不遇な神社の息子は、異世界で溺愛される

雨月 良夜

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第二章 王都への帰還

魔力譲渡

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「………ミカゲ、降りてこい。」

 
呻くように低く、威厳のある声に俺は命令された。

馬車の中からは、こちらを仰ぎ見ているスフェンの姿が見えた。声を荒げることはないものの、ひどく冷淡なその声は、有無を言わさない威圧感を感じる。

 
命令に従わなければならないと、本能で身体が自然に動いていた。


素直にスフェンの言葉通り、俺は天窓からストンっと馬車の中に降り立った。


すると、スフェンは素早い動きで俺に足払いをした。
あっという間に俺は座面に尻もちをつき、腰を下ろしていた。俺が座った瞬間、スフェンが俺の右顔近くに左手を伸ばして背後にある壁に付いた。

俺の左側は壁、右はスフェンの腕で挟まれ囲われる。

 
思わず本能で後退ったが、背後も壁に阻まれている。退路がない。

 
驚いている暇もなく、グイっと顎を掴まれ強引に上を向かされる。

目の前には金糸の髪を靡かせた美形がの顔が、すぐ近くにまで迫っていた。


いつもの甘い雰囲気とは打って変わって、今は大勢の猛者を締め上げる騎士団長のそれだった。
宝石のようなエメラルド色の瞳を眇めながら、スフェンは俺をすうっと切れ長の目で見つめてきた。

 
どことなく怒っている雰囲気があるのは、気のせいではない気がする。

 
「……あれほど安静にとヴェスターが言っていたよな?魔力も回復しきっていないというのに……。……言う事が聞けないのなら、こうするぞ。」

 
そういうや否や、スフェンの顔は触れる距離まで近づいてくる。

「あっ」と思ったときには、もう遅かった。

 
「っ?!」

スフェンが俺の唇ごと食べるみたいに、噛みつくように俺の唇を塞いできた。柔らかな唇が重なりあう。

驚いて目を見開いていると、スフェンの深い緑色の瞳と目が合う。俺の様子を観察するように、じっと静かに見据えている。

その綺麗な瞳に魅入っていると、少し開いた唇の隙間からするりと肉厚な熱が口の中に入ってくる。


「…ふっ、…んん…!」
 

なんで……?
なんでスフェンは、俺にキスをしているんだ?


日本では、恋人がいない歴=年齢だった。
キスなんてしたことは無い。これがファーストキスだ。
初心者の俺は、こんな艶めかしい大人のキスをされて、抵抗なんてできるはずがない。

俺の呼吸さえも食べようとする激しいキスで、息が上手く吸えない。息苦しくなってくる。
堪らず目を固く閉じてしまった。

 
おろおろとしている俺の口内はすぐに暴かれてた。逃げていた舌は、スフェンによってねっとりと巧みに絡めとられた。

くちゅりっ、ちゅくっと湿った水音が聞こえて、俺はその音に一気に羞恥で顔を赤くした。

 
スフェンは角度を変えて、何度も俺の口内を貪った。舌を絡めながら、何か熱いものが身体に流れ込んでくる。


体温が徐々に引き出されて、熱を誘い出されるような。
甘くて熱い蜜が、口からトロリと与えられ、身体に馴染み、蕩けていく。

心地いいような、それでいてソワソワと、落ち着かなくなる。

未知の感覚に心細くて、俺は無意識にスフェンの胸元の服を両手で引っ張って縋っていた。
俺の絡められた舌は、スフェンの舌によって上に持ち上げられ、その甘い蜜をしっかりと飲み込むように促された。

舌の裏側を刺激されると、ゾクリと背中にしびれが走った。


……熱い。


 身体の中に入っていった蜜は、ぐるぐると俺の身体を巡っている。

最後に舌を軽く吸われて、スフェンの唇がチュッと湿った音を立てて離れていく。息苦しさから解放された俺は、肩ではぁ、はぁと息をしていた。

 
「完全回復するまでは戦闘は禁止だ。魔力も極力使うな。破った場合は今と同じく、私が直接ミカゲに魔力譲渡をする。………もっとも、私に口付けられたいのなら別だがな。」

 
口角を片方だけ上げてニヤリと笑ったスフェン。

俺に見せつけるように、てらりとお互いの唾液で濡れた唇を、右手の親指で拭いながら、舌を出してチロリと舐め上げた。
その姿が、あまりにも芳醇な雄の色気を纏っていて、俺は堪らず目を背けてしまった。


確かに、体液には魔力が多く含まれているけど……。
だからって、こんな激しいキスをするなんて……。


 未だに唇には甘い痺れと、スフェンの柔らかな唇の感触が残っていた。
不穏な言葉が聞こえた俺は、すぐに白旗を上げた。

「ご、めん…、なさい。」

 
甘く吸われた唇と舌が痺れて、上手く言葉が紡げなかった。息苦しさから解放されても、なぜだか落ち着かない。


「分かればいい。」

しばらくの間、俺は顔を真っ赤にしながら、馬車の中でスフェンに無言で頭を撫でられ続けたのだった。

 

ちなみに、馬車を休憩地点に止めたとき、俺の元にヴェスターがやって来た。

にこりと微笑みを浮かべながら、ヴェスターは俺の両頬を思いっきり引っ張った。

「安静にと言ったでしょう?聞き分けのない子は、縛りましょうか?」

目が笑っていないヴェスターに言われた俺は、「ごぉめんなひゃい。」と顔を引っ張られたまま謝罪したのだった。



駐留地から出発して4日後の昼頃、俺たちは王都バシレウトに到着した。

王都は高く頑強な城壁に囲まれ、全体は歪な円のような地形だ。北東の少し小高い丘に、王が住む城が建てられ、城下町が広がっている。

円の中心は噴水のある美しい広場だ。

その広場から道が四方八方に続き、それぞれの区画に続いている。
大まかに、北に貴族たちが住む貴族区、北西には神殿や神官たちの住まいである神官区、南は様々な店のある商業区、西が一般市民が住む居住区だ。

 
薄いベージュのレンガ造りや木造の家がほとんどで、一般家庭はせいぜい2階建て。
全ての家の屋根が臙脂色で、景観が美しく統一されている。

建物が密集していて人々がひっきりなし行き交う。
屋台が並んで食材の焼ける匂いや、威勢の良い掛け声が聞こえてくる。

王都というにふさわしい、多くの人で賑わう活気ある街だ。

 
こうして周囲を観察しながら歩く余裕が出たのも、スフェンたちのおかげだと思う。
気持ちが焦って、周りを見る余裕もなかったし、極力、人を避けて活動していたからな。

 
石畳にしっかりと舗装された滑らかな道を、俺は馬車に乗りながら騎士団とともに進んでいた。
騎士団の旅の準備ができるまで、俺は騎士団の詰所にお世話になることになった。

次の旅の準備のため、俺の話を聞きたいのだそうだ。


そして、俺には王都に着いたら行きたい場所があった。

 
それは、精霊が祀られている聖殿。

俺は精霊王ベリルに、久々に会いに行こうと思っていた。



 
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