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目覚めのキス
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「『愼!』とハッキリと優樹様の声が。」
そう言った愼が俺の顔を見たかと思うと、徐に立ち上がった。ゆっくりとテーブルを回って俺の横まできて跪く。目が離せない。愼の視線が真っ直ぐに俺の射抜いた。
「見てください。もう、私を動かしていたはずのバッテリーはありません。」
チェックのシャツを捲り上げた愼が言葉を繋ぐ。そこには以前より少しだけ細くなったウエストがあった。愼が皮膚を引っ張っても弾力があり、中にあるはずの機械が表れることはなかった。
「そしてここ。」
愼の手が俺の左手を掴み、自分の左胸に持ってきた。
「分かりますか? もう私を動かしているのは人工的なエネルギーではない。心臓です。ヒトの寿命は人それぞれなのだと教えられました。」
服の上から手のひらを当ててみても、鼓動が力強く波打っているのが分かる。愼の鼓動を感じるとともに、俺の心臓もなぜかドキドキしてきた。
「私の寿命はいつなのかは教えていただけませんでした。けれども今日1日だけでもいいのです。こうやって優樹様と同じ人間として、想いを伝えられるのなら。」
俺の左手が愼の両手に包み込まれた。温かく、そして大きい。さっきから何か言おうと思っているのに、言葉が出てこなくてただ愼の顔を見つめるだけだった。
「優樹様、愛しています。ヒトとなった私をパートナーとしてまた傍に置いていただけませんか?」
「あ、当たり前だろ?」
何だか鼻の奥が熱くなり、目に涙が滲んでくるのが分かった。
「優樹様は、まだ米田さんをお好きですか?」
「違うよっ。『好きだったんだ』って、前にも言ったろ?」
滲んできたかと思った涙が急激に乾いていくような気がした。何を言い出したんだ、愼は? 愼の顔が少しだけ悪戯っぽく笑ったのが見えた。
「じゃあ、今は?」
「今? えっ? 今って……。」
今俺が好きな人? えっ? 誰も、誰もいないよな? アンドロイドだった愼とそんな話をしたこともないよな? 急に話を振られて頭の中が大洪水を起こしていた。
「夜中に、『愼』と言いながら抱きついてきました。」
「えっ? 嘘?」
愼の笑いが大きくなった。
「本当です。『起きて?』とも言ってました。」
「えっ? 本当に?」
「本当です。残念ながら『好き』とは聞きませんでしたが。」
そう言った愼に腕をグイッと引き寄せられた。思わず体勢を崩して愼の体にダイブする。そして愼の膝の上に跨ぐように座らされた。
「ね? 好きって言って? 私のこと。…………そうすれば、俺は完璧になれる。」
愼から『俺』という言葉を聞いたのは初めてのような気がした。そして、この言い方こそが、アンドロイドとなってからの愼に求めていたことのような気がした。自分が命令するのではなく……愼が自分から……。
「好き……なのかな。」
俺が呟くと、何も言わずに愼が唇を押し付けてきた。温かな唇。重なった唇から愼の想いが感じられる。だんだんと鼓動が速くなり、体がカッと熱くなっていくのが分かった。
『ああ好きだ。俺は、アンドロイドとしても愼が好きだったんだ。』
激しくなっていく口づけを受け止めながら、今までの自分の気持ちがクリアになっていく、そんな気がした。
そう言った愼が俺の顔を見たかと思うと、徐に立ち上がった。ゆっくりとテーブルを回って俺の横まできて跪く。目が離せない。愼の視線が真っ直ぐに俺の射抜いた。
「見てください。もう、私を動かしていたはずのバッテリーはありません。」
チェックのシャツを捲り上げた愼が言葉を繋ぐ。そこには以前より少しだけ細くなったウエストがあった。愼が皮膚を引っ張っても弾力があり、中にあるはずの機械が表れることはなかった。
「そしてここ。」
愼の手が俺の左手を掴み、自分の左胸に持ってきた。
「分かりますか? もう私を動かしているのは人工的なエネルギーではない。心臓です。ヒトの寿命は人それぞれなのだと教えられました。」
服の上から手のひらを当ててみても、鼓動が力強く波打っているのが分かる。愼の鼓動を感じるとともに、俺の心臓もなぜかドキドキしてきた。
「私の寿命はいつなのかは教えていただけませんでした。けれども今日1日だけでもいいのです。こうやって優樹様と同じ人間として、想いを伝えられるのなら。」
俺の左手が愼の両手に包み込まれた。温かく、そして大きい。さっきから何か言おうと思っているのに、言葉が出てこなくてただ愼の顔を見つめるだけだった。
「優樹様、愛しています。ヒトとなった私をパートナーとしてまた傍に置いていただけませんか?」
「あ、当たり前だろ?」
何だか鼻の奥が熱くなり、目に涙が滲んでくるのが分かった。
「優樹様は、まだ米田さんをお好きですか?」
「違うよっ。『好きだったんだ』って、前にも言ったろ?」
滲んできたかと思った涙が急激に乾いていくような気がした。何を言い出したんだ、愼は? 愼の顔が少しだけ悪戯っぽく笑ったのが見えた。
「じゃあ、今は?」
「今? えっ? 今って……。」
今俺が好きな人? えっ? 誰も、誰もいないよな? アンドロイドだった愼とそんな話をしたこともないよな? 急に話を振られて頭の中が大洪水を起こしていた。
「夜中に、『愼』と言いながら抱きついてきました。」
「えっ? 嘘?」
愼の笑いが大きくなった。
「本当です。『起きて?』とも言ってました。」
「えっ? 本当に?」
「本当です。残念ながら『好き』とは聞きませんでしたが。」
そう言った愼に腕をグイッと引き寄せられた。思わず体勢を崩して愼の体にダイブする。そして愼の膝の上に跨ぐように座らされた。
「ね? 好きって言って? 私のこと。…………そうすれば、俺は完璧になれる。」
愼から『俺』という言葉を聞いたのは初めてのような気がした。そして、この言い方こそが、アンドロイドとなってからの愼に求めていたことのような気がした。自分が命令するのではなく……愼が自分から……。
「好き……なのかな。」
俺が呟くと、何も言わずに愼が唇を押し付けてきた。温かな唇。重なった唇から愼の想いが感じられる。だんだんと鼓動が速くなり、体がカッと熱くなっていくのが分かった。
『ああ好きだ。俺は、アンドロイドとしても愼が好きだったんだ。』
激しくなっていく口づけを受け止めながら、今までの自分の気持ちがクリアになっていく、そんな気がした。
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