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救出

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「お、お、お前……。」
 
 自分の隣に片膝をついて手を伸ばしてきた男。間違いなく愼だ。パソコンの中で一緒に顔を作った。太い眉、高い鼻、そして髪型も。毎日のように話しかけていたその顔が今、実物となって間近にある。

「優樹様の手足となるべくやってきました。」
「愼? に、人間になったのか?」

 以前、体は男か女かと聞かれた。男、そして身長は180㎝以上。その通りの姿でここにいる。愼の手が俺の頬を包み左右に揺らされた。とても冷たい手。

「まさか。とにかく病院へ行きましょう。首元にも酷いアザができています。こちらへ。」

 愼の冷たい手を取って立ち上がると、すかさず愼に膝裏に手を添えられて持ち上げられた。

「じ、愼! 歩く! 歩けるから!」
「優樹、愼に任せろ。とりあえず愼は大丈夫だ。」

 親父の声に我に返る。親父の後ろには、小林さんの姿も見えた。愼にばかり気を取られていて全然気がつかなかった。脱力して愼に身を預ける。愼の体は手と同様にひんやりとしていた。

 親父の車だろう、運転手つきの大きな車の助手席に親父が座り、俺は愼に抱き抱えられたまま後部座席に収まった。隣には小林さんも乗り込む。打ち合わせがしてあったようで、誰も言葉を発しないうちに車がスッと動き出した。




「大したことがなくて良かったな。」

 俺は個室で点滴を受けていた。CTを含めて色々な検査をされた。今は顔に3か所ガーゼを当てられ、両手首がグルグルと包帯で巻かれている。首や足にも何か塗られた。

 あちこちが少しだけ痛むがどうってことない。でも、今日一日だけ入院することに決められてしまった。

「うん。……あれは岡村さんだったんでしょ? ハウスキーパーの。」
「ああ、本名は佐藤浩司。ハウスキーパーをすることでお前を狙ってたんだろうな。」

 親父がベッドの傍に立ちながら話し始めた。小林さんは入り口を固めるように立っている。愼は、この病院へ着くと同時に親父の車でどこかへ行ってしまった。

『愼、ここまでだ。まずは仕上げをしてこい。』
『分かりました。優樹様、また後で伺います。』

 「仕上げ」というのが何か分からなかったし聞く余裕もなかったけど、愼が行ってしまったのは少しだけ心細かった。

「何だか誰か他にボスがいて、指示されているような感じだった。誰か検討はついてるの?」

「ああ、全部警察に話してある。後からお前には話そうとは思っているが、今日はここで安静にしていろ。大丈夫だ。病院側も配慮してくれる。」

 自分が検査を受けている間に警察と話をしていたのか? 俺もこの病室に入ってすぐに、スーツ姿の警官に話をしていた。今日米田さんと一緒に昼食を取るところから、全部。

「少し寝たらどうだ。俺もこれから社に戻らなくてはならない。ここは小林に任せる。」
「はい、大丈夫です。」

 小林さんの自信に満ちた声を聞き、俺も少しだけ気が緩んだのか眠くなってきたような気がした。この点滴はもう少し時間がかかるようだし。

「うん、じゃあ少し寝ようかな。」

 窓の外はもう暗くなっている。今何時なのかはさっぱり分からなかったが、少しだけ目を瞑ることにした。

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