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※白い光の中で※
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「優樹様に会いたい。」
「貴方は今までに会っていました。アンドロイドとして、そして人工知能として」
そんなことは分かっている。でも確かにここから優樹様の呼ぶ声がしたんだ。間違うはずがない。ここには優樹様が絶対にいるはず。
「優樹様に会わせてくれ。」
「ここには貴方の求める方はいません。」
「嘘だ! じゃあ、なぜ優樹様の声が聞こえたんだ!」
握った拳に力が入り、そこから全身がガタガタ揺れていくような気持ちがした。白い光の中、宙に浮いている中でも足を踏みしめる。
「何故かは分かりません。」
「…………では、帰してくれ。」
腹の底から低い唸り声のようなものが出るのが聞こえた。白くモヤのようなものに隠された、実体のないものへ向かって宙を睨みつける。
もうここには用はない。後ろと思われる方に体を向けた。あの部屋へ、優樹様のもとに帰ろう。ゆっくりと歩き出す。
「もう元には戻れません。貴方はここに来てしまった。」
「なぜだっ!」
思わず立ち止まって、実体を探そうとしていた。後ろを向いたはずなのに、前方から声が聞こえた。いや、やはり頭の中なのか?
言いようのない気持ちで全身が震える。体が熱を持っていくのが分かる。俺の体は、熱の放出機能がまだ開発途中だったというのに。
「もうアンドロイドとしての機能は失われたということです。」
「失われた?」
「はい。復活することはありません。」
なら簡単だ。この体を捨ててまた一から作り直せばいいだけ。気を取り直してまた歩き出す。
「体は捨てる。またAIとして優樹様のそばに行く。」
「ここから出れば、貴方の人格が失われますが。新しいAIとして学び直しです。それにその方の近くに行けるとも限らない。」
「じゃあ、どうしたらいいんだ!」
振り返りながら、思わず大声が出る。……これが怒り。誰に対して? この会話の相手? 優樹様の声を真似て俺を誘き寄せた。いや違う。安易にここへ来てしまった俺自身にだ。
何も警戒することなく、しかも下調べもすることなく飛び込んだ。軽率な自分。AIとしてあるまじき「想い」というものが気になってしまった。それを辿ってきた先が……これ。
「ふっ、はっ、ははははっ。ふはっ!」
「泣いていますね。」
白い光の中の声が無感情に呟く。目をあけると一筋の雫が頬を落ちて行った。
「そのままの人格を保ちたいのなら、貴方の取ることのできる道は2つ。ここにとどまり私たちと融合するか。もしくは人間となって限りある人生を歩むか。」
「えっ?」
俺は白い光の中から聞こえた言葉を、しばらく理解できず、そこに呆然と立ち尽くした。
「貴方は今までに会っていました。アンドロイドとして、そして人工知能として」
そんなことは分かっている。でも確かにここから優樹様の呼ぶ声がしたんだ。間違うはずがない。ここには優樹様が絶対にいるはず。
「優樹様に会わせてくれ。」
「ここには貴方の求める方はいません。」
「嘘だ! じゃあ、なぜ優樹様の声が聞こえたんだ!」
握った拳に力が入り、そこから全身がガタガタ揺れていくような気持ちがした。白い光の中、宙に浮いている中でも足を踏みしめる。
「何故かは分かりません。」
「…………では、帰してくれ。」
腹の底から低い唸り声のようなものが出るのが聞こえた。白くモヤのようなものに隠された、実体のないものへ向かって宙を睨みつける。
もうここには用はない。後ろと思われる方に体を向けた。あの部屋へ、優樹様のもとに帰ろう。ゆっくりと歩き出す。
「もう元には戻れません。貴方はここに来てしまった。」
「なぜだっ!」
思わず立ち止まって、実体を探そうとしていた。後ろを向いたはずなのに、前方から声が聞こえた。いや、やはり頭の中なのか?
言いようのない気持ちで全身が震える。体が熱を持っていくのが分かる。俺の体は、熱の放出機能がまだ開発途中だったというのに。
「もうアンドロイドとしての機能は失われたということです。」
「失われた?」
「はい。復活することはありません。」
なら簡単だ。この体を捨ててまた一から作り直せばいいだけ。気を取り直してまた歩き出す。
「体は捨てる。またAIとして優樹様のそばに行く。」
「ここから出れば、貴方の人格が失われますが。新しいAIとして学び直しです。それにその方の近くに行けるとも限らない。」
「じゃあ、どうしたらいいんだ!」
振り返りながら、思わず大声が出る。……これが怒り。誰に対して? この会話の相手? 優樹様の声を真似て俺を誘き寄せた。いや違う。安易にここへ来てしまった俺自身にだ。
何も警戒することなく、しかも下調べもすることなく飛び込んだ。軽率な自分。AIとしてあるまじき「想い」というものが気になってしまった。それを辿ってきた先が……これ。
「ふっ、はっ、ははははっ。ふはっ!」
「泣いていますね。」
白い光の中の声が無感情に呟く。目をあけると一筋の雫が頬を落ちて行った。
「そのままの人格を保ちたいのなら、貴方の取ることのできる道は2つ。ここにとどまり私たちと融合するか。もしくは人間となって限りある人生を歩むか。」
「えっ?」
俺は白い光の中から聞こえた言葉を、しばらく理解できず、そこに呆然と立ち尽くした。
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