もこ

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アンドロイド

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「味って分かるの?」

 俺は隣に座る愼を見て尋ねた。愼は大きな口を開けて一口齧りついたところだった。口の中には歯もあるし、舌も見える。どの動きも人間と変わりないのが返って不思議に思えた。

「味というか……記録ですね。優樹様が甘いというこのジャムは「甘い」。苦いと言ったこのコーヒーは「苦い」と。些細なことを少しずつ記録していく感じです。」

 よく咀嚼してから飲み込み、こちらを見下ろすように見て愼が言った。身長が高いんだから当たり前だけれど、普通に座高も高い。その大きな喉仏も……羨ましすぎるだろ。

「っていうかさ、その敬語やめない?」
「……敬語、ですか。」

 カジュアルな格好の愼に敬語は似合わない。かといってどこか外国の金持ちが雇っている執事のような服を着せたいわけじゃない。いや、漫画や映画に出てくるような執事って本当にいるのかどうか知らないけど。

「うん、何だか違和感があるんだよな。」
「どのような?」

 マグカップの取っ手を掴み、コーヒーを口に持っていく様はとても上品だ。これはAIとして得た知識がそうさせているのだろうか? それとも、もうこの体の中に組み込まれているのだろうか?

「どのようなって……。」

 そこで俺は気づいた。愼に何を期待しているのだろう? 友だちみたいな関係? 親子、兄弟みたいな? いや、そうじゃない。愼は愼のままでいい。

「まぁ、いいや。」

 俺がそう言って自分のマグカップを持ち上げると、逆にカップを置いた愼がこちらを見てきた。

「そうですか。……この髪形は如何でしょう? もっと短い方が良かったかと。今朝自分の姿を鏡に写してそう思いました。」

 自分の髪に手を持ってきて目をやる仕草も本当に機械とは思えない。癖のある長い前髪が少しだけ視界を遮っているようだった。

「少し横に流せばいいじゃん。」
「優樹様と同じような色にしたらどうでしょう?」
「えっ? 愼は黒が似合うよ。その肌の色だったら絶対に黒だ。」

 俺は髪を染めるのが面倒になり、元の自分の髪色に戻していた。天然の薄い茶色。親父は黒いから、たぶん……母親似なんだろう。

 そう思った途端に、また違う髪色にしたくなる。母親に似ているとは思われたくない。親父にも、他の誰からも。また染めようか。愼のような黒、真っ黒に染めてみようか。

「優樹様の髪の色は素敵です。いつもどうして隠してしまわれるのだろうと不思議に思っていました。」

 素敵? この髪の色がか? 愼のお世辞? でも……嬉しい。愼の言葉を聞いて、何と返せば良いのか分からなくなった。無言でマグカップを口に運ぶ。すっかり温くなったはずのコーヒーを飲んだのに、体の中がじんわりと熱くなっていくような、そんな気がした。

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