僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

文字の大きさ
上 下
92 / 104
オオカミは1人だけ

16

しおりを挟む
「ここ……?」
 トモの運転する黒のオフロード車の助手席に収まり、30分ほど時間をかけて連れてこられた場所は、ショッピングモール裏側の職員専用駐車場だった。

 左右に大きく広がったショッピングモール。一目見ただけで100m以上はありそうだ。建物自体は曲線を描くように建てられているから、中はもっと広いのかもしれない。3階建てで、屋上は……駐車場? 左右に螺旋状に車が上っていけるような構造になっていた。

「どうした? 行くぞ?」
 ショッピングモールのロゴ「FOUR」の隣に無数に並ぶ専門店の看板を眺めていると、トモに優しく声をかけられた。

「う、うん。」
 開店前でバックヤードの一角は卸業者のトラックが行き交っている。人も沢山動いていて、たった今到着したばかりの僕たちには見向きもしなかった。

「ここに来たのは初めて?」
「あ、ユウさん、リョウさん。はい、初めてです。」

 いつも間にか僕たちに追いついた2人に返事をする。2人は白の軽自動車に乗ってやってきていた。2人は作業着。僕とトモはワイシャツにネクタイ。綺麗に分かれているのが面白い。

「ここにはいろいろな店が入っているからねーー。一日中楽しめるよ。ゲーセンも映画館もある。食事は一階のレストラン街がオススメかな? 和洋中全て揃ってる。居酒屋もあるんだぜ?」

 居酒屋も? ショッピングモール自体には実家の近くにもあったから、そこにはよく行っていたけど、こんなに大きなものではなかった。一階に小さなフードコートがあって、レストランは5、6軒ほど。確かに居酒屋なんかはなかったはずだ。僕はファーストフード店がお気に入りで、ほとんどそこでしか食べたことがないから分からないけど。

「これから沢山連れてきてもらえばいいさ。さ、カードを出して?」
 気がつくとバックヤードの端にある職員の受付の場所までやってきていた。歳を取った温厚そうなお爺さんが警備員の服を纏って座っていた。そこで3人の後に続いて黄色のカードを差し出す。

「ご苦労様です。お若い方は見学ですね。こちらをどうぞ。」
 カードを返されて何故かホッとする。結構緊張してる。この後何が待っているのだろう?

 ユウとリョウを先頭にして僕はトモと無言で歩いた。バックヤードの通路は僕が思っていたより幅が広く、進む方向には人もあまりいなかった。少し歩いてちょうど開いていたエレベーターに乗り込んだ。

「緊張してる?」
 扉が閉まるとすぐにトモが3階へのボタンを押しながら聞いてきた。

「うん……少し。」
 ちょっとだけ声が小さくなる。初めての場所で緊張が隠せない。でも、トモやユウ、リョウが働いている場所に来れて嬉しいことも事実だ。直ぐに3階に到着して左手に歩き出す。後ろからユウとリョウもついて来た。

「4階にはどうやって行くの?」
 僕がトモの顔に視線を向けると、トモがこちらを向いて優しく微笑んだ。
「隠された扉を使って。」

「そうそう、カズは絶対にビックリする。」
 後ろからリョウが声を掛けて来た。何故だか小声だ。ちょうどその時、右側の扉が開いて、どこかの女性店員が驚いたような顔をしてこちらを見てきた。僅かに垣間見えたところから、女性服の専門店である事が見て取れる。

「おはようございます。」
「「「「おはようございます。」」」」
 女性の挨拶に異口同音で返し、少しずつ行き止まりまで近づいて行った。

「もう少し待って。…………うん、いいな行こう。」
 後ろからユウの声がする。その声が合図だったように目の前のパーテーションの裏側に行くと、トモが壁に手を当てた。途端に音もなく広がった光景に、僕は空いた口が塞がらなかった。

 四畳半ぐらいのスペースに真っ白な螺旋階段がある。壁はコンクリートの打ちっぱなしだけど、上から差し込んでくる明かりで暗くはない。素早く中に入り込むと、自動的に開いた扉はまた壁に変わっていた。

 トモ、リョウ、ユウ、僕の順で螺旋階段を昇っていく。もう少しで4階の床が見えるかどうかというところまで来た時、リョウの声に飛び上がるほど驚いた。

「洸一さん!」
 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...