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救出

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『もう少し、もう少しなんだ。』

 自分の体の前で縛られた手首を2人には気づかれないように少しずつ動かして、縄がだいぶ緩んできたような気がしていた。あの後、時間を確認する会話の他に2人が話をする様子はない。

 部屋の中を行ったり来たりしながら、忙しなく動き回っているのは岡村。米田さんは俺の背後の方で床に座っているようだった。

 歩いている様子からも、この部屋はあまり広くはないと感じる。でも咳き込んだ時に一瞬見えた床に、外からの光が反射しているのが見えたから、どこかのアパートかマンションの一室だろうか?

『紐が取れたとして、その後どうすればいい?』

 そんなに背は高くはないとはいえ、岡村に首を絞められた時の力は忘れられない。力では敵わないだろう。それに、米田さんもいるし。

『米田さん、どうして……。』

 思わず涙が滲み出そうになって瞬きを繰り返す。会話を聞いているだけでも、米田さんの本意ではないことは感じていた。でも片棒を担いだのは事実。

「なぁ。さっき俺、3時半って喋ってたよな?」
「えっ? は、はい。3時半と聞こえてました。」
「もう40分なんだけど、おせぇな。」

 岡村が少し苛立っているのが分かる。トントンという足音が目の前を通って、そして少し離れて……止まる。

「車も見えねぇ。何で来るんだ? 歩き?」

 窓から外を見たんだろう。ここは一戸建てなんだろうか? 時間は3時40分。大学で気を失ってから2時間以上が経過したこととなる。

 手首を引き離すように少し力を入れて、戻す。そして捻る。何度繰り返しただろう。後何度繰り返せば手が解放される? 足の縄はすぐに解けるのだろうか?

 自由になったとしたら、とにかく逃げることだ。一階なら窓を突き破ってでも外へ。確認できなければ、ドアを開けて……。

 ピンポーン

「おっ! やっと来たか!」

 岡村の弾む声が聞こえて頭の上で足音が響き、ドアを開けて出ていく音がした。ここは広いのかもしれない。俺はこれからどうなるんだろう。無意識に縄を解こうと手の捻りを激しくしていた。

「佐藤浩司さんのお宅ですか?」
「はい。」

 遠くで声が聞こえる。もうダメなのかもしれない。岡村が言っていた「あの方」に引き渡されて、そして……俺はどうなってしまうんだろう? 最悪な場面は考えまいと思うのに、どうしても頭に思い浮かぶ。

「埼玉県警察のものです。通報により、家の中を確認させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「えっ、えっ、え? ちょっと……ちょっと待って!」
「失礼。」

『警察……。』
 ドヤドヤと何人もの足音が聞こえる。愼、愼だ! 愼がここを突き止めて、そして通報を……。俺は安心したあまりに気が遠くなるような、そんな感覚になっていった。

 
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