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風呂

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『優樹様、起きてください。』
 
 愼の声で目を覚ます。いつの間にか、2号を抱きしめたままソファで横になっていた。

「う……ん、愼、どこから声を出してるんだ?」

 愼に話しかけながら身を起こす。結構大きな声が天井から響いてきたように感じる。頭が回らない。TVはいつの間にか消えていて、部屋の中は薄暗い間接照明だけになっていた。

『上です。2号を床に。少しだけシステムが変です。誰かがハッキングしてきているようです。』
「ハッキング?」
『はい。』

 2号を床に下ろす。2号は微かな音を立てて触手を揺らしながら、いつもの場所へと戻っていった。少しだけ頭がはっきりしてきた。と同時に足先が冷たいのに気づく。

「は、はっ、はっくちゅっ! ……いや、ハッキングなんて不可能だろ? 親父の警備システム使ってんじゃないの?」

 すっかり湯冷めをしてしまった。出てきた鼻水をティッシュで拭っていると、愼の冷静な声が聞こえた。

『勿論です。そして自分がいる限りは対策は万全です。』
「なら、大丈夫だろ?」

 さっき涙を拭うのに使ったティッシュも一緒に捨てよう。そう思いながら、ティッシュを掴んで立ち上がる。ゴミ箱は、キッチンとの間に広がるカウンターの近く。このソファの隣に置いてもいいかも。

「愼?」
 なかなか返事をしない愼に気づく。どうしたのだろう? ゴミ箱にティッシュを投げ入れて愼に問いかけた。

『優樹様、今日は念の為に、普段着に着替えて荷物を纏めてお休みになっていただけませんか?』
「何? ヤバイの?」

 着替えて荷物を纏めろ? どういうこと? 誰かがこのマンションに侵入するかも知れない、ということだろうか?

『100%安全なシステムはございません。私でさえF.O.企画のシステムに入ることができました。という事は逆もあり得るということです。』

「えっ? 何だか怖いんだけど。」
 ブルっと身震いをする。もうすっかり覚めてしまった体がさらに、冷えていくような気がした。両腕を反対側に回してパジャマの上から思い切り擦る。もう少し生地の厚いパジャマが必要だ。

『大丈夫です。私がお守りいたします。しかし、いざという時のためにお着替えを。』

 愼の頼もしい言葉で少しだけ安堵が広がる。けど、いざという時のためにって……。ここは愼の忠告に従っておこう。

「分かった。」

 鞄のそばにジャンパーを置いて、靴下は鞄に入れておくか。靴は? 靴も寝室へと持ってきておいた方がいいかも知れない。

 すっかり目が覚めてしまった。これから寝ることができるのだろうかと訝りながら、着替えて準備をするために寝室へと向かった。

 
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