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第三章 風精霊の棲み処へ
禁忌魔法
しおりを挟む「魔石について、アウラドラゴンはこう言っていた。『人間の存在自体が忽然と消えて、魔石だけが地面にあった』と。その状況から、一つ心当たりのある魔法がある。……強制魔力付与。禁忌魔法だ。」
強制魔力付与。
聞いたことのない魔法に首を傾げる。禁忌魔法というだけに、一般には広く知られていないのかもしれない。
「……強制魔力付与?聞いたことのない魔法ですね。」
ヒューズも知らないとなると、厳しく情報規制されているようだ。
「禁忌魔法だからな。その魔法の存在自体も人々には知らされていない。知っているのは、王族くらいだろう。私も、名前と特徴ぐらいしか知らないからな。」
そういうと、スフェンがその禁忌魔法について説明してくれた。
「魔力付与は知っているだろう?魔石に魔力を溜めて一定時間、明りを灯したり、室内の温度を保ったりすることができる。」
この世界には科学技術がない代わりに、魔石を利用した生活魔法や魔道具が存在する。
冷蔵庫の代わりとなっているものも、冷却の指示をする魔法陣を魔石に組み込み、その魔石に魔力を流して一定の温度に保つようにしているのだ。
「強制魔力付与は、本人の意志に関係なく、強制的に魔力を魔石に吸収させ続ける。……たとえ、付与者が死んだとしてもだ。」
意志と関係なく魔力が吸収される……。
「魔力は生命と同じです。私たちの身体は魔力でできている。魔力量が限界を迎えると、身体に震えがきたり、意識を失ったでしょう?あれは、防衛本能から来るものです。それ以上魔力を使うと、命を削るというサインですね。」
軍医のヴェスターが簡単に教えてくれる。
では、魔力量の限界を超えても吸い続けられたとすれば、人間はどうなるのだろうか。
「強制魔力付与の特徴は、付与者の命が尽きても魔力吸収をすること。最後には身体も跡形もなく消えて、魔力を吸い上げた魔石のみが残ること。」
アウラドラゴンが言っていた、『人間が忽然と消えて魔石だけ残った』という特徴と似ている。
「……命を賭して造られた魔石は、かなりの威力を発揮する。太古の大魔導士が生みだしたその魔法は、大戦の際に武器の一つとして使用された。今は、人道に反するという理由で、強制魔力付与は禁忌魔法だ。魔法発動させたものは死罪。……魔導書も閲覧禁止となり厳重に保管されている。」
その禁忌魔法のやり方を、どうにかして入手し実行した者がいる。
そんなに厳重に保管されているのであれば、おのずと入手できる者も限られてくるだろう。
スフェンは一度言葉をきると、俺たち全員に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を発した。
「……その保管場所は、神殿本部だ。」
「神殿は国の不可侵の領域とされている。宗教と政治を切り離すためだ。政治的なものには縛られないからこそ、神殿本部に保管するのが一番良いとされたんだ。」
その禁忌魔法が、現在使用されているとなると……。
「なんとも、面倒な話になってきたな。神殿本部はナイアデス国の近くにある“神の孤島”だろ?」
フレイが詳しく“神の孤島”について説明してくれた。
ナイアデス国の南側には海が広がり、神の孤島と言われる小さな島がある。
各地の神殿の総本山である神殿本部だけが建てられた島で、高位神官しか立ち入れない。
「シユウが憑りついているのは、神殿本部に入れる人間。おそらく、かなりの高位神官だろう。」
不可侵の領域。神の孤島。
島に行くにも敵が待ち構えているはずだ。
「……神殿本部を調査するにも、よっぽどの理由がないとダメだしね。それに、禁忌魔法を使ったっていう証拠が無い。いくら団長が『精霊たちが言っていた。』と進言したところで、神殿側も黙ってはいないでしょ。」
冷静なツェルの言葉はもっともだ。
「あそこは、いつでも金と欲にまみれていて、叩けば幾らでもホコリが出そうですしね。」
ヒューズの言う神殿という神を祀る神聖な場所は、どうやら淀んだ暗闇の中らしい。
「禁忌魔法ともうひとつ、気になることがある。各地で行方不明者が相次いでいること。……その行方不明者にも皆、共通点がある。」
スフェンは俺と行動を共にしながら、どれだけの情報を集めたのだろうか。その手腕に感服してしまう。
「平民婦女に暴行した元貴族、重い税を課していた長、悪徳商法で荒稼ぎしていた商人など、平民に『害悪』とされていた者たちの相次ぐ失踪だ。」
いわゆる、厄介者たちの相次ぐ失踪。
「因果応報かねえ。居なくなって逆に良かったと思いてえが、そう単純でもないか。」
フレイがふんっと鼻で笑いながらも、思慮深げにしている。
「そんな奴等は、しぶとく生きますからね。生に対して嫌と言うほど貪欲だ。……だからこそ、今の甘い地位を捨てて、自分で失踪するなんてあり得ない。」
ヒューズの言うとおり、そんなにもいい思いをしているのであれば、自分自身で失踪したりはしないだろう。何者かに連れ去られたか、恨みを買って殺されたか……。
「この行方不明と魔石の関係性は定かじゃない。ただ、魔物のが凶暴化した時期と、この件が同じ時期に起きて居るのが気になる。引き続き調査が必要だな。」
ふうっと一息、スフェンが吐息を溢した。
「まずは、各地の魔石を壊して、精霊の魔力を取り戻すことを最優先とする。ただ、あちらもこのまま黙っているとは思えない。神殿の動きは、引き続き探りを入れる。……皆、一層気を引き締めるように。」
一同は力強く頷くのだった。
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