自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

文字の大きさ
上 下
53 / 87
遭遇7 〜侑〜

4

しおりを挟む
 ギクっとして後ろを振り向く。そこにはオレンジ色の法被を着た若い男がティッシュを差し出して立っていた。

「携帯の機種変更がお買い得です。どうですか?」
「要りません。」

 返事をして歩き出す。有名な会社名が入った法被。自分のスマホもそこの物だけど、スマホの機種変なんて親に言わなければ実現しないし、それに今のスマホで充分間に合ってる。

「ね、ティッシュだけ受け取って?」

 隣にオレンジ色が見えてまた声をかけられた。めんどくさい。歩きながら差し出されたティッシュを受け取って、エスカレーターの乗り口に入る。けれども、ふと後ろを振り向くと、オレンジ色の男が後ろについてきていた。

「何?」
「いや、君、可愛いなって思って。」

 年は20代? それとも30代? 30過ぎだったと思ってた純が26歳だったと知ってから、どうも男性の年齢って分からない。少し長めのストレートの髪をふんわりと顔に被せているのは年齢を誤魔化すため?

「仕事しなくても良いんですか?」

 精一杯睨みつける。どうしてついてきたわけ? こんな格好で来なけりゃ良かった。ヒラヒラと足に纏わりつくスカート。もう既に、いつものジーンズが恋しくて堪らなくなっていた。

「これから休憩。ね、そこのカフェで一緒にコーヒー飲まない? クロワッサン奢るから。」

 2階に降りたところで腕を掴まれる。だから嫌なんだって。どうして初対面の人と一緒にコーヒーを飲まなくちゃならないの?

「これから彼氏と食事するので。ごめんなさい。」

 男の腕を振り解き、そのまま一階へと向かう。チラッと後ろに目をやると、オレンジの男は2階に佇んだまま、こちらを見送っていた。

『帰ろう。』

 何故か鼻の奥がツンと痛んだ。どうして男って外見に惑わされるんだろう? 自分が可愛い女の子に見えたとしても、心の中まで可愛いとは限らないのに。

 少しだけ滲んできた涙をハンカチで拭いながら、1番近い出口を目指して歩き続ける。とにかく外に出たい。モールにはもう用事がない。

 1番近い出口は「G」のマークがついていた。外に出ると、そこはあまり使わない出入り口。モールの表に面していて、駐車場が広がっている。

『バス停に行かなくちゃ。』

 バスは確か15分毎に出ていたはず。モールの裏側にあるバス停へ向かおうと、建物に沿って歩き始めた。日曜日だからか、小さな子どもを連れた家族とたくさんすれ違う。そういえば、店の中も子どもが多くいたっけ。

 少しだけ冷静になって歩を進める。端まで歩いて立体駐車場の下になる建物の暗い部分へ曲がった途端に、前から来た人にぶつかりそうになった。

「おっと。」
「あ、すみません。」

 地面しか見てなかった。急にピカピカの革靴とジーンズが視界に入る。肩を押さえられてふと上を見ると、その体には純の顔がついていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

とりあえず、後ろから

ZigZag
恋愛
ほぼ、アレの描写しかないアダルト小説です。お察しください。

【R18】貧しいメイドは、身も心も天才教授に支配される

さんかく ひかる
恋愛
王立大学のメイド、レナは、毎晩、天才教授、アーキス・トレボーの教授室に、コーヒーを届ける。 そして毎晩、教授からレッスンを受けるのであった……誰にも知られてはいけないレッスンを。 神の教えに背く、禁断のレッスンを。 R18です。長編『僕は彼女としたいだけ』のヒロインが書いた異世界恋愛小説を抜き出しました。 独立しているので、この話だけでも楽しめます。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

私が一番近かったのに…

和泉 花奈
恋愛
私とあなたは少し前までは同じ気持ちだった。 まさか…他の子に奪られるなんて思いもしなかった。 ズルい私は、あなたの傍に居るために手段を選ばなかった。 たとえあなたが傷ついたとしても、自分自身さえも傷つけてしまうことになったとしても…。 あなたの「セフレ」になることを決意した…。

いけめんほいほい

はらぺこおねこ。
恋愛
僕の周りはイケメンだらけ。 イケメンパラダイスって漫画があったけど。 そんなの比じゃないくらい僕の周りはイケメンが多い。 なんていうか。 なんていうか。 なんていうんだ。 ちっぽけすぎる僕がどうあがいてもそんな人達には追いつけない。 追いついたところですぐに追い抜かされる。 なにをやってもうまく行かない。 これはそんな僕の小さな物語。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...