僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

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オオカミは1人だけ

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 目を覚ますと、目の前に黒い布が広がっていた。トモの香水の香り。そして明らかに僕の右耳がついてるトモの腕。僕の腰に当てられたトモの手……。僕は目を開けた状態で身動きが取れなかった。

「おはよ。起きた?」

 反射的にトモの顔を見上げる。VネックのいつものTシャツから覗くトモの鎖骨と、ビーズクッションに体を預けたトモの優しい微笑みが見えた。腰に当てられていた手が動き、トモが僕の体を仰向けにして乗りかかってくる。

「寝顔が抜群に可愛い。……堪能した。」

 額にチュッとキスが落ちる。そしてすかさず唇を奪われた。僕は応じるのに精一杯。恥ずかしすぎる。誰かと一緒に朝を迎えるなんて初めてだ。しかも自分の布団で……。

 昨夜はトモの布団がぐしゃぐしゃになったと言われて、2人で僕の部屋のロフトへ上がった。風呂上がり、自分は大丈夫だと言ったのに聞き入れられず、僕の部屋から勝手に探し出された下着とパジャマを着せられて、またこの部屋まで運んでもらった。

 ロフトへの梯子だけは自分で上がったけど……。腰が痛くて年寄りのように梯子をゆっくり登って、トモの「絶対に無理だから。」という言葉が身に染みていた。

「だんだん起きるか? 今朝は何が食べたい?」

 何だか……何だか甘いんですけど! 気持ちをどこに持っていったら良いか分からない。布団を引き上げて、顔を隠した。顔が熱いし、トモの身体は僕より体温が高いしで暑かったけれど、この際どうでもいい。

「ピザは食べなっきゃだな。腹減ったろ?」
「ピザっ! 忘れてた!」

 布団から思わず顔を出す。急に自分が空腹なのに気づいた。風呂上がりに洗面所でトモが持ってきてくれたスポーツドリンクを一気に飲み干し、疲れ果ててた僕はピザのことなど一度も思い出すことなく、促されるままに歯を磨いて寝てしまっていた。

「ははははっ! じゃあ先に降りて準備をする。ゆっくり降りてきて? この可愛いパジャマは着替えてくるんだぞ? 1人で降りれる?」
「お、お、降りれるから!」

 トモの持ってきたのはクマ柄のパジャマ。何故かこれが気に入ってるらしい……。トモが僕の腕枕を取りロフトから降りていくのを見送りながら、恥ずかしくなる気持ちを抑えきれなくなって布団の海へ身を沈めた。



「おはよー。」
「おはよう。お腹すいただろ?」

 キッチンに入ると、リョウとユウがいつものように並んで座り、ピザの箱を開けて勢いよく食べているところだった。

「あれ? お2人も食べてないんですか?」
 僕がいつもの場所に座りながら聞くと、ユウが顔を上げて目を輝かせた。

「カズたちもだろ? 他に美味しいものを食べたから。」
 その言葉に自分の失言に気づく。耳がカッと熱くなる。リョウの方を盗み見ると、平気そうにしながらも顔が赤くなっていた。

「ほらほら、カズを揶揄うな。スープ。」
 キッチンで動き回っていたトモが、スープカップを持ってきて2人の前に置いた。トモの顔を見上げると、優しく微笑むトモの顔が近づいてきて目元にチュッとキスをされた。

「ちょっと待ってて。ピザを温める。」
 ちょっと待ってというのはこちらの方だって……。トモの後ろ姿を見送りながら、ますます顔が熱くなるのを感じた。

「それで? 僕たちのことはわかったかな?」
「へっ?」

 リョウの言葉に顔を向ける。リョウの赤い顔はそのままだったけれど、悪戯っぽいいつもの表情が戻ってきていた。

「僕たちの名前を当てて?」
「えっ? リョウさんとユウさんでしょ? え? 違う?」
「苗字は何でしょう?」

 ユウの言葉に黙り込む。トモは小池智治、以前は基治。じゃあ、この2人は……? 苗字だって? 聞いたことはないよ……な?

「加納遼太郎。」
「菊池佑介。」

「えっ? えっ! えええええっ!?」

 突然の2人の言葉に、頭が真っ白になっていった。
 

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