾と長剣を持った骸骨騎士が2体現れる。
先ほどの骸骨騎士たちとは明らかに格が違った。
長剣を構えて素早く動き出した2体の内、1体をツェルベルトが、もう一体をヒューズが相手をする。
私は地面に切っ先を向けると、自分を中心に竜巻を起こす。風には金色の光粒子が混ざり、骸骨騎士と骸骨の王へと降り注ぐ。
明らかに骸骨騎士の動きが鈍くなり、頭の骨が砂のように僅かに散る。全身を粉砕出来なかったのは、骸骨たちの鎧が、防御力が高いからだろう。
『……ふん。太陽の精気か。人間には分不相応な力だ。』
気に喰わない言いたげに、骸骨の王は鼻を鳴らした。
骸骨の王から見て左側で、骸骨騎士と対峙しているのはツェルベルトだ。長剣よりも少し短めの双剣を構え、ツェルベルトが呟く。
「灰玉」
尾を引く様に、灰色に近い白色の火球がツェルベルトから複数放たれる。
これをミカゲが見たときに、『オニビだ』と言っていた。
正体不明の宙に浮く火の玉を、ミカゲの国では『オニビ』と言うらしい。動物の霊とか、人間の魂だと言い伝えられているそうだ。
確かに、灰色の炎をゆらりと後ろに靡かせながら宙に浮かぶ様は、どこか不気味だ。
部屋の至る所に、人間の頭部大ほどの灰色の火球が浮かぶ。ツェルベルトに対峙していた骸骨騎士が、長剣を左から横に薙ぎ払った。
ツェルベルトが後ろに飛んで避けると、骸骨騎士が右に払った長剣の切っ先が、灰玉に当たった。
途端に、灰玉が弾け衝撃波が広がる。衝撃波を受けた骸骨騎士の右腕は、鎧が無くなり骨が剥き出しになっていた。
『灰玉』は、味方であれば有効な攻撃。敵側になると何ともイラつく攻撃だ。
触れれば弾けて衝撃波を喰らう。また、触れなくても気まぐれに割れるのだ。時間差もまばらで、衝撃波を回避するように立ち回ると動作が制限される。
ちなみに、味方はこの衝撃波を受けない。そのようにツェルベルトが、魔法に組み込んでいるからだ。
灰玉は、闇魔法属性があれば誰でも作れるが、味方を攻撃しないように魔法を組み込むのは至難の業。
暗殺一家の次男は伊達ではない。
『……卑怯な魔術だ。』
骸骨の王が厭味ったらしく言った言葉に、ツェルベルトがニヤリと皮肉実に笑った。
「卑怯で結構。……人間らしいてイイだろ?」
軽やかにツェルベルトが骸骨騎士の懐に入り込む。
骨が剥き出しになった右腕に、ツェルベルトが双剣の刃を掠めた。
骨にかすり傷が付くと、そこから黒色の茨がシュルリと描かれていく。その近くで、灰玉が弾ける。
衝撃波によって長剣を手にしていた右腕が砕け散った。
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