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バレた
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「愼、もう少し離れて歩けば?」
「いえ、心配ですので。友だちのフリを。」
どう見ても大学生に見えない愼が、新調したジーンズとダウンのロングコートを羽織って隣を歩いていた。長めの髪が風にたなびいて視界を遮っても気にしていない。
こんな落ち着いた雰囲気の大学生っている? オマケに俺の古いリュックまで片肩に引っ掛けてる。茶色の色が黒ずくめの姿に全く似合わない。何が入っているのやら。電池か?
結局あれから10日が過ぎて、俺の口の周りの傷はすっかり良くなっていた。手足の傷跡はまだ残っているけど、大分目立たなくなったしジャンパーやズボンで隠れる。頭は打ってなかったらしいが、背中に何故か打撲の痕があるとかで、今でも湿布を貼っている。もうそんなに痛くないんだけど。
佐藤と米田さんは更なる10日間の勾留を受けることになったと、親父から連絡が入った。親父は米田さんの家から謝罪を受けて、それを突っぱねたとか。まぁいい。米田さんにはもう会いたいと思わないけど……。
駅前までやってきた。愼セレクトの音楽を聴きながらぼんやりと考え事をして。いつも米田さんに声をかけられるのはこの辺だったかな、と辺りを見回す。絶対にいないとは思うものの、少しだけ米田さんの姿を探す自分がいた。俺は……会いたいのだろうか?
「そういえば、米田さんは大学を退学になるようです。」
「えっ?」
俺の気持ちが言葉に出ていたかと驚き、つい立ち止まって愼の顔を見上げた。愼も立ち止まり、無表情のままこちらを見て言葉を続けた。
「今、米田さんを探していましたよね。」
「な、なんでそれを……。」
「いつも見ていましたので。いつもここで、辺りを見回していらっしゃいました。今のように。」
顔が熱くなり、赤くなっていくのを感じた。無言でエスカレーターの方へと歩き出す。俺は女々しい。米田さんに彼女がいるって分かっているし、しかもあんな目に遭わされたのに。
「米田さんをお好きなのですか?」
エレベーターの真後ろに乗った愼が呟くのが分かった。愼に知られてしまうなんて、そんなに分かりやすいのか? エレベーターで2階に着き、少し歩いたところで振り返った。
「違う。好きだったんだ。」
愼の顔を真っ直ぐに見て告げる。無表情だった愼の顔が、少しだけ笑顔になった。
「それは良かった。ヒトの心は複雑すぎて、まだまだ私には分かりません。」
「ほら、変なこと言ってないで行くぞ。切符を買わなくちゃだろ?」
愼は笑顔までカッコいいってずるいだろ。大学では目立つんじゃないのか? どうやって愼を大学に馴染ませればいいんだろう?
本当は駅までの護衛ということで説得していた。けれども、絶対に行くという愼に説き伏せられて折れてしまった。やっぱり失敗だったかな、などと思いながら愼を連れて無言で切符販売機の前まで歩いて行った。
「いえ、心配ですので。友だちのフリを。」
どう見ても大学生に見えない愼が、新調したジーンズとダウンのロングコートを羽織って隣を歩いていた。長めの髪が風にたなびいて視界を遮っても気にしていない。
こんな落ち着いた雰囲気の大学生っている? オマケに俺の古いリュックまで片肩に引っ掛けてる。茶色の色が黒ずくめの姿に全く似合わない。何が入っているのやら。電池か?
結局あれから10日が過ぎて、俺の口の周りの傷はすっかり良くなっていた。手足の傷跡はまだ残っているけど、大分目立たなくなったしジャンパーやズボンで隠れる。頭は打ってなかったらしいが、背中に何故か打撲の痕があるとかで、今でも湿布を貼っている。もうそんなに痛くないんだけど。
佐藤と米田さんは更なる10日間の勾留を受けることになったと、親父から連絡が入った。親父は米田さんの家から謝罪を受けて、それを突っぱねたとか。まぁいい。米田さんにはもう会いたいと思わないけど……。
駅前までやってきた。愼セレクトの音楽を聴きながらぼんやりと考え事をして。いつも米田さんに声をかけられるのはこの辺だったかな、と辺りを見回す。絶対にいないとは思うものの、少しだけ米田さんの姿を探す自分がいた。俺は……会いたいのだろうか?
「そういえば、米田さんは大学を退学になるようです。」
「えっ?」
俺の気持ちが言葉に出ていたかと驚き、つい立ち止まって愼の顔を見上げた。愼も立ち止まり、無表情のままこちらを見て言葉を続けた。
「今、米田さんを探していましたよね。」
「な、なんでそれを……。」
「いつも見ていましたので。いつもここで、辺りを見回していらっしゃいました。今のように。」
顔が熱くなり、赤くなっていくのを感じた。無言でエスカレーターの方へと歩き出す。俺は女々しい。米田さんに彼女がいるって分かっているし、しかもあんな目に遭わされたのに。
「米田さんをお好きなのですか?」
エレベーターの真後ろに乗った愼が呟くのが分かった。愼に知られてしまうなんて、そんなに分かりやすいのか? エレベーターで2階に着き、少し歩いたところで振り返った。
「違う。好きだったんだ。」
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「それは良かった。ヒトの心は複雑すぎて、まだまだ私には分かりません。」
「ほら、変なこと言ってないで行くぞ。切符を買わなくちゃだろ?」
愼は笑顔までカッコいいってずるいだろ。大学では目立つんじゃないのか? どうやって愼を大学に馴染ませればいいんだろう?
本当は駅までの護衛ということで説得していた。けれども、絶対に行くという愼に説き伏せられて折れてしまった。やっぱり失敗だったかな、などと思いながら愼を連れて無言で切符販売機の前まで歩いて行った。
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