28 / 136
第三章 風精霊の棲み処へ
神殿からの圧力、異端
しおりを挟む「まずは、各地の魔石を壊して、精霊の魔力を取り戻すことを最優先とする。ただ、あちらもこのまま黙っているとは思えない。神殿の動きは、引き続き探りを入れる。……皆、一層気を引き締めるように。」
そうスフェンが言ったあと、とたんに何か顔をしかめた。
こめかみには青筋が立っているように見える。
「……っ。どうやら、さっそく仕掛けてきたぞ。」
短く舌打ちをしたスフェンは、忌々し気に口を開いた。
「……兄上から緊急で伝達魔法が届いた。俺が神殿から『異端』と認定された。」
皆が一斉に息を飲む音が聞こえた。
この国では精霊信仰と神信仰があるが、神信仰は国教でもある。創造神を唯一神とするもので、国の儀式やら結婚の儀は全て神信仰の方式で行われていた。
それぐらい生活に根付いていて、欠かせない宗教である。たしか、騎士になる誓いも、神の名のもとに行われていたはずだ。
そこから王族が『異端』扱いされたとなると……。
「紅炎騎士団団長の職を下ろされるのも時間の問題だろう。『異端』とされれば、国に関わる職にはつけないからな。もちろん、王族からも除籍だ。」
あくまでも冷静に事実を伝えてくれているが、スフェン。
それは今まで築いてきた地位が、全て無くなってしまうという事だ。
「……『異端』とされた理由は何なのですか?」
ヒューズが緊張した面持ちでスフェンに問うた。
いくら何でも、王族を『異端』扱いするのであれば、それ相応の理由が必要になる。
「……『神殿の正規な方法とは異なる、不浄な浄化魔法を行使する『異端者』を、紅炎騎士団に匿っている』だと。」
俺は、ヒクっと喉が引きつり呼吸が止まる。
それって、俺のことなんじゃないのか?
「……浄化は神殿の生業だしね。というか、浄化魔法を神殿が神官以外に教えてくれないんだよね。『神に認められた者のみに許された魔法』とかいってさ。」
バカにしたようにツェルが鼻で笑った。
ふうっと大きなため息をスフェンは吐くと、俯いたまま話を聞いていた俺に向かって、優しい眼差しを向けた。
「……心配するな、ミカゲ。兄上に頼んで対策を講じて__」
「だめだ!」
スフェンの言葉を遮るように、俺は叫んでいた。
「……だめだ。俺と一緒にいちゃいけない。これ以上は迷惑を掛けられない。だって、これは……。」
「……ミカゲ…?」
「全部……。全部俺のせいなんだ。」
もう、これ以上誰も巻き込みたくない。
誰にも、何も失ってほしくない。
アウラドラゴンの死を見た俺は、もう自分の罪に耐えきれなくなっていた。
大丈夫だ。
神殿が怪しいと分かったのなら、それだけでもう十分だから。
あとは、一人でもなんとかなるだろう。
ここで全てを話して、皆と別れよう。
俺は、自分の罪を懺悔するのだった。
「……シユウは、異国の邪神と説明しただろ?あれは、俺の世界から来た邪神だ。この世界とは違う、魔法のない異世界からきた異形の存在なんだ。」
「……異世界?」
突然、異世界という現実離れした言葉が出てきて戸惑うだろう。俺の左隣に座っていたスフェンが驚いた声を上げた。俺は言葉を続ける。
「俺はその異世界から、シユウを追ってこの世界にきた。シユウは古来に封印され、神殿のような場所で封印が解けないように管理されていた。……俺は、その神殿の管理者だった。そして、毎年決まった日に、舞を踊って封じ直しの儀式が行われていたんだ。でも……。」
俺はそこで言葉を切った。ここからは、俺の罪の告白だ。
「俺は今年、舞を踊らなかった。だから、封印が解けてシユウがこの国に逃げ込んだ。俺は精霊王ベリルに、シユウを再び封印するため、異世界からこの世界に連れてきてもらったんだ。」
膝で握っていた拳に力が入る。緊張で震えて、何て情けないんだろう。
自分の犯した罪だろうが。
しっかりと、スフェンたちに言わないでどうする。
「……俺のせいで、人々を傷つけて、精霊たちを苦しませて、ヒスイの親の命も失わせた……。」
本来なら、苦しまないはずの人たちが、俺のせいで苦しんだ。
今だってそうだ。
人の築き上げてきたものを、失わせて。
人生を狂わせようとしている。
「この国をめちゃくちゃにしたのは俺だ。全部、俺のせいなんだ!」
俺はソファから立ち上がると、床に膝をついて両手をついた。
「……罪人の裁きなら当然受ける。なんだってする。でも、封印を古来に施した者の血縁者である俺じゃないと、シユウを封印できない。……だから!」
俺は頭を垂れて必死に懇願した。
お願いできる立場じゃないのは分かっている。
でも、これだけは、何が何でも通さなければならない。
「……どうか!どうか俺に、シユウを封じるまでの時間を与えてほしい。シユウを封じた後は、どんな裁きでも受ける。皆ともここで別れて、二度と会うことはしない。お願いします!」
全てが終わったら罪を償う。
それは、都合が良く聞こえるだろう。
でも、今ここで、騎士団や王宮に捕まるわけには行かない。
「………ミカゲ、顔を上げなさい。」
静まり返った部屋で、淡々としたスフェンの声が響く。
俺は、恐る恐る顔をあげた。
侮蔑の視線をもらうだろうと覚悟していた俺を、深いエメラルドの瞳が射抜いた。
その目は、いつもの穏やかな、まっすぐな瞳だった。
「ミカゲの罪は良く分かった。……だが、この世界の危機に、異世界人のミカゲが、どうして全てを背負わなければならない?」
スフェンは、言葉を続けた。
「シユウがこの国に逃げてきた原因は、確かに封印が解けたからだろう。……それでも、この世界の事情に、異世界の者は全く関係がないじゃないか。」
「私なら一層のこと、そのまま放っておくな。自分の世界から災難が一つ減ってよかったとさえ、思うだろう。」
ギシリっとソファが軋む音が聞こえた。
人の影が動いているのが、視界の端で見える。
「……異世界からきた危機であれ、この世界の滅亡は、この世界の者たちで解決する。例え、解決出来ずに世界が滅んだとしても、もはやそれまでのことだ。」
スフェンは床に膝をついている俺に、そっと近づいてきた。
片膝を床について、俺の両手を取り握りしめた。
「……この世界の者として礼を言う。この世界のために、来てくれてありがとう。……私と共に戦ってほしい。この国を、この世界を救ってほしい。」
意志の強い、透き通ったエメラルドの瞳が、俺の目をまっすぐに見つめる。
「私が共にいる。」
俺の手を包む大きな手には、しっかりと力が込められていた。
こんな臆病で、非力で、今まで自分の罪を黙ったままだった俺に、スフェンは言ってくれた。
共に戦ってほしいと。
身体が震える。
それは、恐怖とかではない。
暗闇に一筋の光が差し込んできて、心の底から打ち震えるのだ。
ああ、この人は。
どうしてここまで、眩しいのだろう。
「……それに、何も心配しなくていい。兄上である皇太子殿下には、ミカゲのことを内密に報告していた。神殿がいずれ何かを仕掛けてくるであろうことも想定してな……。ちょうど、音声伝達がきた。」
俺はスフェンにソファに座るよう、手を引かれて座った。
スフェンは左耳につけている銀色のイヤーカフをおもむろに触ると、部屋に若い男性の声が響く。
『スフェン、神殿がちょっかいかけてきてんぞ。』
・。・。・。・。・。・。・。・。・。・
5月31日
いつも御愛読頂き、ありがとうございます。
主人公のセリフを一部修正致しました。ご了承ください🙇何卒よろしくお願いします。
65
お気に入りに追加
2,726
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
わからないから、教えて ―恋知らずの天才魔術師は秀才教師に執着中
月灯
BL
【本編完結済・番外編更新中】魔術学院の真面目な新米教師・アーサーには秘密がある。かつての同級生、いまは天才魔術師として名を馳せるジルベルトに抱かれていることだ。
……なぜジルベルトは僕なんかを相手に?
疑問は募るが、ジルベルトに想いを寄せるアーサーは、いまの関係を失いたくないあまり踏み込めずにいた。
しかしこの頃、ジルベルトの様子がどうもおかしいようで……。
気持ちに無自覚な執着攻め×真面目片想い受け
イラストはキューさん(@kyu_manase3)に描いていただきました!

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!

天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。
竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。
天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。
チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる