不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

文字の大きさ
上 下
34 / 136
第四章 火精霊の棲み処へ

突然の口付け ※

しおりを挟む



俺はスフェンが座っている後ろに回り込んで椅子に座った。スフェンの背中はやっぱり幅が広くて、筋肉がつかない俺にとってはとても羨ましい。

石鹸を泡立てて、少し目の粗いタオルでその背中を擦ってやる。


「……痛くないか?力加減は大丈夫か?」

ごしごしとタオルでスフェンの背中を擦る。
鍛えられた背中は、筋肉が隆起していてカッコイイ。

思わず背中を素手で撫でて、その筋肉を触ってしまった。俺が背中を撫でていると、スフェンがクスクスと笑いだした。

 
「……ああ。とても気持ちが良いよ。…でも、ふふっ。くすぐったい。」

ふふっと笑って、くすぐったそうにスフェンが身体を震わせる。いつものキリッとした騎士団長の顔と違って、今は年相応の若者に見える。
もこもこの泡に包まれたスフェンの身体を、シャワーで洗い流す。


「……気持ち良かったよ。今度は、俺がミカゲの背中を流そう。貸してくれ。」

くるりとこちらを振り向いたスフェンに、泡だらけのタオルを取られてしまった。
今度は交代で俺がスフェンの前に座る。


「……ミカゲの国では、皆が背中を流し合うのか?」

スフェンにごしごしと背中を擦られながら、俺は日本のお風呂事情を説明した。


「そうだな。親子とか、友達とか……。俺も男友達と一緒に風呂に入って、みんなで洗い合ったよ。……そういえば、肌がスベスベだって褒められたな。」

修学旅行とか、部活の遠征の時とかは、男子なんてはしゃいでふざけ合うものだろう。
俺の背中を流していた友人が、『美影の肌スベスベじゃん!なにこれ、手入れでもしてんの?ずっと触ってられるんだけど。』と褒められたのだ。


「………へえ。」


??
なんだ?
一瞬スフェンの声が低く、不機嫌になったような気がする。気のせいだろうか?


シャワーでスフェンに身体を流してもらい、俺たちは湯舟に浸かった。

ふうっとため息を零して、肩まで浸かる。
久々の湯舟は、やっぱり全身が湯に揺蕩って気持ちが良い。温度もちょうど良くて、身体も暖まってポカポカする。

 
お湯を両手で掬うと、少しトロリと手から滑り落ちる。トロトロとした美容液のような水質は、お肌に良さそうだ。

透明な水面には光露石のランプの光が映って、僅かに揺らめいていた。


パシャリっと水面が揺れて、スフェンが俺の右隣に腰かけて座る。
街の喧噪から少し外れたこの場所は、とても静かだ。

暗闇に天の川のようにたくさんの星が散りばめられている。ビルやネオンライトで隠されてしまう日本の空とは全く違う、どこまでも深く広がる空だ。

 
お湯の気持ち良さと星の美しさに、思わず頬が緩んだ。


「……ミカゲ。」

「……っ?!」

 
名前を呼ばれて右隣のスフェンに顔を向けた瞬間、口に柔らかな感触が当たり塞がれた。
そのまま、言葉を発することも許さないとばかりに、角度を変えて齧り付くようなキスをされる。


「んンっ!」

後頭部はスフェンの左手で押さえつけられて、顔を背けることができない。
訳も分からない俺をよそに、スフェンの舌はするりと俺の口に入ってきて、あっという間に俺の口腔内を貪りはじめた。


「んぁっ。」

さすがに焦った俺は、とっさにスフェンの舌を押し返そうと抵抗する。その抵抗する舌を巧に絡めとり吸われて、ぞくっと身体が粟立つ。

甘くて熱い、トロリとした蜜が喉を通り、身体が支配されていく。身体は、この蜜の味をすっかり覚えこまされいる。

「……ん、ンくっ……。」

もっと、もっと欲しいと強請って、自然に甘い蜜を飲み込んでしまった。身体は何か他のことを期待して、ふるふると震えだす。


…この熱はだめだ……。
以前恥ずかしい思いをしたばかりではないか。


それに、この熱が自分のはしたない欲を生み出すことも、俺は知ってしまったのだ。
心は抵抗しようとするのに、体は快感を求めて蜜を欲しがった。

 
……でも、どうして?
スフェンは今、どうして俺に魔力譲渡を……?


この街に来る途中で、確かに魔物を俺の魔法で倒したが、俺はそんなに魔力を使っていない。
魔力枯渇状態ではないのに、何で口付けられているのだろうか。

 
そんな俺の疑問に構わず、激しく何度も噛みつく口づけをされる。舌は絡めとられて、甘い蜜は飲み切れず口の端から零れていった。


スフェンの唇がほんの少し離れたすきに、ふわつく思考とぼんやりする視界で、俺はなんとか言葉を紡いだ。


「……ンっ、……あつ…い…。」

俺の零した言葉を聞いて、スフェンは俺の両脇に手を入れるとグイっと身体を持ち上げて、湯舟のふちに座らせた。
ざぶっと湯舟から出た身体は、少しひんやりした外気に晒されて湯気が立っている。

 
不安定な体勢になって、咄嗟に石畳に両手をついた。スフェンに流された魔力のせいで、熱くて身体に上手く力が入らない。
スフェンは俺に覆いかぶさるように迫ってきた。


 後ろ手についた俺の両手に、スフェンの一回り大きい手が重ねられる。美貌の顔が目の前まで迫ってきて、俺は咄嗟に目をぎゅっと瞑って顔を右に背けた。


首筋に湿ったものが這わされる。首筋にスフェンの顔が埋められ、下から上にねっとりと舐め上げられた。皮膚の薄いそこは、スフェンの舌の感触を敏感に捉える。


「…っあ……。」

身体がビクッと反応して、思わず声が漏れ出てしまい、必死に口を引き結んだ。柔らかな金糸の髪が俺の頬を擽る。その些細な接触さえも、身体は粟立ってしまう。


ちゅうっ、と音を立てながら、スフェンが俺の首筋に吸い付いた。柔らかな唇に吸われて、その後にチクッと小さな痛みが走る。

痛みに身を捩って逃げようとするけど、両手を石畳に縫い付けられて逃げようがない。スフェンは首筋にから、徐々に下へと顔を移動させる。


時折、チクッとした痛みを俺に与えながら、舌を肌に這わせる。スフェンが、唇で触れてくる部分が熱い。自分自身も息が荒くなって、何とも言えない、熱くて悩ましい吐息を溢していた。

 

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾
BL
 【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)

処理中です...