25 / 65
体
1
しおりを挟む
電車を降りて改札口を通り抜けると、その男はすぐに見つかった。黒い薄手のジャンパーに真っ白な野球帽。帽子には、三日月のような形の有名なスポーツブランドの黒いマークが付いている。
「王高寺優樹さんですね?」
近づいてみると背が高い。声も低い。ジャンパー越しにも筋肉が盛り上がっているのがわかり、何故だか少しだけドキドキしてきた。
「ええ。貴方は?」
「小林と名乗っておきます。少し後ろから歩きますのでお先にどうぞ。」
名乗っておくって何? 本名じゃないってこと? 初めて会った相手に戸惑い、マンションへ向かって歩き出しながら愼に問いかける。
「愼、今の奴でいいの?」
『はい、大丈夫です。音声で確認を取っております。残念ながら通信手段が限られていまして、容姿は私も知りませんでした。』
駅前の横断歩道で信号が変わるのを待つ間に、チラッと後ろを振り返った。1m近く離れて立ちながら、右の耳に入れたイヤフォンを押さえて何か話しているようだった。
「愼、今奴と話してんのか?」
『はい。優樹様はそのままいつもの道を通ってお帰りください。』
後ろからも、時折小声で「はい。」とか「ええ。」とか聞こえてくる。愼と何かしら打ち合わせをしているに違いない。そのうちに信号が青になり、歩いているうちに気にならなくなっていた。
バイト先へ向かう交差点。ここを右に行って少し歩いたところに「魚正」はある。マンションからも、さほど離れてはいない。今日は米田さんはシフトに入っていたっけ……。
右を向きながらぼんやりと考えていると、いきなり後ろから腕を掴まれた。驚いて後ろを振り返る。
「危ないです。」
無表情の小林さんが、腕を掴んでいた。前を見ると横断歩道は赤。車がちょうど動き出したところで、大きなトラックが前を通り過ぎていった。恥ずかしい……。
『優樹様。大丈夫ですか?』
「ああ、大丈夫。ぼんやりしてた。」
目の前を行き交う車の量が多い。国道で2車線もあるから当たり前だ。だんだんと周りにも人が集まってきて同じ信号を眺める。それからはよそ見をすることなくマンションまで歩き続けた。
「ありがとうございました。」
愼から指示をされ、マンションの前で小林さんに挨拶をする。ボディガードはここまでということだ。マンションの中は安心。
「中に入るまで見送ります。」
浅黒い肌に太い眉。この人に白い帽子は似合わないな。そんなことを思いつつ、頭を下げてからボードに向き合い、マンションの入り口のドアに暗証番号を入力して中に入っていった。
「王高寺優樹さんですね?」
近づいてみると背が高い。声も低い。ジャンパー越しにも筋肉が盛り上がっているのがわかり、何故だか少しだけドキドキしてきた。
「ええ。貴方は?」
「小林と名乗っておきます。少し後ろから歩きますのでお先にどうぞ。」
名乗っておくって何? 本名じゃないってこと? 初めて会った相手に戸惑い、マンションへ向かって歩き出しながら愼に問いかける。
「愼、今の奴でいいの?」
『はい、大丈夫です。音声で確認を取っております。残念ながら通信手段が限られていまして、容姿は私も知りませんでした。』
駅前の横断歩道で信号が変わるのを待つ間に、チラッと後ろを振り返った。1m近く離れて立ちながら、右の耳に入れたイヤフォンを押さえて何か話しているようだった。
「愼、今奴と話してんのか?」
『はい。優樹様はそのままいつもの道を通ってお帰りください。』
後ろからも、時折小声で「はい。」とか「ええ。」とか聞こえてくる。愼と何かしら打ち合わせをしているに違いない。そのうちに信号が青になり、歩いているうちに気にならなくなっていた。
バイト先へ向かう交差点。ここを右に行って少し歩いたところに「魚正」はある。マンションからも、さほど離れてはいない。今日は米田さんはシフトに入っていたっけ……。
右を向きながらぼんやりと考えていると、いきなり後ろから腕を掴まれた。驚いて後ろを振り返る。
「危ないです。」
無表情の小林さんが、腕を掴んでいた。前を見ると横断歩道は赤。車がちょうど動き出したところで、大きなトラックが前を通り過ぎていった。恥ずかしい……。
『優樹様。大丈夫ですか?』
「ああ、大丈夫。ぼんやりしてた。」
目の前を行き交う車の量が多い。国道で2車線もあるから当たり前だ。だんだんと周りにも人が集まってきて同じ信号を眺める。それからはよそ見をすることなくマンションまで歩き続けた。
「ありがとうございました。」
愼から指示をされ、マンションの前で小林さんに挨拶をする。ボディガードはここまでということだ。マンションの中は安心。
「中に入るまで見送ります。」
浅黒い肌に太い眉。この人に白い帽子は似合わないな。そんなことを思いつつ、頭を下げてからボードに向き合い、マンションの入り口のドアに暗証番号を入力して中に入っていった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

オー、ブラザーズ!
ぞぞ
SF
海が消え、砂漠化が進んだ世界。
人々は戦いに備えて巨大な戦車で移動生活をしていた。
巨大戦車で働く戦車砲掃除兵の子どもたちは、ろくに食事も与えられずに重労働をさせられる者が大半だった。
十四歳で掃除兵として働きに出たジョンは、一年後、親友のデレクと共に革命を起こすべく仲間を集め始める。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる