もこ

文字の大きさ
上 下
44 / 65
バレた

1

しおりを挟む
「愼、もう少し離れて歩けば?」
「いえ、心配ですので。友だちのフリを。」

 どう見ても大学生に見えない愼が、新調したジーンズとダウンのロングコートを羽織って隣を歩いていた。長めの髪が風にたなびいて視界を遮っても気にしていない。

 こんな落ち着いた雰囲気の大学生っている? オマケに俺の古いリュックまで片肩に引っ掛けてる。茶色の色が黒ずくめの姿に全く似合わない。何が入っているのやら。電池か?

 結局あれから10日が過ぎて、俺の口の周りの傷はすっかり良くなっていた。手足の傷跡はまだ残っているけど、大分目立たなくなったしジャンパーやズボンで隠れる。頭は打ってなかったらしいが、背中に何故か打撲の痕があるとかで、今でも湿布を貼っている。もうそんなに痛くないんだけど。

 佐藤と米田さんは更なる10日間の勾留を受けることになったと、親父から連絡が入った。親父は米田さんの家から謝罪を受けて、それを突っぱねたとか。まぁいい。米田さんにはもう会いたいと思わないけど……。

 駅前までやってきた。愼セレクトの音楽を聴きながらぼんやりと考え事をして。いつも米田さんに声をかけられるのはこの辺だったかな、と辺りを見回す。絶対にいないとは思うものの、少しだけ米田さんの姿を探す自分がいた。俺は……会いたいのだろうか?

「そういえば、米田さんは大学を退学になるようです。」
「えっ?」

 俺の気持ちが言葉に出ていたかと驚き、つい立ち止まって愼の顔を見上げた。愼も立ち止まり、無表情のままこちらを見て言葉を続けた。

「今、米田さんを探していましたよね。」
「な、なんでそれを……。」
「いつも見ていましたので。いつもここで、辺りを見回していらっしゃいました。今のように。」

 顔が熱くなり、赤くなっていくのを感じた。無言でエスカレーターの方へと歩き出す。俺は女々しい。米田さんに彼女がいるって分かっているし、しかもあんな目に遭わされたのに。

「米田さんをお好きなのですか?」

 エレベーターの真後ろに乗った愼が呟くのが分かった。愼に知られてしまうなんて、そんなに分かりやすいのか? エレベーターで2階に着き、少し歩いたところで振り返った。

「違う。好きんだ。」

 愼の顔を真っ直ぐに見て告げる。無表情だった愼の顔が、少しだけ笑顔になった。

「それは良かった。ヒトの心は複雑すぎて、まだまだ私には分かりません。」
「ほら、変なこと言ってないで行くぞ。切符を買わなくちゃだろ?」

 愼は笑顔までカッコいいってずるいだろ。大学では目立つんじゃないのか? どうやって愼を大学に馴染ませればいいんだろう? 

 本当は駅までの護衛ということで説得していた。けれども、絶対に行くという愼に説き伏せられて折れてしまった。やっぱり失敗だったかな、などと思いながら愼を連れて無言で切符販売機の前まで歩いて行った。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

オー、ブラザーズ!

ぞぞ
SF
海が消え、砂漠化が進んだ世界。 人々は戦いに備えて巨大な戦車で移動生活をしていた。 巨大戦車で働く戦車砲掃除兵の子どもたちは、ろくに食事も与えられずに重労働をさせられる者が大半だった。 十四歳で掃除兵として働きに出たジョンは、一年後、親友のデレクと共に革命を起こすべく仲間を集め始める。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...