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目覚めのキス

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「優樹様をお守りするためにアンドロイドとして体を手に入れたものの、自分はやはりヒトとは違う。そう実感いたしました。」

 一昨日の晩のことを思い出す。あれは本当に本意じゃなかったけれど、嫌だったかと聞かれたら……。思わず顔が熱くなるのが分かった。

「この体で優樹様と暮らすようになり、毎晩自分が何をしていたかご存知ですか?」
「えっ?」

 思わずコーヒーを見つめていた顔を上げる。愼は手にトーストを持って、穏やかな顔をしていた。

「毎日同じ。2号に床を掃除させて、私は棚の整理や拭き掃除。洗濯物を干して、自分の体や家のメンテナンスをしても有り余る時間がありました。」

 愼はアンドロイド。そうだ、寝ないんだ。改めて言われて頭を殴られた気分だった。

「そして何もすることがなくなると、よく優樹様の寝顔を見ておりました。」
「な、な、何を。」

 そんなに見つめないで? って言いたいぐらい優しい瞳がこちらによこされて、俺はどうしたらいいのか分からなくなっていた。

「優樹様の寝顔を見ながら、その日1日優樹様がどんなふうに考えて動いていたのかを、ずっと理解しようとしておりました。」

 トーストを皿に戻し、右手を伸ばした愼の指がそっと頬を撫でた。

「愛おしい。体を手に入れる前から感じていたことです。貴方の考えを学び、守り抜くことが使命だと思っておりました。けれど、それだけではなかった。私自身が守りたかったのです。優樹様、貴方を。」

 思わず涙が溢れてきた。愼の温かい手のひらがそっと目元を拭っていった。

「愛している。自分がそう気づいた時には驚きました。そして好都合だと思いました。優樹様が洗面所と浴室をガムテープで覆っていても、何をしているのか何通りかの予想をしておりましたので。ディ・ドを見た時には……ヒトとしての愛し合い方ができると喜びに溢れてしまいました。」

 何か今大事な時間を過ごしている。そんな気がした。こんなに満たされる言葉を貰ったのはいつ以来だろう。俺の19年間の人生の中では一度もないことだった。

「でも、何かが違ったのです。よく考えてみれば、その違いは……自分が所詮は機械であるということでした。」
「愼…………。」

 腕を膝に乗せて、手を体の前で組みながら視線を下にした愼が呟いた。

「疲れ果てて寝てしまった優樹様を見て、激しく後悔いたしました。その時に、優樹様の声が聞こえたのです。」
「俺の声?」
「はい。白い光の中から。」

 顔を上げた愼が真剣な眼差しで俺の顔を見てきた。俺もコーヒーを置いて、次の言葉を待っていた。

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