不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

文字の大きさ
上 下
33 / 136
第四章 火精霊の棲み処へ

露天風呂

しおりを挟む


部屋の窓からは、街灯に照らされた街の夜景が見えた。柔らかな光に包まれる街並みは、商業地や王都とはまた違った、落ち着いた歴史ある街並みだった。


「……綺麗だな。」

「……宿でも夕食を食べれるようだが、明日は外で食事をしようか?少し街を散策するのもいいだろう。」

窓から街の様子を見ていた俺の左肩を、スフェンが後ろからそっと抱いてくる。

右側を振り返ると、相変わらず優し気な顔でスフェンに微笑まれた。街の温かな街灯に照らされたスフェンの美貌は、薄暗い中でも金糸の髪が靡いて瞬いていた。

エメラルドの瞳が、目の前で俺を見つめている。
近い距離の美貌に驚いたけど、それ以上に美しい宝石の瞳に魅入られてしまう。しばらく呆けていると、スフェンにクスっと笑われてしまった。

 
「……そんなに見惚れられると、恥ずかしいんだが?」

「……いや。スフェンの瞳は綺麗だから…。つい。」

単なる光を反射する宝石とは、輝きの奥深さが違う。

他者の光を借りて輝くのではない。
光を自身が身に纏い、真の高貴な輝きを自ら放っているのだ。

俺が素直に見惚れていたことを口にすると、スフェンが目元を右手で覆った。その耳がほんのり赤く染まっているのが見える。

 
「…はあ、揶揄うつもりが、こっちがやられた……。」

ほんの少しため息を吐くと、スフェンは俺の肩からそっと手を離した。なんだか、体温が離れていくのが少し寂しく感じる。

 
マジックバックからコマのベッド用の籠を取り出す。
その籠を部屋の隅において、コマとヒスイをそっと寝かした。随分と寝ているようだけど、夕食になったら起きるだろうか。

コマとヒスイが部屋に一緒に泊まることを、ソマレさんは快く了承してくれた。寝ているコマたちを見て、「おやおや。なんて可愛らしい。」と目元を細めていたから、もしかしたらモフモフが好きなのかもしれない。

俺は装備を脱ぎ捨てながら、軽装に着替えていく。


あっ、そうだ。


「……スフェン、せっかくだし、一緒に風呂に入らないか?」

「っ?!」

裸の付き合いって言うしな。
普段お世話になっているスフェンの、背中でも流してあげようと思ったのだ。
こっちだと、そういう文化はないのかな?

 
「それとも、皆で入ったほうがいいか?大勢のほうが楽しいもんな。」

「ダメだ!!」

 
スフェンには珍しく、間髪入れずに大声を出されて驚く。軽装に着替え終わっている俺の両手を、スフェンが向かい合ってぎゅっと握りしめてきた。

 
「……私が一緒に行くから、待っていてほしい。」

なんだか切実に言われて、俺はスフェンの勢いに圧倒されてこくりと頷いたのだった。


宿の内風呂にも興味があったけど、俺たち二人は露天風呂に入ることにした。

入りの扉に掛けてある木の札を裏返して、『使用中』にする。木札には懐中時計に似た魔道具が付いていて、いわゆるタイマーの役割をしているそうだ。
見た目はまんま懐中時計だが、文字盤のところが透明なガラスになっていて、向こう側が見える。

上についた摘まみを、カチッと下に押すと、懐中時計の中心が、少しずつ青色の液体で満たされていく。この液体が上まで満ちるとベルが鳴る仕組みだ。

今から1時間ほど、この露天風呂を貸し切りにできる。

俺は脱衣所でさっさと服を脱いで、腰に布を巻いた。
スフェンには「先に入っていてくれ。」となぜか背中を向けて言われた。まだ、服を着ているのか。

 
風呂場の引き戸を開け、白い湯けむりがふわっと前を通り過ぎていくと、視界が開けた。暗い灰色の石畳が敷かれた中央に、岩に囲まれた円形の湯舟が見えた。湯舟の端からは、お湯がコポコポと湯船に流れ落ちていた。

中々に湯船は広くて、大人が5人は余裕で入れそうだ。温泉の色は無色透明。

周囲は木製の壁で目隠しをされているが、上を見上げれば満点の星空だ。

そして、石畳の所々に見覚えのある鉱物の結晶が置かれている。透明な鉱石の中に、水泡のような光が浮いた石。これって……

 
「……光露石?」

光露石を加工しているのだろう。角の多い星の形をした光露石が点々と置かれていた。ほんのりとした橙色の光で星空を邪魔しない様に、控えめに灯っている。

華美ではないシンプルな装飾が、一層のこと夜空を惹きたてていた。なんとも上品で、それでいてゆったりと、包み込むように心地いい。


風呂場の入り口から、すぐ右には身体を洗うシャワーや椅子が設けられている。俺が洗い場で身体と頭を洗おうとしていると、スフェンが腰に布を巻いて風呂場に入ってくる。

 
白い肌に、鍛えられた無駄のない筋肉。
俺よりも逞しく男らしい身体に、古傷の跡が所々ある。まるで、彫刻のような肉体美だ。


……イケメンは、身体もイケてるんだな。

 
あまり、人の身体をじろじろ見ても失礼だろうから、さっと視線を外して身体を洗うことにした。
爽やかな柑橘系の匂いがする石鹸を、目の粗いタオルでもこもこと泡立てる。泡立ちが良すぎて、全身が泡だらけになってしまった。


その様子を隣に座ったスフェンが見ていたようで、クスクスと笑っている。子供のような生暖かい目で見られて、なんだかムスっとしてしまった。


そうだ。いいこと思いついた。

 
「……スフェン、背中流そうか?」

「……っ?!」


スフェンが大きく目を見開いたまま、固まってしまった。

 
あれ?
なんか俺変なこと言ったかな?
俺が泡まみれだから、スフェンにも一緒に泡まみれになってもらおうと思ったんだけど。


「俺の故郷では、親しい者同士がお風呂で背中を洗い合うんだよ。……だめか?」

こう説明すれば、スフェンも納得してくれるのではないのだろうか?

それとも、ナイアデス国には『裸の付き合い』という概念はないのかな。そうなると、身体を他人に触られるのは嫌かもしれない。
俺は少ししょんぼりとしたと思う。

 
「……俺に身体を触られるのは、やっぱり嫌かな……。」

「そんなことない!……ただ、少し驚いただけで……。その、お願い、してもいいか……?」

遠慮がちにスフェンが返事をしてくれる。きっと、俺に合わせてくれたのだろう。嫌そうな顔をしていないから、大丈夫かな。


なんだか嬉しくなった俺は、スフェンに日頃の感謝の気持ちを込めて、気持ち良くなってもらえるように頑張ろうと思った。




しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。

竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。 天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。 チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾
BL
 【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)

処理中です...