不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第五章 敵の影、変化

病床の少年

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院長に了承を経て、俺たちはエリオットの休んでいる部屋へ案内してもらった。部屋に入ると、痩せた少年がベッドに横になっていた。

明るい茶色の髪に緑色の瞳。優し気な顔立ちの少年は、年下の子供たちに随分と慕われていた。
自分の身を顧みずに、守り抜いてくれた少年。

エリオットが横になっているベッドの傍には、ヴェスターが椅子に腰かけている。

 
「……院長、お客様?」

部屋に入った院長に、エリオットは問いかける。興味深々と言った様子で俺たちを見ながら、微かに微笑んだ。

 
「ああ、そうだよ。この街の領主様と、冒険者様だ。」

 冒険者という言葉を聞いたエリオットは、緑色の目をキラキラと輝かせた。


 「カッコいい。この間の戦っている姿は、本当にカッコよかったです。」

俺たちを見るエリオットの目が、尊敬の眼差しだ。エリオットは、俺とスフェンから冒険の話を聞きたがった。俺は、今までに受けた依頼の話や、ダンジョン、魔物討伐の話をエリオットに披露した。

 
「……いいなあ。俺も、色々な場所を見てみたい。」

そう寂し気な瞳で呟くと、エリオットは話疲れたのかウトウトし出して、やがて眠ってしまった。


エリオットの部屋をそっと出た俺たちは、院長に庭の見える廊下へと案内された。廊下の先にはガゼボがあって、庭一面を見渡しながら椅子に座って、休むことができる。

 向い合わせに座って、庭で遊ぶ子供たちの様子を見ながら、院長はぽつりと話を始めた。

 
「エリオットは、自分がもう助からないことを悟っています。他の子供たちには内緒だと言い、私にだけ教えてくれました。」

 粉にする役割を担った子供は、やせ細って死んでいく。夜中に大声を出して叫んだり、突然倒れて痙攣したり、眩暈と幻覚で苦しんだり。

 
「……自分の症状が、死んでいった子たちに良く似ていると。もう、自分は長くないと。あの子自身から言ったのです。」

院長の言葉の節々に、理不尽なことに対する怒りの感情が見える。そして、深い哀しみも。


「エリオットは私に、『他の子供たちを頼む』と頭を下げました。自分の命よりも、彼らの今後の幸福を願ったのです。」

そこで言葉を切り、院長はテーブルに重ねて置いた手を握りしめていた。その拳はわなわなと震えている。

 
「……私は、エリオットにこんなことをさせてしまう、この世界を嫌悪しました。こんなにも優しい少年が、どうして麻薬に蝕まれて死ななければならない。大人の暴力と悪行にも耐えてきた少年が、どうして命を落とさないといけないのか……。」

 
しわがれた優しい顔が歪み、優し気な目元からは涙が出て頬を伝っていく。
残酷な現実、しかも大人の事情で命を落としていく子供。心優しい院長には耐えがたいことであろう。

 
「……エリオットの麻薬の禁断症状は末期です。……治癒魔法によって痛みを和らげることはできます。……せめて、これ以上の苦しんでほしくありません。」

 
院長の真向いに座っていたヴィオレット辺境伯が、院長に静かに提案した。

 
「……うちの領主館の医者を定期的に訪問させよう。少しでも安らかに、心穏やかに過ごせるように。」

痛みを和らげることしか出来ないことに、ヴィオレット辺境伯も悔しそうに下唇を噛み締めていた。

 
「……ありがとうございます。今、領主にお会いできて本当に良かった。」

院長が涙をそっとハンカチで拭いながら、力なく微笑んだ。

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