30 / 65
暗雲
1
しおりを挟む
「おはようございます。」
マンションを出た所で小林さんが待っていた。一昨日と同じ白い野球帽。ジャンパーをかえて若づくりしているが、かえって怪しさ満点だ。
「よろしくお願いします。あの、もうその帽子は無くとも顔を覚えたので。」
「そうですか。」
たぶんこの人は親父より少し下ぐらいか同じぐらいか……。体が締まっているから若く見えるけど、目尻に皺が見える。ジーンズ姿にカーキ色のゆったりとしたジャンパーを纏った小林さんを従えて駅まで歩く。
このことが愼と昨日話し合ったこと。とりあえず冬休みに入るまでの1か月間は、学校の登下校にはこの人がボディガードになる。愼が不審に思っているのはマンションから駅までの移動の最中らしい。
幾ら払うことになるのだろうか、という心配はしないことにした。どうせ親父も納得していることだ。そして、昨日は電話をしてバイトを辞めさせてもらった。
『ちょうどいい口実になったよな。』
愼にかけてもらった曲を聴きながら駅を目指して歩く。紹介をしてもらった米田さんには悪いけれど、「家の都合で」と言えばそれ以上は追求されないだろう。
今日は駅で米田さんに会うかもしれない。でも家を出る時間を少しだけ早めたからセーフか? そんなことを考えている間にあっという間に駅に着いた。
「ここまで、ですか?」
「いや、王高寺さんが改札を通るまでご一緒します。挨拶は不要です。いつも通りに。」
エスカレーターの乗り口近くで後ろを振り返り、小林さんを見上げる。この駅はこの街のターミナル駅になる。2つの路線が入り込み、都心に出る乗り換えの人々でごった返す所だ。少し立ち止まっただけでも、後ろからどんどん人が追い抜いていってエスカレーターや階段を登っていった。
俺もそれ以上は問わずにいつも通りに流れに入る。2階の改札口をそのまま後ろを振り返ることなく通っていった。
『行った。』
3番線のホームに降りるエスカレーターに向かう途中で後ろを振り返ると、右手を耳の所に当てながら去っていく白帽子の人がチラッと見えた。
「愼、毎日こんな感じでいいの?」
駅のホームに降りて、人混みから少し離れたところまで行って愼に問いかける。すぐに音楽の音量が小さくなって愼の声が聞こえた。
『はい。小林様とお話しする必要はございません。居ないもののように捉えていつも通りに。』
「分かった。」
明日はあの白い帽子を被るのを止めるだろうか。そんなことを考えながら、電車を待つ人の列に並びに行った。
マンションを出た所で小林さんが待っていた。一昨日と同じ白い野球帽。ジャンパーをかえて若づくりしているが、かえって怪しさ満点だ。
「よろしくお願いします。あの、もうその帽子は無くとも顔を覚えたので。」
「そうですか。」
たぶんこの人は親父より少し下ぐらいか同じぐらいか……。体が締まっているから若く見えるけど、目尻に皺が見える。ジーンズ姿にカーキ色のゆったりとしたジャンパーを纏った小林さんを従えて駅まで歩く。
このことが愼と昨日話し合ったこと。とりあえず冬休みに入るまでの1か月間は、学校の登下校にはこの人がボディガードになる。愼が不審に思っているのはマンションから駅までの移動の最中らしい。
幾ら払うことになるのだろうか、という心配はしないことにした。どうせ親父も納得していることだ。そして、昨日は電話をしてバイトを辞めさせてもらった。
『ちょうどいい口実になったよな。』
愼にかけてもらった曲を聴きながら駅を目指して歩く。紹介をしてもらった米田さんには悪いけれど、「家の都合で」と言えばそれ以上は追求されないだろう。
今日は駅で米田さんに会うかもしれない。でも家を出る時間を少しだけ早めたからセーフか? そんなことを考えている間にあっという間に駅に着いた。
「ここまで、ですか?」
「いや、王高寺さんが改札を通るまでご一緒します。挨拶は不要です。いつも通りに。」
エスカレーターの乗り口近くで後ろを振り返り、小林さんを見上げる。この駅はこの街のターミナル駅になる。2つの路線が入り込み、都心に出る乗り換えの人々でごった返す所だ。少し立ち止まっただけでも、後ろからどんどん人が追い抜いていってエスカレーターや階段を登っていった。
俺もそれ以上は問わずにいつも通りに流れに入る。2階の改札口をそのまま後ろを振り返ることなく通っていった。
『行った。』
3番線のホームに降りるエスカレーターに向かう途中で後ろを振り返ると、右手を耳の所に当てながら去っていく白帽子の人がチラッと見えた。
「愼、毎日こんな感じでいいの?」
駅のホームに降りて、人混みから少し離れたところまで行って愼に問いかける。すぐに音楽の音量が小さくなって愼の声が聞こえた。
『はい。小林様とお話しする必要はございません。居ないもののように捉えていつも通りに。』
「分かった。」
明日はあの白い帽子を被るのを止めるだろうか。そんなことを考えながら、電車を待つ人の列に並びに行った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

オー、ブラザーズ!
ぞぞ
SF
海が消え、砂漠化が進んだ世界。
人々は戦いに備えて巨大な戦車で移動生活をしていた。
巨大戦車で働く戦車砲掃除兵の子どもたちは、ろくに食事も与えられずに重労働をさせられる者が大半だった。
十四歳で掃除兵として働きに出たジョンは、一年後、親友のデレクと共に革命を起こすべく仲間を集め始める。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる