56 / 65
目覚めのキス
1
しおりを挟む
閉め忘れたカーテンから明るい光がリビングを照らしていた。もう朝だ、起きなくちゃ。温かい腕が俺の首元にズルズルと入り込んできた。枕が取り上げられて、少しだけ意識がハッキリしてくる。誰だ? 俺の体をゆっくりと背後から覆った誰かが、耳元でチュッと音を立てた。
「おはようございます。」
「!」
聞きなれた声。大好きな声が耳元で響き、覚醒して後ろを振り向く。いきなりすぎて、首がグギッと音を立てたような気がした。
「愼!」
そこにいたのは、確かに昨日から動かなくなったはずの愼だった。
「イテッ、イテテテッ!」
痛んだ首元を押さえて涙目になる。こんなに痛んだのは初めてだったけど、そんなことに構ってはいられなかった。
「大丈夫ですか?」
俺の手の上から重ねられた手はとても温かかった。それに柔らかい微笑み……。初めて見た表情。愼ってこんな表情も作れたんだ。
「愼! き、昨日はどうしたんだよっ! し、し、心配したんだ!」
「涙を流すほど?」
愼の手が首から頬に上がってくる。俺は体を反転させて愼に向き合った。
「な、な、泣いてなんかないっ!」
「ふふっ。可愛い。」
目元を愼の指がサッと撫でたかと思うと、愼の体が少しだけ浮き上がり、いきなり口を塞がれた。目を瞑る暇もなかった。温かい愼の唇が俺の口を覆って、舌がペロリと俺の唇を舐めていった。
「じ、愼!」
何だっていうんだ! 調子が狂っちゃう。顔が熱い。何か言ってやらなくちゃ。昨日丸1日、死んだように動かなかったのは何故? 死んだように……そこで初めて俺は気づいた。
「愼。お前、温かい。」
顔をペチペチと触ってみる。頬も額も、首元も温かかった。首を触ったときには、くすぐったそうに愼が少しだけ身を捩った。
「温かいですよ?」
「えっ? えっ? 何で?」
赤いチェックのシャツの上から体を触る。どこも温かい。腕も胸も、脇腹も。
「ふふふっ。擽ぐったい。これがか……ああ、良かった!」
いきなり愼に抱え込まれて、胸元に顔を押し付けられる。愼のシャツの柔軟剤の香りとは他に、今までに嗅いだことのない爽やかな香りがしたような気がした。そして、愼の胸元から聞こえる規則正しい音。
「愼。愼、もしかして……。」
いやまさか、と言葉にするのを躊躇う。でも、じゃあどうして温かいんだ? とまた口にしたくなる。もしかして俺は夢を見ているのかも。とまた言葉が引っ込んでいく。
「そう。私は、人間になれました。」
何も言えないでいるうちに、眩しいほどの笑顔を見せた愼が再び口を覆ってきた。
「おはようございます。」
「!」
聞きなれた声。大好きな声が耳元で響き、覚醒して後ろを振り向く。いきなりすぎて、首がグギッと音を立てたような気がした。
「愼!」
そこにいたのは、確かに昨日から動かなくなったはずの愼だった。
「イテッ、イテテテッ!」
痛んだ首元を押さえて涙目になる。こんなに痛んだのは初めてだったけど、そんなことに構ってはいられなかった。
「大丈夫ですか?」
俺の手の上から重ねられた手はとても温かかった。それに柔らかい微笑み……。初めて見た表情。愼ってこんな表情も作れたんだ。
「愼! き、昨日はどうしたんだよっ! し、し、心配したんだ!」
「涙を流すほど?」
愼の手が首から頬に上がってくる。俺は体を反転させて愼に向き合った。
「な、な、泣いてなんかないっ!」
「ふふっ。可愛い。」
目元を愼の指がサッと撫でたかと思うと、愼の体が少しだけ浮き上がり、いきなり口を塞がれた。目を瞑る暇もなかった。温かい愼の唇が俺の口を覆って、舌がペロリと俺の唇を舐めていった。
「じ、愼!」
何だっていうんだ! 調子が狂っちゃう。顔が熱い。何か言ってやらなくちゃ。昨日丸1日、死んだように動かなかったのは何故? 死んだように……そこで初めて俺は気づいた。
「愼。お前、温かい。」
顔をペチペチと触ってみる。頬も額も、首元も温かかった。首を触ったときには、くすぐったそうに愼が少しだけ身を捩った。
「温かいですよ?」
「えっ? えっ? 何で?」
赤いチェックのシャツの上から体を触る。どこも温かい。腕も胸も、脇腹も。
「ふふふっ。擽ぐったい。これがか……ああ、良かった!」
いきなり愼に抱え込まれて、胸元に顔を押し付けられる。愼のシャツの柔軟剤の香りとは他に、今までに嗅いだことのない爽やかな香りがしたような気がした。そして、愼の胸元から聞こえる規則正しい音。
「愼。愼、もしかして……。」
いやまさか、と言葉にするのを躊躇う。でも、じゃあどうして温かいんだ? とまた口にしたくなる。もしかして俺は夢を見ているのかも。とまた言葉が引っ込んでいく。
「そう。私は、人間になれました。」
何も言えないでいるうちに、眩しいほどの笑顔を見せた愼が再び口を覆ってきた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

オー、ブラザーズ!
ぞぞ
SF
海が消え、砂漠化が進んだ世界。
人々は戦いに備えて巨大な戦車で移動生活をしていた。
巨大戦車で働く戦車砲掃除兵の子どもたちは、ろくに食事も与えられずに重労働をさせられる者が大半だった。
十四歳で掃除兵として働きに出たジョンは、一年後、親友のデレクと共に革命を起こすべく仲間を集め始める。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる