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僕は君の初恋の人? 君は憧れのお兄さん?

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「ああ、隣の県だ。母の生まれ故郷。母が死んでから父がこちらに俺を連れてきた。もうこっちでの生活の方が長いな。」

「ここから遠いんですか?」
 隣の県って神奈川? 千葉? それとも埼玉? いや山梨県だってそうだろ? 僕はもっと詳しく知りたかった。

「いや埼玉の南だからそんなに遠くでもないな。車でも2時間もかからなかったはず。」

『埼玉!』

 驚きすぎてビールを飲むしか方法がなかった。心臓がバクバクしている。僕の生まれたところも埼玉県だ。しかも祖母の家は嶺さんのいう県の南だ! 

 驚きすぎて言葉が出ない。もし、嶺さんの思い出の子が僕だったら……? でも嶺さんは、そんな僕には気がつかなかったようで「ラーメン頼もうぜ。」とメニュー表を取り出していた。



「何だか静かだな。どうした? 俺、喋りすぎ?」
「いえ。」

 ラーメンと一緒に頼んだビールが運ばれてきたところで嶺さんが口を開いた。僕はなんて言ったらいいか分からずに、まだドギマギしていた。

 聞いてみたいような気がする。でも、もし僕だったら? 嶺さんはがっかりするだろう。なんといっても女の子だと思い込んでいるのだから。

 僕の幼い頃は、髪の毛はそんなに長くはなかったけど、短くもなかった。写真で見たことがある。女の子といえば言えなくもないかもしれない。一度も言われたことはないけど。

 それに、もし違かったら? うん、違うということもあり得る。むしろその可能性の方が高い。違うことが分かって恥ずかしい思いをするのは嫌だった。僕は、何も言うまいと決めた。

「そうそう。齋藤君とのことを聞こうと思ってたんだよ。やっぱり俺、喋りすぎたな。で? どうなの。」

「どうと言われても……。」
 話題を変えられて、急に現実に戻される。ビールをまたゴクゴクと飲んだ。全く酔った気がしない。僕は酒に強くなった? そうだ、嶺さんに相談するのもいいかもしれない。

「僕、分からないんですよ。今になって思えば色々アピールされていたな、っていうのは分かるんですけど。その、僕の気持ちが……。」

「なに。齋藤君を好きか嫌いか?」

 僕は嶺さんを見ながら頷いた。嫌いではない、それは断言できる。でも好きなのかと問われたら……。それも違うんだ。好きでも嫌いでもない。なんと言ったらいいか分からない。

 でも、真面目な顔でこちらを見ている嶺さんを見て、入社してから今までのことを話そうと心に決めた。初めての研修の時に、隣に座ったんだ。そうあの時のことから。そして、金井や渡辺のことも。

「あの、聞いてもらえますか?」

 僕が尋ねると、嶺さんは優しく微笑んだ。



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