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第六章 最後の精霊の棲み処へ

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「……これは、まさかダンジョンか?」

ダンジョンとは、不思議空間の広がった迷宮のこと。

世界各地に存在し、中を探索すると財宝を手に入れたり、珍しい素材を手に入れることができる場所だ。
もちろん、魔物も生息しているし、トラップが仕掛けられているため、死と隣り合わせの危険な場所でもある。
ただ、地上では手に入らない宝が眠っていることもあり、一攫千金を狙って探索する者が後を絶たない。


特徴もダンジョンによってさまざまで、洞窟に似た見た目のものから、塔のような見た目だったり、永遠と回廊が続いたりする。

共通点が、必ずダンジョンの入り口に『扉』があるということ。
苔が生えている山肌に突如として扉が現れるなんて、ダンジョンと考えたほうがいいだろう。


ダンジョンの情報は冒険者ギルドで一括管理されている。冒険者たちの安全を守るためだ。また、ダンジョンを長い間放置して魔物が溢れることを防ぐためでもある。

冒険者たちには、全ダンジョンの場所が書かれた地図が冒険者ギルドから渡される。知らないうちにダンジョンに迷い込まないようにするためだ。ここのダンジョンは、冒険者ギルドの情報にもなかった。


もしかすると、現時点で発見されていないダンジョンなのかもしれない。
何も情報のないダンジョンに入るのは、危険度が一気に上がる。何が起こるか全く分からないからだ。


俺たちの装備は、ダンジョンに入れるほどの準備はしてある。カバンの中に入っていたコマも、ひょいッと出てきて俺の肩に乗った。ヒスイはスフェンの肩に乗る。


全員武器を取り出し、身構える。俺も日本刀の刀身を取り出した。


「……行こう。」

ダンジョンの入り口である古びた木製の扉を、片手でスフェンが押した。ギギィ―っと木材が軋む音を立てながら、扉が開く。
6人全員が入ったところで、勝手に扉が閉まった。


扉を開いた先は、大人一人が通れるくらいの幅の、階段が続いていた。
中は薄暗く所々にランプが設けられ、足元を照らしている。しばらく階段を下っていくと、階段の切れ目辺りでアーチ状の扉を見つけた。

やはり木製の古びた両扉で、軋む音を立てながら開けた。視界に白い光が広がり、眩しさに目を細める。


聞こえてくるのは、低く重い、ズドゥドドーッと水流の流れる音と、激しくぶつかり合う水しぶきの音。


「……すごい…。」

俺はその荘厳な存在に、感嘆の言葉を呟いていた。


それは、険しい崖から流れる、高く大きな滝だった。


天井からは何処から日が差し込むのか、薄暗いダンジョンの室内を一線の光で照らしている。

下降する水は白色の絹糸にも見える。実際には大量の水が怒涛の勢いで流れていた。
轟音とともに細かな水しぶきが、俺たちに浴びせられる。

水が降り注ぐ地点があまりに高く、滝の頂点が見えない。滝壺も滝と同じように白く見え、水が落ちる勢いが凄まじいことを示している。


崖には枝を湾曲させた木々が、険しい岩肌に根を生やしていた。緑色に蒸した苔も、そこかしこに生えている。


地面は濃い灰色の岩でできていて、そこだけ人が歩けるように平べったくなっている。さすがダンジョン仕様と言うべきか。

水は無色透明だが、滝壺の水深がよっぽど深いのだろう。深い青色に色づき底が見えない。


俺は、マジックバックからもう一度精霊の棲み処の地図を取り出した。シュルリと朱色の紐を解き、広げた地図を見て俺は驚いた。

地図の様子がいつもと変化している。普段はナイアデス国全体の地形が描かれ、精霊の棲み処が記されていた。

今は、入り組んだ道や小部屋が、複数記されている。
これは……。


「ダンジョンマップだな。これほど詳細であれば、迷うこともないだろう。」

地図を覗き込みながら、スフェンが興味深げに呟いた。


ダンジョンマップとは、名前のとおりダンジョン内の地図のことだ。部屋の場所や敵の特徴、さらにはダンジョンボスの特徴も記載されていることがある。
攻略されたダンジョンであれば、冒険者ギルドで購入できる。


ダンジョンマップに変化した地図を確認すると、光精霊ラディースと闇精霊ハーミットの棲み処が、別々の場所に記載されていた。
このダンジョン内に、2つの精霊の棲み処が存在しているようだ。


地図上では、滝壺の左に光精霊の棲み処、右側に闇精霊の棲み処が表示されている。皆と地図を確認しながら、どちらに先に行くべきか相談した。


「先に光精霊の棲み処に行ったらどうだ?光精霊から先に加護を貰えば、闇精霊のほうがアンデット系だった場合に有利だぞ。」

顎に手を当てながら、フレイが提案する。


アンデット系か……。ゾンビや骸骨、実体のないゴーストなどの魔物のことだ。この魔物は中々に厄介で、刃物などの武器で切れない場合が多い。

切れたとしてもすぐに再生するため、急所を一撃で仕留めないといけない。それか、魔法で一瞬にして消し去るか。


「縁起でもないことを言うな。俺もアンデット系は好きじゃない。」

スフェンが殊更嫌そうな顔をして、フレイに文句を言った。俺もスフェンに同意見だ。

どうも、あの見た目の不気味さと、腐敗した匂いが苦手なのだ。
匂いは風魔法で吹き飛ばしたり、道具屋で鼻につけるミント液で誤魔化したりして対応する。


「いや、好きな人はいないと思うけど?匂いもだけど、見た目グロ過ぎ。切った感触もさ、何とも気持ち悪いじゃん?」

うえーっと言いながら、ツェルが告げた。
皆が頷き合い、俺たちは最初に光精霊の棲み処に行くことにした。


空の魔石へ、スフェンが風魔法を付与してくれた。
水中で息が出来る魔法を付与した魔石を、人数分用意してもらった。

全員に魔石が行き渡ったところで、俺たちは滝壺に足を踏み入れた。
水面につま先を付けた瞬間、俺の身体全体を薄い膜が覆った。この膜が水中から身体を守り、息を出来るようにしてくれる風魔法だ。

そのまま、岩の地面を軽く蹴って滝壺へとドボンっと入っていく。


全員が滝壺内に入ると、泳いで光精霊の棲み処入り口へと向かっていった。
滝壺の水底に行くにつれて、日の光は差し込まなくなり闇夜のような暗さへと続いていく。


ちょうど滝の水が落ちる部分の真下まで泳いだ。

水中で崖に到着すると、その下に2つの円が見えた。円は左右にあり、中がぼんやりと白く光っている。

違うのは円の輪郭を飾っている装飾だ。
左は金色の植物のツタ、右は黒色の茨で縁取られていた。


6人全員で左側の円に入ろうと泳ぎ始めた、
その時だ。


「っ?!!!」

水底から突風のように、いきなり一本の渦巻きが立ち昇ってきた。渦は俺たちに瞬時に近づき、その勢いのある水流に全員の身体を巻き込んでいく。
渦の流れは速く、皆が離れ離れになった。


「ミカゲっ!」

風魔法を駆使して、渦の流れからなんとか抜け出したスフェンが、俺に右手を伸ばす。
俺も右手を伸ばして、スフェンの手を握ろうとした刹那だった。


「っ!なっ!!」

もう一つの渦巻きが水底から出現し、俺とスフェンの間に渦の壁が出来上がる。
俺の伸ばした手は、水中で空を切った。

渦に飲まれ続け、俺とヴェスター、フレイが光精霊の棲み処の入り口へ、渦に押し込まれるように無理矢理入った。

スフェン、ヒューズ、ツェルも、闇精霊の入り口へと流され、円の中に入っていく。


円の中に入るときに、薄い膜を通り抜け空間が揺らいだ。
精霊の棲み処の結界を通り過ぎたのだ。



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