31 / 100
僕は君の初恋の人? 君は憧れのお兄さん?
8
しおりを挟む
「ああ、隣の県だ。母の生まれ故郷。母が死んでから父がこちらに俺を連れてきた。もうこっちでの生活の方が長いな。」
「ここから遠いんですか?」
隣の県って神奈川? 千葉? それとも埼玉? いや山梨県だってそうだろ? 僕はもっと詳しく知りたかった。
「いや埼玉の南だからそんなに遠くでもないな。車でも2時間もかからなかったはず。」
『埼玉!』
驚きすぎてビールを飲むしか方法がなかった。心臓がバクバクしている。僕の生まれたところも埼玉県だ。しかも祖母の家は嶺さんのいう県の南だ!
驚きすぎて言葉が出ない。もし、嶺さんの思い出の子が僕だったら……? でも嶺さんは、そんな僕には気がつかなかったようで「ラーメン頼もうぜ。」とメニュー表を取り出していた。
「何だか静かだな。どうした? 俺、喋りすぎ?」
「いえ。」
ラーメンと一緒に頼んだビールが運ばれてきたところで嶺さんが口を開いた。僕はなんて言ったらいいか分からずに、まだドギマギしていた。
聞いてみたいような気がする。でも、もし僕だったら? 嶺さんはがっかりするだろう。なんといっても女の子だと思い込んでいるのだから。
僕の幼い頃は、髪の毛はそんなに長くはなかったけど、短くもなかった。写真で見たことがある。女の子といえば言えなくもないかもしれない。一度も言われたことはないけど。
それに、もし違かったら? うん、違うということもあり得る。むしろその可能性の方が高い。違うことが分かって恥ずかしい思いをするのは嫌だった。僕は、何も言うまいと決めた。
「そうそう。齋藤君とのことを聞こうと思ってたんだよ。やっぱり俺、喋りすぎたな。で? どうなの。」
「どうと言われても……。」
話題を変えられて、急に現実に戻される。ビールをまたゴクゴクと飲んだ。全く酔った気がしない。僕は酒に強くなった? そうだ、嶺さんに相談するのもいいかもしれない。
「僕、分からないんですよ。今になって思えば色々アピールされていたな、っていうのは分かるんですけど。その、僕の気持ちが……。」
「なに。齋藤君を好きか嫌いか?」
僕は嶺さんを見ながら頷いた。嫌いではない、それは断言できる。でも好きなのかと問われたら……。それも違うんだ。好きでも嫌いでもない。なんと言ったらいいか分からない。
でも、真面目な顔でこちらを見ている嶺さんを見て、入社してから今までのことを話そうと心に決めた。初めての研修の時に、隣に座ったんだ。そうあの時のことから。そして、金井や渡辺のことも。
「あの、聞いてもらえますか?」
僕が尋ねると、嶺さんは優しく微笑んだ。
「ここから遠いんですか?」
隣の県って神奈川? 千葉? それとも埼玉? いや山梨県だってそうだろ? 僕はもっと詳しく知りたかった。
「いや埼玉の南だからそんなに遠くでもないな。車でも2時間もかからなかったはず。」
『埼玉!』
驚きすぎてビールを飲むしか方法がなかった。心臓がバクバクしている。僕の生まれたところも埼玉県だ。しかも祖母の家は嶺さんのいう県の南だ!
驚きすぎて言葉が出ない。もし、嶺さんの思い出の子が僕だったら……? でも嶺さんは、そんな僕には気がつかなかったようで「ラーメン頼もうぜ。」とメニュー表を取り出していた。
「何だか静かだな。どうした? 俺、喋りすぎ?」
「いえ。」
ラーメンと一緒に頼んだビールが運ばれてきたところで嶺さんが口を開いた。僕はなんて言ったらいいか分からずに、まだドギマギしていた。
聞いてみたいような気がする。でも、もし僕だったら? 嶺さんはがっかりするだろう。なんといっても女の子だと思い込んでいるのだから。
僕の幼い頃は、髪の毛はそんなに長くはなかったけど、短くもなかった。写真で見たことがある。女の子といえば言えなくもないかもしれない。一度も言われたことはないけど。
それに、もし違かったら? うん、違うということもあり得る。むしろその可能性の方が高い。違うことが分かって恥ずかしい思いをするのは嫌だった。僕は、何も言うまいと決めた。
「そうそう。齋藤君とのことを聞こうと思ってたんだよ。やっぱり俺、喋りすぎたな。で? どうなの。」
「どうと言われても……。」
話題を変えられて、急に現実に戻される。ビールをまたゴクゴクと飲んだ。全く酔った気がしない。僕は酒に強くなった? そうだ、嶺さんに相談するのもいいかもしれない。
「僕、分からないんですよ。今になって思えば色々アピールされていたな、っていうのは分かるんですけど。その、僕の気持ちが……。」
「なに。齋藤君を好きか嫌いか?」
僕は嶺さんを見ながら頷いた。嫌いではない、それは断言できる。でも好きなのかと問われたら……。それも違うんだ。好きでも嫌いでもない。なんと言ったらいいか分からない。
でも、真面目な顔でこちらを見ている嶺さんを見て、入社してから今までのことを話そうと心に決めた。初めての研修の時に、隣に座ったんだ。そうあの時のことから。そして、金井や渡辺のことも。
「あの、聞いてもらえますか?」
僕が尋ねると、嶺さんは優しく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
金曜日の少年~「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく~
大波小波
BL
貧しい家庭に育ち、さらに第二性がオメガである御影 駿(みかげ しゅん)は、スクールカーストの底辺にいた。
そんな駿は、思いきって憧れの生徒会書記・篠崎(しのざき)にラブレターを書く。
だが、ちょっとした行き違いで、その手紙は生徒会長・天宮司 伊織(てんぐうじ いおり)の手に渡ってしまった。
駿に興味を持った伊織は、彼を新しい玩具にしようと、従者『金曜日の少年』に任命するが、そのことによってお互いは少しずつ変わってゆく。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる