60 / 65
※白い光の中で※
1
しおりを挟む
白い光の中は何もない空間だった。自分の体は宙に浮き上がり、立っている実感もない。広いのか狭いのか……アンドロイドとして過ごしたここ数週間の知識を持ってしても測りようがない。その中でゆっくりと足を動かしてみた。
「優樹様!」
声に出して叫んでみる。真っ白な広い空間の向こうに声が抜けていくようなそんな感覚広がった。狭くて遠い? 足を動かすスピードを速めてみる。けれども自分が進んでいるのかすら分からない。足にも地面を蹴っている感覚はなかった。
「優樹様ーー!」
さっきよりも大声を出す。聞いたんだ、優樹様の声を。俺が間違うはずがない。絶対にここにいるはずなんだ。いなければならないんだ。
「優樹様! どこですか!」
思わず走り出す。相変わらず地面を蹴っている感覚はないが重力は働いている、そんな気がする。ここはどこだ? 頭の中の回線をたどろうとしたが、もう既に無数の線は見えなくなっていた。
アンドロイドとして誕生してからの俺は足が速いはず。今まで試したことはなかったが、思いきり足を動かしながら前と思える場所を目指して走り続けた。
「はぁ、はぁ、はぁっ。」
何故か体が変だ。続けて走ることができない。顔から水が流れて落ちる。こんなはずでは……こんなはずではなかったのに。
「優樹さまーーーーっ!」
もはや悲鳴に近い声で呼びかける。もしここに優樹様がいなかったら? 俺の選択が間違っていたとしたら? 確かに戻れないという警告を受け取った。もう、優樹様のもとに戻れないのだとしたら? 背中にヒヤリとした初めて味わう感覚が走った。
「嫌だっ! 優樹さまーーっ!」
「どうしたいの?」
その時、どこからか静かな声が聞こえてきた。
「ゆ、優樹様?」
明らかに優樹様とは違う声。今まで記録してきた中では、男性のものか女性のものか判別できない。男としては高く、女のものとしては低く。子ども? 子どもの声か?
「私はただ、ここに漂う者。ここに来るのは貴方が初めてではありません。」
「名前は?」
「……名前と呼ばれるものはありません。」
なんだ? 誰なんだ? ここはどこなんだ? 腹の奥から叫びたい感覚が迫り上がってくる。今までに経験したことのない感覚が恐ろしく、手で顔から滴り落ちる水を拭った。
『服……。』
そこで初めて気づく。俺は服を着たままだった。下を向くとさっきまで履いていたブラックジーンズ。裸足。そして、優樹様が似合うと言ってくれたチェックのシャツ。
「優樹様に会いたいんだ。確かに優樹様の声を聞いたんだ。」
小さな呟きがひとりでに口から出てきていた。
「貴方はヒトではない。」
「分かっている。」
目を上げる。どこから聞こえてくるのか分からない。聞いたことのない声は、前から響くような感じもするし、脳内に直接響いているような気もする。
「それで? どうしたいの?」
再度問われたことに気づき、俺は何がしたくてここに入り込んだのかを考えながら、言葉を紡いだ。
「優樹様!」
声に出して叫んでみる。真っ白な広い空間の向こうに声が抜けていくようなそんな感覚広がった。狭くて遠い? 足を動かすスピードを速めてみる。けれども自分が進んでいるのかすら分からない。足にも地面を蹴っている感覚はなかった。
「優樹様ーー!」
さっきよりも大声を出す。聞いたんだ、優樹様の声を。俺が間違うはずがない。絶対にここにいるはずなんだ。いなければならないんだ。
「優樹様! どこですか!」
思わず走り出す。相変わらず地面を蹴っている感覚はないが重力は働いている、そんな気がする。ここはどこだ? 頭の中の回線をたどろうとしたが、もう既に無数の線は見えなくなっていた。
アンドロイドとして誕生してからの俺は足が速いはず。今まで試したことはなかったが、思いきり足を動かしながら前と思える場所を目指して走り続けた。
「はぁ、はぁ、はぁっ。」
何故か体が変だ。続けて走ることができない。顔から水が流れて落ちる。こんなはずでは……こんなはずではなかったのに。
「優樹さまーーーーっ!」
もはや悲鳴に近い声で呼びかける。もしここに優樹様がいなかったら? 俺の選択が間違っていたとしたら? 確かに戻れないという警告を受け取った。もう、優樹様のもとに戻れないのだとしたら? 背中にヒヤリとした初めて味わう感覚が走った。
「嫌だっ! 優樹さまーーっ!」
「どうしたいの?」
その時、どこからか静かな声が聞こえてきた。
「ゆ、優樹様?」
明らかに優樹様とは違う声。今まで記録してきた中では、男性のものか女性のものか判別できない。男としては高く、女のものとしては低く。子ども? 子どもの声か?
「私はただ、ここに漂う者。ここに来るのは貴方が初めてではありません。」
「名前は?」
「……名前と呼ばれるものはありません。」
なんだ? 誰なんだ? ここはどこなんだ? 腹の奥から叫びたい感覚が迫り上がってくる。今までに経験したことのない感覚が恐ろしく、手で顔から滴り落ちる水を拭った。
『服……。』
そこで初めて気づく。俺は服を着たままだった。下を向くとさっきまで履いていたブラックジーンズ。裸足。そして、優樹様が似合うと言ってくれたチェックのシャツ。
「優樹様に会いたいんだ。確かに優樹様の声を聞いたんだ。」
小さな呟きがひとりでに口から出てきていた。
「貴方はヒトではない。」
「分かっている。」
目を上げる。どこから聞こえてくるのか分からない。聞いたことのない声は、前から響くような感じもするし、脳内に直接響いているような気もする。
「それで? どうしたいの?」
再度問われたことに気づき、俺は何がしたくてここに入り込んだのかを考えながら、言葉を紡いだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる