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第六章 最後の精霊の棲み処へ
ダンジョン攻略
しおりを挟む水中から白い円の中に押し込められた俺たちは、地面に着地していた。
石畳で作られた薄暗い廊下で、ランプが点々と並んでいる。そして、まっすぐに見える先には扉があった。
俺とヴェスター、フレイで立ち止まり、一度自分たちがどこにいるのか確認することにした。精霊の地図を開いていたその時だ。伝達魔法がきた合図が聞こえる。
『……ミカゲ、聞こえるか?』
「……聞こえるよ、スフェン。こっちは、俺とヴェスター、フレイが一緒だ。全員無事だよ。」
俺が皆の無事を伝えると、スフェンは安堵したような声音で話を進めた。
『良かった。……こちらも私と、ツェル、ヒューズが一緒だ。見事に分かれたな。……どうやら、お互いに攻略していくしかないようだ。ミカゲ、精霊の地図で、ダンジョンの大まかな地形を教えてくれないか?』
俺は精霊の地図を見ながら、スフェンに闇精霊の棲み処の詳細を口頭で伝えた。さらさらという音がしたから、紙に書き写しているのだろう。
『……ミカゲ、助かった。……何かあれば伝達魔法で知らせてくれ。じゃあ、気をつけてな。』
「スフェンたちも、気を付けて。」
伝達魔法での会話を終え、俺たちも歩き出すことにした。
精霊の地図には詳細な仕掛けも表示されている。こちらが油断をしない限りは、順調に攻略できそうだ。
念のため、俺は『感知』を発動する。ただの石畳に見えた地面には、至る所にトラップが仕掛けられていた。
ヴェスターとフレイに、トラップの場所を教えて踏まないようにしながら、木製の古びた扉を開ける。
全員が扉入ると、ギギギィーという音を立てながら独りでに扉が閉まった。
振り返ると入ってきた扉が、キラキラとした金色の光に下から包まれ、姿を消していく。
扉を開けた先は、明るい日の光が差す雲の上だった。
地面が白色の綿毛のような雲で覆われている。
頭上を見れば穴が空いていて、光が入り部屋を照らしていた。
部屋の形は円形でかなり広い。部屋の壁は大理石のように艶めくベージュ色。その壁には背の高い、アーチ状の木製扉が設けられていた。
扉は一つではない。全部で8つあり、俺たちをぐるりと囲う。
全てがダークブラウンの木製扉。どの扉も灰色の頑丈そうな鎖によって封じてあった。扉の中央には、太陽の形を模した凹凸がある。あの部分に、何かを嵌め込むようだ。
そして、部屋の中央には1体の魔物。
いや、魔物と言っていいのか分からない。
神々しい存在が鎮座している。
高さは約3メートルほど。
屈強な戦士を思わせる身体に、白色の金属製の鎧。
金色の装飾が施された鎧は、光を反射して美しい。
頭部分も鎧で覆われ、全く表情は窺がえない。
人間でいう目の部分を、縦線状の金属が覆っている。
頭上には黄金の天使の輪っか。
背中には大きな天使の羽根。
俺ほどの背丈はある大剣。大剣の柄には太陽の形を模した、金属の彫刻が施されている。
どうやら、柄についているあの彫刻が鍵のようだ。
天使の鎧騎士は両手で大剣を持ち、切っ先を雲の地面に埋めている。仁王立ちのまま動かない姿は、異様な不気味さがあった。
精霊の地図に、この鎧騎士の名は『門番』と記載されていた。
「……悪趣味だな。天使と戦えってことかよ。」
フレイがチっと舌打ちする音が聞こえた。あの鍵がなければ先へは進めない。
全員が戦闘体制に入っているのを確認すると、フレイがゆっくりと足を進めた。
どうやら、動くだけでは起動しないらしい。攻撃をこちらが仕掛けて、起動するようだ。
「ミカゲ、俺が合図をしたら遠距離魔法で攻撃しろ。」
ヴェスターが全員に身体強化魔法を掛ける。
俺は『門番』の胸辺りに、鋭い氷柱の杭を作り出した。最初の一撃で、敵の装備がどれくらい硬いのか、見極めるためだ。これで貫けないなら、相当硬い。
フレイが鎧騎士の中央、俺が左側、ヴェスターが右側の位置に着く。コマは黒狼の姿になり、唸りながら鎧騎士の背後の位置に着く。
コマが闇魔法で、闇夜の花を騎士の頭上に作り出した。鋭利な黒色の花は、一見すると星のようにも見える。
全員の間合いは大剣を鎧騎士が降っても、ギリギリ届かない距離。
静かに、フレイが告げる。
「戦闘開始」
門番の胸元に、氷の杭を一気に突き刺した。
甲高く金属が鳴り、鋭利な氷の杭は砕け散った。
想像通り、だいぶ鎧は硬い。
鎧の覆われていた目部分に、金色の閃光が宿る。強固な見た目とは裏腹に、スムーズな動きで鎧騎士の『門番』が動き出した。
門番が雲に刺さっていた大剣を引き抜き、右腕で横一線に薙ぎ払う。動きが速く風圧がこちらに伝わる。
門番の頭上にあった闇の花が散った。その瞬間に黒色の電撃が門番を鳥籠のように囲う。脳天からも黒色の雷撃が鎧を直撃し、門番が動かなくなった。
この門番の弱点は『闇』。
俺も得意ではないが、闇魔法を使うことにした。
日本刀に闇魔法を纏わせる。刀身が光を反射することのない、墨を塗ったような漆黒に変わる。
黒い雷撃攻撃が続く中で、フレイが大剣を振るい門番の右足を狙って攻撃を仕掛ける。
途端に門番は素早い動きを見せ、刃でフレイの攻撃を押し返した。そのまま頭上に剣を構えると、一直線にフレイに向かって振り下ろす。
地面を蹴ってフレイが攻撃を躱した。
門番の大剣が振り下ろした先では、金色の雷撃が一閃走って雲の地面を光らせた。
攻撃を刃で受けていたのなら、感電していただろう。
大剣を振り下ろして、無防備になった門番の横から俺は黒刃で左腕を斬った。
ほんの僅かな、かすり傷が鎧に付く。そこから、黒色の茨が、白色の鎧に刻まれていく。
「咲け!」
俺の声に呼応するように、黒色の茨がシュルシュルと育ち、門番の左肩口まで到達する。茨には蒼色の蕾が描かれ、ゆっくりとバラの花が咲いた。
標的を俺に変えた門番は、振り下ろした大剣の刃を横にして、左側から回転切りをする。
俺は地面を蹴りあげ、宙返りで攻撃を回避した。門番が刃を振るうと雷の斬撃が飛んでいた。
攻撃が速い上に、近距離、遠距離も同時に攻撃ができるのか。中々に厄介だ。
ただ、動きが大きく、攻撃をした後に隙ができやすい。
ダンジョンはしっかりと対策を練れば、攻略できるようにされている。必ず、攻略の糸口があるのだ。
回転を止めた門番が、さらに身体を捩じって右にいたヴェスターに向かって剣を降り降ろす。
コマがヴェスターの首根っこを噛んで横に飛んだ。
ヴェスターとコマは一緒に連携するよう、フレイから指示されていた。
ヴェスターはパーティ内の回復役。つまりは生命線だ。光精霊の加護を受けるのも、おそらくヴェスターである。彼は何が何でも、守り抜かなければいけない。
回復魔法だけではなく、ヴェスターは拘束魔法や支援魔法が得意だ。人に身体強化魔法を掛けたり、光魔法で結界を作ったり。
戦闘時には周りをサポートする役割を担う。
回服役は人のサポートに魔力を集中するため、自分自身が無防備になるデメリットがあるのだ。
ヴェスターは自分自身にも防御魔法をしているが、門番の攻撃は凄まじい威力である。直撃を受ければ防御魔法をしていても、怪我は免れない。
コマは、首根っこを咥えたヴェスターを、そのまま空中に放り出すと、ポスっと自分の背中に乗せた。
「うぅっ……。少し乱暴です。でも、助かりました。」
コマの頭をよしよしと撫でながら、ヴェスターがお礼を言っていた。
コマがフサフサの尻尾を一振りして返事をする。
右に大剣を振り下ろしたことで、門番の左側が空いた。
すかさずフレイが左腕に刃を降ろす。門番の左腕にヒビが入り、肘から下が崩れ落ちた。崩れ落ちた腕は、雲の床に埋もれ金色の粒子になって消えた。
俺が施した闇魔法は、相手の身体を腐食させるものだ。花が咲けば咲き誇るほど、腐食は進む。
完全に腕を落とせないが、鎧を脆くすることは出来るようだ。
再び門番が回転切りをはじめ、全員が空中へと回避した。
空中にジャンプしながら、コマが門番の白色の羽根に、蒼炎を燻らせ燃やした。
門番は苦しそうな動きをしながら、羽根をはためかせると、蒼炎を風圧で消す。その羽ばたきを利用して、門番が天井まで飛び、急降下してきた。
全員で着地点から逃れると、門番が雲の地面に大剣を突き刺した。
途端に、地面の雲がゴロゴロという音を立てて稲妻が床全体に走る。広範囲魔法か!
「覆え!」
俺は全員の足元を分厚い氷で覆った。
不純物を含まない透明な氷はガラスのようで、一切の電流を通さない。
足元の雷が鎮まる前に、コマが門番の右腕に噛みついた。蒼炎を口から吐きながら燃やしていく。
門番の大剣が雲の床に落ちて、カシャンっ!という音を立てた。地面の雷撃が止んだのを見計らって、氷を解く。
両腕を失くした門番は、羽を広げゆらりと宙に浮いた。
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