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第一章 始まりと出会い
冒険者になる
しおりを挟む目が覚めると、大樹のあった草原にコマの前足を枕に寝かしつけられていた。
辺りはすっかりと暗くなっていて、大樹が淡い金色の光を放って辺りを照らしている。
大樹の葉の所々には、小さな金色の花が咲いていた。元気になってよかった。
『あっ、起きた。』
俺が上体を起こすと、近くに座っていたポムフルールが声をかけてくれる。
『精霊たちが果物を集めてくれたから、ごはん替わりに食べなよ。』
そういうと、果物がたくさん入ったかごを俺の前に差し出した。
「ありがとう。」
お礼を言って、かごに入った赤いリンゴに見える果物を一つ手に取る。一口かじると爽やかで甘い果汁が溢れ出て喉を潤す。
見た目はリンゴだけど、味はブドウのようで不思議だ。
「美味しい。」
そういうと、あたりをふわふわと淡い光が舞い踊る。よく見るとそれは子供のようにふっくらとした見た目で、背中には4枚の透明な羽根が生えていた。
星みたいな形をした襟に、風船みたいな膨らんだ服を着て、カボチャパンツを履いていた。
襟にはポムフルールの瞳に似た色の石が付いていた。
『この子たちが下級精霊だよ。』
そうポムフルールが紹介すると、えっへん!というように腰に手を当てて、胸を突き出してふんぞり返る精霊たち。
あまりにも可愛らしい仕草に、俺はクスクスと笑ってしまった。
「ありがとう、みんな。とても美味しいよ。」
改めて精霊たちにお礼を言うと、パタパタと羽根をはためかせながら、くるりと空中で精霊が一回転する。
『えへへ。うれしー』
何処からともなく、きゃははっと楽しそうな声が聞こえる。なんとも賑やかで楽し気だ。
夜の月明かりが静かに佇む中、精霊たちの光は淡くて優しく、そして楽しそうに舞っているのが幻想的だ。
俺の隣に座って、同じように果実を食べているポムフルールは、俺を見て目を細めた。
『この世界について何にも聞いてないんでしょ?年上の僕が、親切丁寧に教えてあげる!』
明らかにポムフルールのほうが年下に見える。
それを質問したら、『失礼な!僕は1000年は生きているもん。人生の大先輩だぞ!』と威張って可愛かった。
ポムフルールはこの世界について教えてくれた。
決定的に日本と違うのは、この世界には『魔法』が存在すること。
魔法を使うには魔力を消費する。魔力は必ず生き物全てに存在していて、もちろん人間にも備わっている。しかし、魔力量の多さは人それぞれらしい。
そして、スキルという能力が存在する。スキルは生きていく中で身につけられるものもあるし、生まれながらにして備わる能力もあるようだ。
自分のスキルについては、一般に街の役所や冒険者ギルド、教会等で確認する。または、『鑑定』のスキルを持っているのであれば、自分自身を鑑定して確認できる。
『ミカゲは鑑定の上位種の『感知』を使えるから、自分の能力値を確認できるよ。』
とは言われたものの、人生で一度も魔法を使ったことがない俺は、どうすればよいか分からない。
「……どうやって能力を使えばいい?」
『『自分を調べよう』ってイメージすればできるよ。』
試しに念じてみると、自分の頭の中に映像が浮かんでくる。
・。・。・。・。・。・。・。・。・。・
名前:ミカゲ(本名:蘆屋美影)
性別:男
体力:3000/5000
魔力:29000/30000
魔法属性:全般(水、風、火、木、光、闇)
スキル:隠蔽、感知、剣術、弓術、舞、浄化、身体能力強化
称号:精霊王の愛し子、精霊の舞姫、術師、剣士
・。・。・。・。・。・。・。・。・。・
RPGゲームのステータスを確認するような画面が、頭の中で表示される。
……精霊の舞姫ってなんだ。
俺は男で断じて『姫』ではない。
そんなツッコミを頭の中でしていたら、ポムフルールに再度話かけられた。
『うん。ちゃんと『感知』できたね。それと、精霊を目視できる人間は珍しいから、秘密にしておいたほうがいいよ?』
俺はポムフルールの言葉に素直に頷いた。
それにしても……。
ステータスもなんだかチートな気がする……。
精霊王ベリルが取り計らってくれたのだろうが、やりすぎではないだろうか?
スキルは日本での能力が生かされているものが多いようだ。
剣術は、きっと舞から得たスキルだろう。舞自体、有名な剣技が由来なことが多いからだ。
『感知』が出来たところで、ポムフルールの話が再開される。
ポムフルール曰く、精霊の棲み処は全部で6つ。
木精霊 ポムフルール
火精霊 カリエンタ
水精霊 アイル
風精霊 アニマ
光精霊 ラディース
闇精霊 ハーミット
それぞれの精霊たちは、自分たちで棲み処としている場所がある。
各精霊の棲み処近くに、何者かがあの禍々しく、邪気が込められた魔石を置いていったそうだ。
目的は、精霊たちの魔力を削ぎ落し、世界の弱体化を図るためだろう。
精霊たちは穢れに直接触れることはできない。そして、普通の人間では邪気を浄化できない。だから、穢れを払えるのは自分しかいない。
そして、石を砕いたとしても、漂っている邪気はすぐには消えない。薄い邪気なら放っておいていても自然と消えていくが、濃い邪気は空気中を漂ってしまう。魔物が邪気にあてられると狂暴化するため、濃い邪気を見つけた場合は都度、浄化して消滅させる。
各精霊の棲み処を目指しながら旅をして、濃い邪気を見つけ次第に浄化。
そして、邪神に憑りつかれた人間の手がかりを探していく。
俺とポムフルールは、これからの活動について、しばらくの間語り合ったのだった。
_________________________________
木の精霊ポムフルールの棲み処を出てから1か月、俺は次の水精霊の棲み処を目指し旅をしていた。
各地に赴くには、冒険者が一番手っ取り早かった。
魔物討伐や行商の護衛の依頼をこなし、目的地を目指しながら生活費を稼ぐ。
各地の関所を通るのに、冒険者ギルド発行の身分証明証があれば簡単に通れた。
この方法は、ポムフルールと相談して決めたのだ。
ちなみに、冒険者の装備は精霊王ベリルから貰った革製のポシェットに入っていた。
このポシェットは亜空間収納だ。生物以外だったら何でも収納できる。時間経過もない。
ポムフルールからは、精霊の棲み処が書かれた地図を貰った。この地図は不思議な魔道具で、自分の現在地が赤印で現れる。スマートフォンのマップ機能のようだった。
最初は、魔物という戦ったこともない相手に怯んでいたが、スキルの剣術や魔法を駆使して倒していった。精霊王ベリルから与えられた、魔物の本を読んで弱点も一通り把握しておく。
俺は水魔法から編み出した氷魔法が得意で、もっぱら氷魔法で獲物を仕留めていた。
冒険者になって、最初は最低ランクのFだったがすぐにBランクにまでなった。
それも、これも、精霊たちのおかげである。
薬草を探す依頼では、精霊たちが『ここに草生えてるよーWW』と教えてくれる。そして、それを摘んで納品すると他のものと比べて品質が良かったり、薬効が高かったりするのだ。
中には珍しい薬草もあったりして、俺を指名して薬草採取の依頼をする人もいた。
あとは、自分の能力を高めるために、依頼以外でもこまめに魔物を狩っていたので、必要以上に討伐数が多くなったのもあるのだろう。
もう一つ、ポムフルールから俺は忠告されていた。
『……ミカゲの姿は目立つから、気を付けたほうがいいよ?』
確かに、今の俺の姿はこの世界では異質だろう。
全体的にこの世界の人々は、中世ヨーロッパ風な容姿をしていた。髪の色はゲームのように真っ赤な髪色もいれば、金髪、銀髪もいるなど実に様々だ。
でも、黒色や白色といった髪の毛の人は今まで見たことがない。
俺の髪の毛は、この世界に来てから真っ白に変わった。ポムフルールに一度鏡を見せられた時は、本当に自分だろうかと驚いたものだ。
耳に少しかかるくらいの白髪。
目の色は日本似たときと同じように、黒色にほとんど近い藍色。
この目は父親譲りで、光の加減で青色に時折見えるのだ。
体格はこの世界では華奢なほうだろう。
いかんせん、この世界の人々は体格も大きい。
俺は身長が170センチメートルで、いたって平均的な身長だ。この世界の人々は、俺よりもさらに背が高く、身長が2メートル以上の人も多い。
『珍しい髪色と瞳は確かに目立ってしまうな』とポムフルールに言ったら、なぜか微妙な顔をされて『…まあ、それ以外もというか……。』ともごもごと何か呟かれたが、聞こえなかった。
俺は、必要な時以外はコートについているフードを被って髪色を隠していた。
幸い、冒険者になってから、俺の素顔を見たものはいないはずだ。髪色が白色で目立つし、この世界で俺の顔は幼く見えるらしい。
冒険者に変に絡まれないように顔を隠していた。
冒険者として依頼をこなしながら、邪気の濃い場所を浄化することも忘れなかった。
いつの間にやら、精霊たちの間でも俺のことが話題になっているらしい。なんでも、『癒される魔力をくれるー』とか、『踊りがきれいー』だとか。
一度、気まぐれに舞を踊って見せたら、いたく精霊たちが気に入ってくれたのだ。せがまれて舞うことも少なくなかった。
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