不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第三章 風精霊の棲み処へ

神殿からの圧力、異端

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「まずは、各地の魔石を壊して、精霊の魔力を取り戻すことを最優先とする。ただ、あちらもこのまま黙っているとは思えない。神殿の動きは、引き続き探りを入れる。……皆、一層気を引き締めるように。」


そうスフェンが言ったあと、とたんに何か顔をしかめた。
こめかみには青筋が立っているように見える。


「……っ。どうやら、さっそく仕掛けてきたぞ。」


短く舌打ちをしたスフェンは、忌々し気に口を開いた。

 
「……兄上から緊急で伝達魔法が届いた。俺が神殿から『異端』と認定された。」

皆が一斉に息を飲む音が聞こえた。

この国では精霊信仰と神信仰があるが、神信仰は国教でもある。創造神を唯一神とするもので、国の儀式やら結婚の儀は全て神信仰の方式で行われていた。


それぐらい生活に根付いていて、欠かせない宗教である。たしか、騎士になる誓いも、神の名のもとに行われていたはずだ。

 
そこから王族が『異端』扱いされたとなると……。

 
「紅炎騎士団団長の職を下ろされるのも時間の問題だろう。『異端』とされれば、国に関わる職にはつけないからな。もちろん、王族からも除籍だ。」

あくまでも冷静に事実を伝えてくれているが、スフェン。
それは今まで築いてきた地位が、全て無くなってしまうという事だ。


「……『異端』とされた理由は何なのですか?」

ヒューズが緊張した面持ちでスフェンに問うた。
いくら何でも、王族を『異端』扱いするのであれば、それ相応の理由が必要になる。

 
「……『神殿の正規な方法とは異なる、不浄な浄化魔法を行使する『異端者』を、紅炎騎士団に匿っている』だと。」

 
俺は、ヒクっと喉が引きつり呼吸が止まる。
それって、俺のことなんじゃないのか?

 
「……浄化は神殿の生業だしね。というか、浄化魔法を神殿が神官以外に教えてくれないんだよね。『神に認められた者のみに許された魔法』とかいってさ。」

バカにしたようにツェルが鼻で笑った。

 
ふうっと大きなため息をスフェンは吐くと、俯いたまま話を聞いていた俺に向かって、優しい眼差しを向けた。


「……心配するな、ミカゲ。兄上に頼んで対策を講じて__」

「だめだ!」

スフェンの言葉を遮るように、俺は叫んでいた。

 
「……だめだ。俺と一緒にいちゃいけない。これ以上は迷惑を掛けられない。だって、これは……。」

「……ミカゲ…?」


「全部……。全部俺のせいなんだ。」

 
もう、これ以上誰も巻き込みたくない。
誰にも、何も失ってほしくない。


アウラドラゴンの死を見た俺は、もう自分の罪に耐えきれなくなっていた。

 
大丈夫だ。
神殿が怪しいと分かったのなら、それだけでもう十分だから。
あとは、一人でもなんとかなるだろう。

ここで全てを話して、皆と別れよう。

 
俺は、自分の罪を懺悔するのだった。


「……シユウは、異国の邪神と説明しただろ?あれは、俺の世界から来た邪神だ。この世界とは違う、魔法のない異世界からきた異形の存在なんだ。」

「……異世界?」

突然、異世界という現実離れした言葉が出てきて戸惑うだろう。俺の左隣に座っていたスフェンが驚いた声を上げた。俺は言葉を続ける。


「俺はその異世界から、シユウを追ってこの世界にきた。シユウは古来に封印され、神殿のような場所で封印が解けないように管理されていた。……俺は、その神殿の管理者だった。そして、毎年決まった日に、舞を踊って封じ直しの儀式が行われていたんだ。でも……。」

 俺はそこで言葉を切った。ここからは、俺の罪の告白だ。


「俺は今年、舞を踊らなかった。だから、封印が解けてシユウがこの国に逃げ込んだ。俺は精霊王ベリルに、シユウを再び封印するため、異世界からこの世界に連れてきてもらったんだ。」

膝で握っていた拳に力が入る。緊張で震えて、何て情けないんだろう。

自分の犯した罪だろうが。
しっかりと、スフェンたちに言わないでどうする。


「……俺のせいで、人々を傷つけて、精霊たちを苦しませて、ヒスイの親の命も失わせた……。」


本来なら、苦しまないはずの人たちが、俺のせいで苦しんだ。

今だってそうだ。
人の築き上げてきたものを、失わせて。
人生を狂わせようとしている。

 
「この国をめちゃくちゃにしたのは俺だ。全部、俺のせいなんだ!」

 
俺はソファから立ち上がると、床に膝をついて両手をついた。

 
「……罪人の裁きなら当然受ける。なんだってする。でも、封印を古来に施した者の血縁者である俺じゃないと、シユウを封印できない。……だから!」

 
俺は頭を垂れて必死に懇願した。
お願いできる立場じゃないのは分かっている。

でも、これだけは、何が何でも通さなければならない。


「……どうか!どうか俺に、シユウを封じるまでの時間を与えてほしい。シユウを封じた後は、どんな裁きでも受ける。皆ともここで別れて、二度と会うことはしない。お願いします!」


全てが終わったら罪を償う。
それは、都合が良く聞こえるだろう。
でも、今ここで、騎士団や王宮に捕まるわけには行かない。



「………ミカゲ、顔を上げなさい。」

静まり返った部屋で、淡々としたスフェンの声が響く。

俺は、恐る恐る顔をあげた。
侮蔑の視線をもらうだろうと覚悟していた俺を、深いエメラルドの瞳が射抜いた。

その目は、いつもの穏やかな、まっすぐな瞳だった。


「ミカゲの罪は良く分かった。……だが、この世界の危機に、異世界人のミカゲが、どうして全てを背負わなければならない?」

スフェンは、言葉を続けた。


「シユウがこの国に逃げてきた原因は、確かに封印が解けたからだろう。……それでも、この世界の事情に、異世界の者は全く関係がないじゃないか。」

「私なら一層のこと、そのまま放っておくな。自分の世界から災難が一つ減ってよかったとさえ、思うだろう。」

ギシリっとソファが軋む音が聞こえた。
人の影が動いているのが、視界の端で見える。


「……異世界からきた危機であれ、この世界の滅亡は、この世界の者たちで解決する。例え、解決出来ずに世界が滅んだとしても、もはやそれまでのことだ。」


スフェンは床に膝をついている俺に、そっと近づいてきた。
片膝を床について、俺の両手を取り握りしめた。


「……この世界の者として礼を言う。この世界のために、来てくれてありがとう。……私と共に戦ってほしい。この国を、この世界を救ってほしい。」

 

意志の強い、透き通ったエメラルドの瞳が、俺の目をまっすぐに見つめる。

 

「私が共にいる。」

 

俺の手を包む大きな手には、しっかりと力が込められていた。

こんな臆病で、非力で、今まで自分の罪を黙ったままだった俺に、スフェンは言ってくれた。


共に戦ってほしいと。


身体が震える。
それは、恐怖とかではない。
暗闇に一筋の光が差し込んできて、心の底から打ち震えるのだ。

ああ、この人は。
どうしてここまで、眩しいのだろう。



「……それに、何も心配しなくていい。兄上である皇太子殿下には、ミカゲのことを内密に報告していた。神殿がいずれ何かを仕掛けてくるであろうことも想定してな……。ちょうど、音声伝達がきた。」

俺はスフェンにソファに座るよう、手を引かれて座った。


スフェンは左耳につけている銀色のイヤーカフをおもむろに触ると、部屋に若い男性の声が響く。


『スフェン、神殿がちょっかいかけてきてんぞ。』







・。・。・。・。・。・。・。・。・。・
5月31日  

いつも御愛読頂き、ありがとうございます。
主人公のセリフを一部修正致しました。ご了承ください🙇何卒よろしくお願いします。
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