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僕の気持ちはどこにある? そして君は今、どこにいるの?
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「渡良瀬、こいつ急いで打ち込んで。そして総務部に持っていって。」
後15分で昼休憩だという時に、柿崎部長から青色のクリアファイルに挟まれた書類を受け取った。中を確認してみると、嶺さんの出張に関する書類だ。
もう既に航空券も、宿泊先のホテルも取ってある。現地ではレンタカーを利用するらしい。難しい指示がたくさん羅列してある中で、それだけを読み取った。
総務部が作成したものだろうか。青は総務部。営業は黄色のはず。2枚めには、出張旅費の明細があり、それをキーボードの脇に置いて数字を打ち込み始めた。
「できた? 社食に行くから、ついでに持って行くけど。今日は渡良瀬くんお弁当持ちでしょ?」
12時ちょうどに鈴木さんが席を立ち話しかけてきた。もう少し、あと5分もあればでき上がる。でも、部長に確認してもらわないと。
「部長の確認もあるので、僕が午後に持って行きます。総務も休憩中でしょうし。」
「そう。じゃあ休憩、先に頂くわね? 伊東くんは?」
「あ、俺も行きます。」
仕事に集中していた伊東さんがキーボードを叩く手を休めて立ち上がり、鈴木さんと一緒に出て行った。
打ち込みが終わり、パソコンの確認用ファイルに入れて部長の確認を取る。オーケーが出て、昼食前に席を立った。
齋藤さんに会いたくないわけではない。それは断じて違う。でも、頭の隅にもう彼女のことで煩わされたくない、という気持ちがあることを認めざるを得なかった。
「失礼します。書類を戻しにきました。」
青のファイルを片手に総務部のドアを開ける。このオフィスビルのいいところは、ドアが木製っぽく作られていて、少しだけ癒されるところ。
各部ごとに鉢植えの観葉植物も飾られていて、ナチュラルな木の色で作られた飾り棚やテーブルが、洒落た空間を作っていた。
「はい。あ、渡良瀬くん。」
そこにいたのは、齋藤さんだった。明らかに手作りの弁当を1人で食べていたところだ。
「あ、すぐに持って行くように言われたので、ごめん。休憩中なのに。」
「営業部の出張書類でしょ? このまま、またすぐに返さないといけないはずだから。助かるわ、ありがとう。」
一瞬上げた顔を少し俯かせ、視線を合わせないまま立ち上がった齋藤さんが、こちらに歩いてきた。ファイルを手渡そうとした瞬間、視線が合う。
『……?』
物言いたげな目を見ても、どうしたら良いかわからない。相変わらずキラキラメイク。唇も目のあたりもピンクに彩られている。薄い前髪がユラユラ揺れて、その下に長いまつ毛が瞬いていた。
「じゃあ……お願いします。」
「はい。」
ファイルをお互いに手にしたまま見つめ合ったのは一瞬。僕がファイルから手を離すと、齋藤さんは視線を下げて背を向け、机に戻っていった。
後15分で昼休憩だという時に、柿崎部長から青色のクリアファイルに挟まれた書類を受け取った。中を確認してみると、嶺さんの出張に関する書類だ。
もう既に航空券も、宿泊先のホテルも取ってある。現地ではレンタカーを利用するらしい。難しい指示がたくさん羅列してある中で、それだけを読み取った。
総務部が作成したものだろうか。青は総務部。営業は黄色のはず。2枚めには、出張旅費の明細があり、それをキーボードの脇に置いて数字を打ち込み始めた。
「できた? 社食に行くから、ついでに持って行くけど。今日は渡良瀬くんお弁当持ちでしょ?」
12時ちょうどに鈴木さんが席を立ち話しかけてきた。もう少し、あと5分もあればでき上がる。でも、部長に確認してもらわないと。
「部長の確認もあるので、僕が午後に持って行きます。総務も休憩中でしょうし。」
「そう。じゃあ休憩、先に頂くわね? 伊東くんは?」
「あ、俺も行きます。」
仕事に集中していた伊東さんがキーボードを叩く手を休めて立ち上がり、鈴木さんと一緒に出て行った。
打ち込みが終わり、パソコンの確認用ファイルに入れて部長の確認を取る。オーケーが出て、昼食前に席を立った。
齋藤さんに会いたくないわけではない。それは断じて違う。でも、頭の隅にもう彼女のことで煩わされたくない、という気持ちがあることを認めざるを得なかった。
「失礼します。書類を戻しにきました。」
青のファイルを片手に総務部のドアを開ける。このオフィスビルのいいところは、ドアが木製っぽく作られていて、少しだけ癒されるところ。
各部ごとに鉢植えの観葉植物も飾られていて、ナチュラルな木の色で作られた飾り棚やテーブルが、洒落た空間を作っていた。
「はい。あ、渡良瀬くん。」
そこにいたのは、齋藤さんだった。明らかに手作りの弁当を1人で食べていたところだ。
「あ、すぐに持って行くように言われたので、ごめん。休憩中なのに。」
「営業部の出張書類でしょ? このまま、またすぐに返さないといけないはずだから。助かるわ、ありがとう。」
一瞬上げた顔を少し俯かせ、視線を合わせないまま立ち上がった齋藤さんが、こちらに歩いてきた。ファイルを手渡そうとした瞬間、視線が合う。
『……?』
物言いたげな目を見ても、どうしたら良いかわからない。相変わらずキラキラメイク。唇も目のあたりもピンクに彩られている。薄い前髪がユラユラ揺れて、その下に長いまつ毛が瞬いていた。
「じゃあ……お願いします。」
「はい。」
ファイルをお互いに手にしたまま見つめ合ったのは一瞬。僕がファイルから手を離すと、齋藤さんは視線を下げて背を向け、机に戻っていった。
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