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目を覚まして?

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『全て把握しております。』

「おかしいな。データは全て残っているのに。……顔や体をデザインしたのですね?」

 田崎さんの言葉で我に返る。あんなに嫌でたまらなかった女の声の管理AIと、愼のことについて話をしていた。顔はもちろん、体を作った時のデータは全く残ってないらしい。しかし、この部屋のカメラのデータや、俺が襲われた時のデータなどは残っているようだった。

「はあ、まぁ……。」

 顔や体を決めていった、あの時の楽しい気持ち。あの時の愼はどこに行ったんだ? 急速に現実を突きつけられたような気がして、寂しさが蘇ってきた。

「とりあえずシステムは正常なので、またこのAIの声はお好みに変えると良いでしょう。そうすれば今までと変わらず……。」

「変わらずなんてことない。これは愼じゃない。」

 田崎さんの言葉に否定の言葉を返す。今までの記録もデータがあるからこそ理解しているだけであって、一緒に経験して考えてきた「愼」ではないんだ。あの愼には、代わりはいない。

「まぁ、とりあえずはこのアンドロイドを持ち帰らせてください。会社の方で分解をしてさらに詳しく調べてみます。」

「えっ?」

 また元のように服を着せられて横たわる愼に目をやる。こうやってみると、人間が横たわって寝ているのと全く変わらない。ただ、動かないというだけで……。

「嫌だ。」
 自然と言葉が出ていた。

「もう少し、もう少しだけここに置いて?」

 くだらない感傷だと言うことは分かっている。今ここにいる管理AIをまた同じように教え込んで、俺に合うようにしていけばいいだけ。でも今日じゃない。今日じゃないんだ。

 それから田崎さんと打ち合わせを続け、2日後に愼を会社に運び込んで調べてもらう、そう決着をつけて帰ってもらった。




「愼……。」

 朝から何も食べてなかったことに気づき、田崎さんが帰ってからカップ麺を食べた。風呂も自分でお湯をためて入ってきた。学校を休んじゃったけど、そんなことはどうでもいい。新しい管理AIには今日は何も喋るなと命令した。

 歯を磨き、毛布と枕を持ってきて愼が寝ている隣に潜り込む。ヒンヤリと冷たいはずの体が、エアコンの風を受けていたのか少しだけ温かいような気がした。

「お休み。」

 上を向いて寝ている愼の横顔を見つめる。眉毛が濃く鼻が高い。まつ毛も……。リモコンで明かりを消す。薄明かりで顔が見えるように間接照明だけはつけておいた。明日もこうやっていよう……。愼と2人で、愼に話しかけて。学校も行かなくてもいいや。

『女々しいよな。』

 そう自分で思いながらも愼の横顔を見つめ、なかなか目を瞑ることができなかった。

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