55 / 65
目を覚まして?
3
しおりを挟む
『全て把握しております。』
「おかしいな。データは全て残っているのに。……顔や体をデザインしたのですね?」
田崎さんの言葉で我に返る。あんなに嫌でたまらなかった女の声の管理AIと、愼のことについて話をしていた。顔はもちろん、体を作った時のデータは全く残ってないらしい。しかし、この部屋のカメラのデータや、俺が襲われた時のデータなどは残っているようだった。
「はあ、まぁ……。」
顔や体を決めていった、あの時の楽しい気持ち。あの時の愼はどこに行ったんだ? 急速に現実を突きつけられたような気がして、寂しさが蘇ってきた。
「とりあえずシステムは正常なので、またこのAIの声はお好みに変えると良いでしょう。そうすれば今までと変わらず……。」
「変わらずなんてことない。これは愼じゃない。」
田崎さんの言葉に否定の言葉を返す。今までの記録もデータがあるからこそ理解しているだけであって、一緒に経験して考えてきた「愼」ではないんだ。あの愼には、代わりはいない。
「まぁ、とりあえずはこのアンドロイドを持ち帰らせてください。会社の方で分解をしてさらに詳しく調べてみます。」
「えっ?」
また元のように服を着せられて横たわる愼に目をやる。こうやってみると、人間が横たわって寝ているのと全く変わらない。ただ、動かないというだけで……。
「嫌だ。」
自然と言葉が出ていた。
「もう少し、もう少しだけここに置いて?」
くだらない感傷だと言うことは分かっている。今ここにいる管理AIをまた同じように教え込んで、俺に合うようにしていけばいいだけ。でも今日じゃない。今日じゃないんだ。
それから田崎さんと打ち合わせを続け、2日後に愼を会社に運び込んで調べてもらう、そう決着をつけて帰ってもらった。
「愼……。」
朝から何も食べてなかったことに気づき、田崎さんが帰ってからカップ麺を食べた。風呂も自分でお湯をためて入ってきた。学校を休んじゃったけど、そんなことはどうでもいい。新しい管理AIには今日は何も喋るなと命令した。
歯を磨き、毛布と枕を持ってきて愼が寝ている隣に潜り込む。ヒンヤリと冷たいはずの体が、エアコンの風を受けていたのか少しだけ温かいような気がした。
「お休み。」
上を向いて寝ている愼の横顔を見つめる。眉毛が濃く鼻が高い。まつ毛も……。リモコンで明かりを消す。薄明かりで顔が見えるように間接照明だけはつけておいた。明日もこうやっていよう……。愼と2人で、愼に話しかけて。学校も行かなくてもいいや。
『女々しいよな。』
そう自分で思いながらも愼の横顔を見つめ、なかなか目を瞑ることができなかった。
「おかしいな。データは全て残っているのに。……顔や体をデザインしたのですね?」
田崎さんの言葉で我に返る。あんなに嫌でたまらなかった女の声の管理AIと、愼のことについて話をしていた。顔はもちろん、体を作った時のデータは全く残ってないらしい。しかし、この部屋のカメラのデータや、俺が襲われた時のデータなどは残っているようだった。
「はあ、まぁ……。」
顔や体を決めていった、あの時の楽しい気持ち。あの時の愼はどこに行ったんだ? 急速に現実を突きつけられたような気がして、寂しさが蘇ってきた。
「とりあえずシステムは正常なので、またこのAIの声はお好みに変えると良いでしょう。そうすれば今までと変わらず……。」
「変わらずなんてことない。これは愼じゃない。」
田崎さんの言葉に否定の言葉を返す。今までの記録もデータがあるからこそ理解しているだけであって、一緒に経験して考えてきた「愼」ではないんだ。あの愼には、代わりはいない。
「まぁ、とりあえずはこのアンドロイドを持ち帰らせてください。会社の方で分解をしてさらに詳しく調べてみます。」
「えっ?」
また元のように服を着せられて横たわる愼に目をやる。こうやってみると、人間が横たわって寝ているのと全く変わらない。ただ、動かないというだけで……。
「嫌だ。」
自然と言葉が出ていた。
「もう少し、もう少しだけここに置いて?」
くだらない感傷だと言うことは分かっている。今ここにいる管理AIをまた同じように教え込んで、俺に合うようにしていけばいいだけ。でも今日じゃない。今日じゃないんだ。
それから田崎さんと打ち合わせを続け、2日後に愼を会社に運び込んで調べてもらう、そう決着をつけて帰ってもらった。
「愼……。」
朝から何も食べてなかったことに気づき、田崎さんが帰ってからカップ麺を食べた。風呂も自分でお湯をためて入ってきた。学校を休んじゃったけど、そんなことはどうでもいい。新しい管理AIには今日は何も喋るなと命令した。
歯を磨き、毛布と枕を持ってきて愼が寝ている隣に潜り込む。ヒンヤリと冷たいはずの体が、エアコンの風を受けていたのか少しだけ温かいような気がした。
「お休み。」
上を向いて寝ている愼の横顔を見つめる。眉毛が濃く鼻が高い。まつ毛も……。リモコンで明かりを消す。薄明かりで顔が見えるように間接照明だけはつけておいた。明日もこうやっていよう……。愼と2人で、愼に話しかけて。学校も行かなくてもいいや。
『女々しいよな。』
そう自分で思いながらも愼の横顔を見つめ、なかなか目を瞑ることができなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

オー、ブラザーズ!
ぞぞ
SF
海が消え、砂漠化が進んだ世界。
人々は戦いに備えて巨大な戦車で移動生活をしていた。
巨大戦車で働く戦車砲掃除兵の子どもたちは、ろくに食事も与えられずに重労働をさせられる者が大半だった。
十四歳で掃除兵として働きに出たジョンは、一年後、親友のデレクと共に革命を起こすべく仲間を集め始める。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる